桜舞う昔、ある若者がいました。
彼は働き者で心根が優しくまた誰からも愛される男でした。
ある春の日、山に入った若者は咲き始めた枝が一本、地面に落ちてるところを見つけました。
昨夜、強い風が吹き咲いたばかりの桜の枝を落としたのかもしれません。
若者はその枝が勿体なく思え、家の花瓶に差すことにしました。
木の枝が桜の花を咲かせるには花瓶では心許ないだろうが、枯れてしまうよりはいいだろう。
そんな軽い気持ちでした。
しかし、意外にも桜の枝は枯れることなく、一つ、また一つと桜の花を咲かせていきました。
若者も、頑張って花を咲かせる枝に心が癒され、毎日話しかける日々でした。
花冷えの寒い夜、とんとんとんと扉をたたく音がしたので、若者は扉を開けました。
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