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    @IzumiKzs

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    ⚓️フェストの突然の供給に翻弄された時にわーっと考えたフロイデ🦈💀小話。
    本当に供給ありがたすぎました…!

    ⚓️フェストの夜のお話「ホタルイカ先輩さぁ、なに勝手なことしてくれてんの?」
    「……へ?」

     乱暴に開いた自室のドア。そこから現れたフロイドに、イデアは思わず間抜けな声を出す。恋人の突然の訪問は今に始まったことではない。ノックを省略されるのも今さらだし、そもそも彼の訪れを見越してロックを解除していたのだから別に問題もない。
     だが、フロイドの言う『勝手なこと』には心当たりがなかったし、何よりもフェスを終えた時には上機嫌だった恋人の不機嫌の原因が分からなかった。まあ、気まぐれウツボのテンションのなせる技と言ってしまえば、それまでではあるのだが。

    「えっと……拙者フロイド氏になにかしましたっけ?」
    「直接オレにじゃねーけど。先輩、オレらのとこの壊れたマシン直したでしょ?」
    「な、直したけど……」

     なんでそんな今さらなことを? そもそも、君もパワーアップしたマシンに慌てるセベク氏が面白かったって、ニコニコ笑顔で言ってたじゃん。
     数時間前に見たばかりの光景を思い出しながら言えば、そうだけど〜と認めながらもウツボの機嫌が治る気配はない。

    「マシンの修理を先輩に頼むって話になった時、ホタルイカ先輩が他のグループの機械を修理するわけねーじゃん、ってオレすげー自信満々に言ったんだよね。なのに速攻で直しちゃうとか、番としてのオレの立場なくない?」
    「ええ……」

     なにその勝手な理屈と頭を抱えたくなるが、なにしろ相手はフロイド・リーチだ。それに付き合いが長くなってしまった今、イチャモンのような言いがかりにも随分と慣れてしまっている。

    「そんなこと言われたって、あのセベク氏がクソでかいマシンをわざわざうちのスタンドまで持ってきて、大声で直せ直せって叫ぶんだよ? あまりの大声にお客さんはビビって近づかなくなるし、拙者に向かって言ってくるからめちゃくちゃ周りの視線も集まるし……。そのうえ壊れた原因が君だって言われたら、直さざるを得ないでしょ……」

     そう。開発したワッフルメーカーが自分にしか扱えなかったのは予想外だったが、裏方仕事に徹することで人目は完全に避けられていたと言うのに。セベクのお陰で一気に注目は浴びるし、最初は無視しろと言っていたB組メンツも客足が遠のいた途端に早く直せという空気になるし、原因がフロイドだと分かった途端にニヤニヤしながら「あ〜それはイデアくんが直すのが妥当かもね☆」なんてケイトに言われてしまえば、イデアに選択肢なんてものはなかったのだ。

    「ちげーし。とどめを刺したのはウミウシ先輩だって」
    「でも、君が等身大のコットンキャンディーを作ろうとした結果って聞いたけど」
    「確かにオレが作ってる時から変な音して黒い煙は出てたけど。ウミウシ先輩が見た途端に爆発したんだから、壊したのはウミウシ先輩でしょ」
    「ええ……」

     いやそれどう考えても壊したのは君だよ、とは思っても言わないでおく。理由を話したからか、多少は上向いてきたらしい機嫌を再び損ねるような真似をするほど、イデアは愚かではない。

    「あーでも、ホタルイカ先輩が直した理由がオレが壊したと思ったからってことなら、オレが壊したってことでもいいけど〜」
    「……ま、まあ、フロイド氏が原因じゃなかったら、パワーを5倍にするオプションはつけなかったかな……?」

     どっちにしろ周囲の圧力に負けて修理はしただろうけど、というのも言わないでおく。
     人生初の恋人が出来てから数ヶ月。イデアの危機回避能力は特定の相手に対してのみ、飛躍的に高まっていた。

    「だよね〜。じゃー許してあげる」
    「ぐえっ」

     にこーっと笑った次の瞬間には、フロイドの長駆がイデアの痩身にぶつかってきた。勢いのついた長身を非力な肉体で支えられるはずもなく、イデアはあっさりとベッドの上でひっくり返る。ソシャゲのデイリーミッションをこなしていたタブレットが、床に見事なダイブを決めた。

    「ねーねー、あれって何倍ぐらいまでパワー上げられんの?」
    「拙者の手にかかれば10倍は余裕っすわ。あとは元々のマシンの構造にもよるけど、排熱処理にも手を加えれば13……15倍はいけるかも」
    「さっすがホタルイカ先輩〜! だったらオレ、今度こそオレより大きいやつ作りたいんだけど」
    「あれ、5倍じゃ出力足りなかった?」
    「わかんね〜。もっかい試そうとしたらワニちゃんがスゲー騒ぐし、めんどくさくなって止めたんだよね。すげー勢いでデカくなるコットンキャンディーに慌てるワニちゃんは面白かったけど」

     言いながらニヤニヤするフロイドの髪を、よほど面白かったんだな……と思いながらイデアは撫でる。
     ポートフェストの締めくくりに、ストンプという演奏で会場を沸かせていたウツボの人魚は、どうやら既に汗を流してきたらしい。仄かな湿り気を帯びるターコイズブルーが、指に心地よく纏わりついてくる。爽やかなシトラスの香りに誘われて、野外活動で疲れ切っていたイデアの瞼が次第に重くなってゆく。

    「どんぐらいで作れそう?」
    「んー……改良だけならすぐだけど……。マシンからなら、一週間ぐらい……?」
    「じゃーさぁ、出来たらジェイドとアズールとクリオネちゃんも一緒にすげーデカいコットンキャンディー作りまくろーぜ」
    「だったら……モストロの使用許可、取っといて……」
    「オッケー。ていうかアズール、今日のメニュー使ってフェアするつもりらしいから、マシン使わせてやるって言えば二つ返事でいいって言うんじゃねーかな」
    「ん……」

     そう小さく唸ったのを最後に、青い唇は沈黙してしまう。代わりに聞こえてきた寝息ごと恋人を抱きしめて、フロイドは大きく鼻から息を吸い込んだ。
     人間よりも鋭い嗅覚を擽る番の匂いは、ひどく甘ったるい。一日中焼き続ける羽目になったらしいワッフルの香りに導かれるまま、擦り寄ってきた白い額に口付ける。日中に流した汗の名残だろう。未だシャワーを浴びていないらしい肌は、わずかに潮の味がした。

    「ホタルイカ先輩、今日は頑張ったもんねぇ」

     よいしょよいしょと腕の中に閉じ込めた青い炎の髪を、先ほどまで自分がされていたのと同じように優しく撫でる。
     最初は面倒だとばかり思っていたポートフェストも、終わってみれば中々に楽しかった。唯一の不満といえば、ワッフルメーカーを自作すると張り切っていた番と暫く会えていなかったことぐらいだ。
     何度会いたいと言っても、スケジュール的にギリギリだし気が散るからと断られ続けるままフェス当日を迎えてしまった。だからこそ、セベクの頼みをイデアがあっさり聞いたと言う事実が、祭りの興奮が冷めるにつれてじわじわと不満に変わってきてしまったのだ。
     だが、その理由に自分が関わっていると聞いた上で、実際かなり睡眠時間を削っていたのであろう番の目の下を彩る濃いクマを見れば、しょーがないな〜となってしまう。後日、一緒に今日の雪辱を晴らせるとなれば尚更だ。なので、その為にも今は恋人にゆっくり寝てもらおうと、フロイドは静かに目を閉じる。
     全身を使った演奏による程よい疲れと、ドーナツで満たされてずっしりと重い腹。加えて、人魚の身には心地よい低めの温もりと規則正しい寝息に誘われてしまえば、這い寄る睡魔に打ち勝つことは難しい。

    「おやすみ、ホタルイカせんぱい」

     微睡の中で告げた言葉に返事はない。それでも、腕の中の身体がわずかに擦り寄ってきた気がして、フロイドの唇がゆるりと笑みを刻む。
     眠りの淵に沈み込む直前。脳裏に蘇った番の姿――ストンプをする自分を眩しそうに見つめていた金色の輝きに、ウツボの喉が嬉しそうにクルルと鳴った。


     後日。調子に乗って等身大を遥かに凌駕する巨大なコットンキャンディーを量産しまくり、モストロをベトベトにした左利き天才カップルがタコの支配人に大目玉を食らうのは、また別のお話である。

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