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    ちょりりん万箱

    陳情令、魔道祖師にはまりまくって、二次創作してます。文字書きです。最近、オリジナルにも興味を持ち始めました🎵
    何でも書いて何でも読む雑食💨
    文明の利器を使いこなせず、誤字脱字が得意な行き当たりばったりですが、お付き合いよろしくお願いします😆

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    ちょりりん万箱

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    後来の酒 額から出る汗を手の甲で拭いながら、魏無羨は目前に広がる苗が植えられた田んぼを満足そうに眺めた。
    「魏さ~ん!!休憩しようか~!!」
     遠くから、娘の高い声が聞こえてくる。
    「ああ、わかった~!!」
     ざばっとぬかるんだ水田から足を抜いて魏無羨は畦道を呼ばれた方へと歩いていった。


    「いや~、こんなに大変なんだな、田植えって!」
     出された饅頭にぱくりと噛みついて魏無羨が言えば、10人ほどの老若男女がうんうんと頷く。
    「美味しい米と美味しい水で酒はできる。ここで手を抜いたら、その年の酒は駄目になるんだ」
     腕を組みしかめっ面で答えた老人の横で、孫娘がふふっと笑う。
    「出た、お爺ちゃんの口癖。今年は動けないんだから、おとなしくしててよね!」
     孫娘の注意に老人はフンッと顔を背けた。
    「しかし、魏さん、あんたさんも物好きだねぇ。わざわざ田植えを手伝いたいなんて!」
     恰幅のよい中年女性が、茶請けの惣菜や菓子をみんなに出しながら魏無羨に声をかけた。
    「この米から姑蘇の名物・天子笑が作られるんだろう?米作りが肝心なら手伝いたい!」
     キラキラとした目で話す魏無羨に、これは相当の酒飲みだなと周りは理解する。




    話は10日前に遡る。

    夜狩りの帰り道、長閑な農村の上を御剣で1人飛んでいた魏無羨は道端にうずくまる老人を目にした。
    「じいさん!大丈夫か!?」
    慌てて御剣から飛び降りた魏無羨は、老人の顔を覗き込む。
     脂汗をかいた老人は、腰をさすりながら痛いと動けないでいた。
    「ぎ、ぎっくり腰が出た……」
     老人の近くには荷物の袋があり、大きさからしてかなり重そうだ。
    「じいさん。家は近いのか?」
     老人はゆっくりと首を振る。
    「山、向こうの村だ……まだ距離がある……」
     歩くのは到底無理だと判断した魏無羨は、ひとまず人を呼びに行くことにした。
     老人に手を貸して近くの木陰に腰を下ろさせ、荷物を隣に置く。
    「じいさんの村まで行ってくるよ。じいさん、名前は?」
    「黄一到だ……」
    「わかった。ちょっと待ってろよ!」
     魏無羨は急いで随便に飛び乗ると一目散に村へと急いだ。

    「助けたじいさんが天子笑の作り手の1人だったとはもう縁を感じるよ!」
     にゃははと笑う魏無羨を、初めはみんな、どこの仙門の放蕩息子だろうかと思案していた。
    一家の長である黄一到を助けてくれたことは感謝するが、黄一到が天子笑の作り手とわかるやいなや話を聞きたいと言い出して、胡散臭く思わないはずがない。
     正直、黄一到は酒作りの腕は良くても頑固一徹を具現化したような人物で話上手な方ではなく、かなり無口なので面白くないですよ、と家族は止めた。
    「あ、そんな人物には慣れてるからお構い無く~」
     魏無羨は、あっさりとみんなの心配をはね除け、黄一到から酒作りの話を聞きに毎日家に訪れた。
     昼前にはふらりとやってきて、ぎっくり腰で動けない黄一到から話を聞き、夕方には帰っていく。
     それが1週間も続けば、自然と周りも慣れてきて、黄一到にいたっては今か今かと魏無羨を待ちわびるようにまでなった。
     そして、田植えを家族総出でやると魏無羨に告げたら、俺も手伝うと言い出し、現在に到る。




    「でもね、魏さん。お爺ちゃんがこんな感じで動けないから田植えを手伝ってもらえてありがたいんだけど、ご家族の方から何か言われない?」
     孫娘が心配そうに魏無羨に尋ねた。
     仙門は何かと厳しいと世間では認識されている。いくら魏無羨が時間をもて余す放蕩息子でも、田植えを手伝ってる等と家にバレたら怒られるのでないかと気遣ったのだ。
    「あ~……でも俺、規格外だから」
     やや間を置いて、魏無羨がにへらっと笑うと、途端にみんなが憐れんだ目をした。
     この地の代表である姑蘇藍氏の仙師は皆立ち振舞いも凛々しく、礼儀正しい。
     それに比べたら魏無羨は仙師の印象からかなり外れており、もしかしたら家族の中では穀潰しなのかもしれない。
     いくら社交的で明るくて顔が良くても、仙師として生きていくのは厳しいかもな、と勝手に心配した。
    「人間、好きな様に生きるのが1番だ」
     黄一到の言葉に、その場の誰もがうんうんと頷く。
    「そうそう!例え魏さんが家を追い出されたとしても、うちに手伝いに来ればいいよ!」
     孫娘の言葉にもうんうんと頷く。
    「え?どうして俺が家を追い出される前提なわけ?」
     きょとんとした魏無羨に中年女性は頬に手を当てて軽いため息をつく。
    「そりゃあ、あんたさんがおよそ仙師様に見えないからさ~。うちの爺さんの相手ばかりしている暇な仙師様なんて居ないだろ?」
    「ブッ!暇って!」
     飲んでいた茶を詰まらせ、魏無羨が叫ぶ。
    「いやいや、たまたま暇になっただけで、これでも普段は忙しいよ?それに俺、道侶もいるし……」
    「道侶!?」
    それにはみんなが驚き、魏無羨に詰めよった。
    「確かに顔はいいけど、道侶を養える器かと言われたら、う~む……」
    「魏さんに嫁がれた方は心が広いお方だなぁ……」
    「見てみたいわ……」
    「ひどっ!田植えを手伝ってるのに、俺ってそんな評価なわけ!?」
     好き勝手に言う面々に、魏無羨はトホホと肩を落とす。
    「さあ!残りの苗を植えてしまおう!!」
     休憩終わり!と元気な声に急かされる様に、魏無羨は渋々立ち上がると、途中まで苗を植えていた田へと戻った。





     田を一望できる高台に筵を敷いた上にはご馳走と天子笑の甕がいくつも置かれていた。
    「さあ!田植えも済んだ!みんなで呑もう!」
     わああと誰もが田植えが無事に済んだ安心と空腹に料理に手を出した。
     魏無羨は天子笑を1甕取り上げると、黄一到の近くへと座る。
    「今年もいい田植えができた。魏さん、ありがとう」
    「俺こそ、いい経験ができたよ」
     眼下に広がる田を見ながら黄一到はふっと笑う。
    「田植えが終わればこんな風に田植えが無事に終わった事を祝う」
    「へえ、祝うんだねぇ」
     こくっ、と天子笑を流し込んだ魏無羨も笑った。
    「その節目節目に無事を感謝しながら、我々は生きていくんだ。今年はあんたさんに会えたことも感謝だな」
    「俺?」
     黄一到のいかつい顔が穏やかに見える。
    「人の縁っていうのは不思議さ。そしてそれをあんたさんも知っている。この年になるとね、言葉の端々にその人の生き様が見えてくる。あんたさんがその外見に似合わないような生き方をしてきたことも……」
     ぽりぽりとこめかみをかきながら、魏無羨は苦笑をもらした。
    「やはり年長者には誤魔化せないね、俺は……」
    黄一到は首を横に振り魏無羨の言葉を止めた。
    「酒は米作りが大事だと話したな?米も毎年味が微妙に変わる。つまり、その年に出来た酒はその年にしか味わえない酒になる」
     黄一到は夕日に映える水田を眺めた。
    「だから、楽しいんだよ。その時にしか味わえない酒ってのはさ。人もそうじゃないかねぇ」
    「でも、人はそうそう変われないよ?変わったようで根はそんなに簡単にはいかない」
    「そうさな……ほれ」
     黄一到は遥か遠くの水田の1枚を指差した。
    「あれがあんたさんが植えた田だ。一目でわかる、下手くそだ」
     ごふっと魏無羨は酒を喉に詰まらせ噎せた。
    「ごほっ!酷いなぁ!初心者なりに必死でやったのに!!」
     あっはっはと黄一到は笑う。
    「苗の列はがたがた、株間もいい加減。だがね、浮いてる苗が1つもない。それはあんたさんがちゃんと苗が育つように気をつけて植えたって証拠さ」
     ほえっと魏無羨は水田を見た。
     これが酒になると思えば何故か丁寧にしなくてはと気をつけはしたが。
    「見た目を綺麗にしても根っこが駄目じゃ米にならない。あんたさんは正にあの水田のような人なんだろな」
     だから、これまでの事をわざわざ話さなくてもいいと言われたようで、魏無羨は天子笑の甕をぎゅうと握る。
    「明日からはちょっと忙しくなってなかなか来れないと思うんだ。道侶が帰ってくるからさ」
    「えっ!?お嫁さん、どこかに行ってたの!?」
     孫娘が魏無羨と黄一到の会話を小耳に挟むと割り込んでくる。
    「こらっ!おとなの会話を盗み聞きするな!」
     孫娘のはしたなさに黄一到が怒鳴るが孫娘はそんなことはお構いなしに魏無羨に詰め寄った。
    「ご実家に帰ってたの!?まさか、魏さん、三行半を突きつけられるんじゃ………」
     孫娘の話に、しーんとその場が静まる。
    「えっ、違うよ!公務で居なかっただけだ。それに住んでるのは道侶の実家だし……」
     慌てて否定した魏無羨に背を向けて、家族はボソボソと話す。
    「まさかの入婿!!!」
    「か〰️!その手があったか!」
    「魏さんを婿に迎え入れるなら、なかなか豪胆な嫁さんかもしれないな……」
    「誰も貰い手がなかったのかもなぁ」
     再び憐れんだ視線が魏無羨に向けられた。
    「一体、何の……あ!」
     夕焼けの空の遥か彼方に、人が空に浮かんでいる。遠目でもよくわかる白い校服に魏無羨が立ち上がった。
    「ちょっと失礼!」
     魏無羨は随便を取り出すとそれに飛び乗りそちらに飛んでいく。
    「魏さんの知り合いか?」
     手を翳しながら見ていた黄一到たちは、こちらへ戻ってくる魏無羨と一行に背筋を伸ばした。
    「よっ、と!」
     とんと地面に飛び降りた魏無羨の横には同じく御剣から飛び降りた佳人が立っていた。
     白い校服に白い抹額、端麗で優雅な気品漂うその人に黄一到も皆も息を飲む。
     姑蘇に住んでいてその人を知らないはずがなく、こんなに間近でみる機会など無い。
    「こちら黄大人。天子笑の作り手さんなんだ。黄大人、知ってるだろうけど含光君だ」
    「初めまして」
     藍忘機に損礼された黄一到は慌てて立ち上がろうとした。
    「あー!だめだよ、立ち上がったら!」
     魏無羨が黄一到を止めるが天下の含光君に礼をされてそのままではいられない。
    「無理はしないでください、大人」
     藍忘機にまで止められて黄一到は諦めた。
    「すみません、含光君。今、腰を痛めてまして……」
    「どうぞ、お気になさらずに。こちらこそ魏嬰がお世話になりまして」
     ちらっと隣の魏無羨に視線を向けた藍忘機に、にっと魏無羨は笑う。
    「今日、田植えをしたんだ。今、みんなでお祝いしてたとこ」
    「祝い?」
    「無事に田植えが済んだって祝い」
     眼下に広がる水田に藍忘機は目を細め、すっと指差した。
    「あれが君が植えた田だ」
    「え!?何でわかるの!?」
     見事に当てた藍忘機に魏無羨は驚き、黄一到も息を飲む。
    「君らしい植え方だから」
     藍忘機の口許がふっと緩み、魏無羨を見つめる目元が優しくなった。
    「俺らしい植え方?黄大人からも言われた」
    「ほう」
     藍忘機の琥珀の瞳が黄一到に向けられた。
    「あの田の米から酒ができますか?」
    「え?あ、ああ、米が育てば……」
     しばし考え込んだ藍忘機はそれならば、と黄一到に提案する。
    「あの田からできた米で作る天子笑、出来不出来に関係なく雲深不知処で買います」
    「ええっ!?」
     まだ出来ていない酒を良し悪し関係なく買い上げるという藍忘機の無謀な提案に一同目を丸くした。加えて雲深不知処は禁酒ではなかったか?と青ざめた。
    「おいおい、藍湛!」
     魏無羨も慌てて藍忘機の腕を掴むが、その上から手を乗せて藍忘機は頷く。
    「でも、まだ無事に米が育つかもわかりませんよ?」
     孫娘がおそるおそる言うと藍忘機はゆっくり首を振る。
    「貴方がたは昨日今日酒作りを始めたわけではない。あの酷い植え方の田をそのままにはしないでしょう」
    「そりゃまあそうですけど……」
    「ならば、もう米ができたと変わり無い。そして米ができたなら酒もできる」
     だからその酒を買いたいのだ、と言う藍忘機に、黄一到が笑いだした。
    「含光君はかなりの堅物だとお聞きしたが、なかなかどうして、賭け事の感性もお持ちのようだ。……いいでしょう。そのお話、お受けいたします」
    「お爺ちゃん!?」
    「天下の含光君にそこまで言われてできないなんて言えないだろう?ただね、藍氏の雲深不知処は禁酒なはず。買い取った酒をどうするんです?」
     みんなが1番疑問に思っていたことを黄一到が藍忘機に尋ねた。
    「もちろん、飲みます」
    「あ、俺がね!」
     あっさりと飲むと言いきった藍忘機の横から魏無羨が答えた。
    「魏さん!含光君が買い取られた酒をあんたさんが横取りしてどうすんだい!いくら知り合いでもそれは駄目だよ。あんたさんはちゃんと自分で買いな!」
     中年女性が魏無羨を叱ると、どっと笑いが起こり、これにもみんながうんうん頷く。
    「なんか、俺だけ扱いが酷い……」
     くすんっとしょぼくれた魏無羨の肩にそっと藍忘機が触れる。
    「魏嬰、そろそろ……」
    「あっ、と、もう門限が近いか。じゃあ、俺たちそろそろお暇するよ。ご馳走さまでした!」
     黄一到たちに損礼した藍忘機と魏無羨が踵を返す。
     魏無羨の腕を孫娘が引いて止めた。
     藍忘機はそれに気づかず少し離れて待っていた弟子たちに指示を与えている。
    「魏さん……含光君とお知り合いなの?」
     小声で藍忘機に聞こえないように魏無羨に聞いた孫娘は興味津々だ。心なしか周りも聞き耳を立てている。
    「知り合いも何も、あいつは俺の道侶だよ」
    「へっ!?」
     次から次へと驚かされてはいるが、これが1番の衝撃だった。
    「魏嬰」
    「あ、はーい!じゃあ、また暇になったら遊びに来るよ!酒作りも見たいから。みんな、それまで元気で!」
     軽やかな足取りで藍忘機の方に走りよった魏無羨はくるりと振り返りぶんぶんと大きく手を振ると、藍忘機と一緒に空に飛び立つ。
     その速さは凄く、あっという間に空の彼方へと消えた。
    「え…と…魏さんの道侶って、含光君ってこと……?」
     孫娘の呟きに、どこからともなくため息が聞こえてくる。
    「そりゃあ、含光君なら心が広いわな」
    「あれくらいの方でないと魏さんの相手は務まらないねぇ。そこらへんの女の子じゃ駄目だな。なんか納得いった」
     わいのわいのと好き勝手言いながら、また酒や料理を食べ始める。
     藍忘機と魏無羨が消えた方角を見ながら、黄一到は含光君の元にかって世間を賑わせた夷陵老祖が居ることをぼんやりと思い出す。
    確か名は魏無羨と、そこまで思い出してふっと笑う。
    「夷陵老祖は酒好きだと聞いたことがある……含光君が買い上げたのはその為か」
     道侶が植えた苗からできた米で作られる酒を買い上げた藍忘機の想いの深さが推し量れる。
     またあの含光君にそこまでさせる魏無羨の為人もわかるだけに、お似合いの2人に見えた。
    「早く腰を治して、極上の酒を作らんとなぁ」
     黄一到の呟きは、山裾に消えていこうとする夕陽と共に、静かに消えていった。


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