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    2024年🎃ネタやらくつろぎ🦈BDネタやらを織り交ぜた、ゆるーい感じの🦈BD話です。
    🦈、ハッピーバースデー!

    (2024.11.09)

    #フロイデ
    freudian

    こうして新たな扉は開かれた「ホタルイカせんぱーい!」

     十一月五日、火曜日。
     授業がすべて終わった、放課後のひと時。
     名門魔法士養成学校のガラス張りの植物園をぐるりと取り囲む、緑で満ちた空間の最奥。人気のない野外で膝を抱えるイデアのもとに、明るい声が届いた。
     タブレットを見つめていた琥珀色の瞳が、声の方を振り返る。視界の先。生い茂る木々の合間から、着崩した制服ズボンに両手を突っ込んだ長身がひょこりと姿を現した。
     にこーっと効果音が聞こえてきそうな笑顔で、待ち人が足取り軽く近づいてくる。だが、近くで足を止めたウツボを見上げる勤勉寮の寮長は、対照的なまでに無表情だった。

    「なーに、先輩。どうしたの、そんな顔して」
    「どうしたの、はこっちの台詞だけど。そんな格好で何やってるのさ、ジェイド氏」

     青い唇が呆れたように紡いだ言葉に、沈黙が落ちる。けれど、それもたった数秒のことだった。

    「……おや、もうバレてしまいましたか」

     トレードマークの黒メッシュを本来の定位置に戻し、さっと制服を整えたジェイドが、いつもの口調で話しかけてくる。

    「バレるもなにも、一瞬たりとも騙されてなかったんですが……。むしろ、そんなんでよく拙者を騙せると思ったよね?」
    「そうですか? これまで何度か試しましたが、授業でも部活でもモストロでも、皆さんあっさり騙されてくださったのですが。参考までに、どのあたりに違和感が?」
    「どのあたりって言われても困るんだけど。フロイド氏はもっと、全身でかまってオーラ出しながら尻尾をぶんぶん振ってるワンコっぽいっていうか……。とにかく、君みたいに胡散臭い感じじゃないんで」
    「胡散臭いなんて酷いです、しくしく」
    「その噓泣きが胡散臭いって言ってるんだけど」
    「嘘泣きだなんて、とんでもない」
    「笑顔で言うセリフかな、それ」
    「ですが、なるほど。貴方にかまってほしいという全身から滲み出るようなアピールが判断基準となると、確かに僕には難しいかもしれませんね」
    「ジェイド氏、面白ければ何でもいいみたいなとこあるから……。君とフロイド氏じゃ圧の質が違うし、たとえ全力でかまってアピールされても、たぶん逃げ出したくなると思う」
    「貴重なご意見、ありがとうございます。今後の改善に、ぜひ役立てさせていただきます」
    「いや、改善とかしなくていいから。もうこんなことはしないでクレメンス」

     にっこりと笑う双子の片割れに、イデアは一応という感じで釘をさす。だが、ウンともスンとも言わない物騒ウツボが、こちらの言葉を聞き入れる様子はない。はあ、と再び溜め息をついたイデアは、仕方なく状況を先に進めることにした。

    「それより、拙者をここに呼び出した当の本人はどこに……」
    「だからぁ~、ホタルイカ先輩は騙されないって言ったじゃん」

     途端、まるでタイミングを見計らっていたかのように聞こえた声の方へと、イデアは顔を向ける。そこには、引きこもりの自分をわざわざ外に呼び出したフロイドが、双子の片割れには出せない可愛らしいオーラ全開で立っていた。

    「フロ、イ、ド……し、………。……ひっ!」

     なぜか寮服姿で現れた恋人に、瞬時に覚えた違和感。見逃すことなんて出来るはずもない推しの差分に気づいたイデアの喉が、ひゅうっと奇妙な音を立てた。

    「お、おお、おで、おでこ……」

     青い唇が、壊れたロボットのように訴える通り。珍しくきっちりと寮服を着たフロイドの、いつもは前髪に隠された額が、無防備に外気に晒されている。それは、ここ最近のイデアが夢にまで見る勢いで目にしたいと願っていたものだった。

    「どーお、嬉しい? 先輩、オレのでこ出しスタイル見たいってすげー言ってたもんねぇ」
    「で、ででで、でもっ! フロイド氏は乗り気じゃないって……」
    「だってさぁ、いきなりジェイドが髪型変えて額出し始めたの日に、先輩からもでこ出ししてほしいって頼まれるとか、すげー気味悪いじゃん」

     二人でなんか企んでるみてーで面白くないし、とぼやくフロイドの言う通り。
     半月ほど前。イデアがフォーマルな格好で額を出すフロイドが見たいと本人に初めて直訴したその日、奇しくもジェイドも唐突な額出しスタイルに目覚めていたらしい。
     といっても、イデアが恋人の額出しスタイルが見たいと猛烈に思い始めたのは、麓の街の古本市で奇妙な記憶の欠如を体験した後からで。古本市にいたメンバーに含まれていたジェイドが、唐突な額出しスタイルに目覚めたのもその時かららしいと聞いたイデアは、実はあの記憶の空白にその謎が隠されているのではないか、と疑ってもいるのだが。
     とはいえ、思い出そうとどれだけ頭を捻っても、記憶の欠如が埋まることはなく。訝しそうな恋人に、本当に関わりがあった方が厄介なことになりそうだと思ってからは、あまり深く考えないようにしている。

    「でもそれは、あくまでも偶然で……」
    「わかってるけど。それでも、面白くないもんは面白くねーの。それに、オレのおでこなんて先輩、寝起きにもう散々見てるじゃん」
    「ちょっと待って。あれはでこ出しっていうより、ただの寝ぐせ大乱闘でしょ」
    「けど、先輩はかわいーって言ってくれるじゃん」
    「そ、そりゃあ可愛いけど、拙者が見たかったのは可愛いっていうよりも格好いい感じの額出しスタイルっていうか……」
    「つまり、こういうことだろ?」
    「……ぴっ、ぴぇ、」

     話すうちにガンガン距離を詰めてきていた恋人に顎を掴まれ、視線を合わせないよう俯いていた顔を持ち上げられる。至近距離に展開した★5級の顔は、ヘアワックスで後ろに撫でつけられた前髪と露出した額のせいで、いつもより盛大に大人びて見えた。
     確かに自分はこれを見たかったのだ、という想いと、自分にこんな癖があったとか知らなかったんだけど!? という戸惑いと、これ以上この顔面を至近距離で浴びるのは無理がありすぎる……と助けを求める気持ちで、優秀な頭をぐるぐるとさせながら。この空間にいるもう一人の人物を探したイデアは、いつの間にか双子の片割れが姿を消していたことにようやく気がつく。

    「あ、あれ、ジェイド氏は……?」
    「は? オレがせっかく先輩の喜ぶ格好してやったのに、この期に及んで他のオスの名前を口にするとかある?」
    「い、いやだって、いくら君の兄弟でもこんなところ見られたくないし……」
    「ほんとホタルイカ先輩って、つまんねーこと気にするよな。心配しなくても、アイツならもう寮のパーティーに行ったって」
    「そっか、パーティーに……って、そうだよ! 今日って君たちの誕生日じゃん! なのに、なんで拙者の喜ぶ格好してこんなとこにいるの!? 寮でのパーティー、君も行くんでしょ? だいたい、今日は夜に会うって話だったのに、なにゆえこんなとこに呼び出したのさ!」
    「だってぇ、授業終わったらもう今日はずーっとホタルイカ先輩と過ごしたくなっちゃったんだもん。パーティーにはジェイドが行くからオレがいなくても平気だし、まあ、その対価にってオレの真似して先輩に会いに行かせろとか言ってきたのはウザかったけど、ぜってー先輩は騙されないって思ったし。だから、ジェイドの相手させる対価にって、わざわざ着替えて髪も上げてきてやったんだけど?」
    「な、なるほど……?」

     つまり、この唐突なでこ出しスタイルは、片割れの擬態に惑わされなかった自分に対する、フロイドからの詫び料兼ご褒美らしい。
     テンションや気分や思いつきでフロイドが行動を起こすのはいつものことだし、双子間のやり取りに勝手に巻き込まれるのも、今に始まったことではない。わざわざ外に呼び出されたのは不服だが、人気のない場所を選んだようだし、何よりもフロイドに擬態したジェイドに部屋に突撃されるよりはマシだったと認めざるを得ない。
     それに、乗り気じゃないとノーを突きつけられていた恋人の額出しスタイル、しかも常に着崩した格好をするフロイドのきっちりとしたフォーマルな装いを目にすることができたのは、多少のマイナスポイントを補って余りあるほどのラッキーイベントだ。
     ただまあ、そうはいっても。こんな野外で、なぜか誕生日を祝うべき相手からこちらがプレゼントされたみたいになった、推しの最高姿を堪能する心の余裕は流石に無いので。

    「と、とりあえず状況は理解したので、続きは拙者の部屋でってことで……」

     さっさと場所を移そうと提案するが、ひとつ歳を重ねたばかりの恋人は何やら不満そうだ。

    「えー! 邪魔者もいなくなったし、もうちょっとここでイチャイチャしよーよ」
    「む、無茶なこと言わんといて!? こんないつ人が来るかわかんないとこでいちゃつくとか、拙者にはハードル高いって知ってるでしょ」
    「ここに入ってくる道のとこに立ち入り禁止の札かかってるから、誰も来ないって」
    「なにそれ、拙者が来た時にはそんなのなかったけど」
    「ジェイドが、サービスでかけとくって言ってた」
    「それ、教師に見つかったら拙者たちが怒られるやつじゃん。ほら、バレる前に行くよ」
    「でもオレ、ここでホタルイカ先輩に膝枕したいんだけど」
    「はぇっ? な、なにゆえそんな発想が……? って、うわッ!?」

     また突拍子もないことを、と思った途端、強い力で体を後ろに引っ張られる。とはいえ、その動きは決して乱暴なものではない。なによりも、行為者であるフロイドに悪意がないことをイデアは知っている。となれば、下手に逆らうよりも身を委ねた方が安全だ。
     そう、知識としても実体験としても知っているイデアは、意図的に肉体から余計な力を抜く。なんだか介抱されているような気分で、大人しくし目を瞑ること数秒。イデアはあっという間に、地面に仰向けに寝転がっていた。
     といっても、全身が地面に接しているわけではない。青く揺らめく髪に覆われた頭は、決して心地良いとは言えない硬さの恋人の太もものうえに乗り上げている。
     どこからどう見ても、それは膝枕だった。
     目を開けた途端、こちらを上から覗き込むフロイドの顔――というよりも、あまりにドストライクで逆に直視を避けていた恋人の額が視界に飛び込んできて、慌ててぎゅっと目を瞑り直す。異様なほどに見たいと思ってしまった推しのでこ出しスタイルは、完全な不意打ちだったせいもあってか、その破壊力にいまだ翳りが見えない。
     膝枕というシチュエーションが持つむず痒さも勿論のこと、顔の向き――即ち視界が固定された状態は、あまりにも心臓に悪い。だが、フロイドの指先は容赦なく閉じた目元を突っついてくる。仕方なく薄目を開けたイデアは、どうにか現状を打破するべく状況の把握に乗り出した。

    「……なんでまた、急に膝枕?」
    「んーとぉ、今のオレとホタルイカ先輩って同い年でしょ?」
    「あー。言われてみれば、確かにそうだね」

     ひとつ年下のフロイドが、イデアが誕生日を迎えるよりも早くひとつ歳を取った。それは即ち、数字上の年齢が同じになったということでもある。

    「来月になったらまた先輩が年上になるから、歳が逆転することはないんだけど。でも、少なくとも今はオレが年下じゃないでしょ?」
    「あくまでも数字表記的な観点になるけど、時空が歪まない限りは、そうなるね」
    「だからぁ、同い年の間はオレが先輩のこといっぱい甘やかそ~って思って。陸の人間が恋人を甘やかす時ってどんなことすんの? ってカニちゃんに聞いたら、膝枕とかすればいいんじゃないですかね、って言われたんだ〜」

     だから、イデアが見たいと訴えていた額出しフォーマルスタイルを対価にするついでに、膝枕もしてあげよ〜! と、急きょ思いついたらしい。
     なるほど、それで自分は急に呼び出されたのか、と納得はしたものの。状況を把握して心を落ち着かせるどころか、既に煩い鼓動をさらに騒々しくさせるような返答に、イデアは思わず両手で顔を覆う。

    「うう~……」

     しかし、両手はすぐに外されてしまった。

    「なにそれ、どんな反応だよ。もしかして、嬉しくなかった?」
    「そ、そういうわけじゃないけど……。面と向かって甘やかしたいって言われるとか、予想外すぎて驚きと恥ずかしさが天元突破っていうか、そもそも君の誕生日なのになんで拙者が甘やかされてるのさ……っていうむず痒さに悶えてるところっていうか……」
    「嬉しいか、嬉しくないかで答えてくんねぇ?」
    「……そりゃあ、嬉しいデス、けど……」
    「じゃあ、ごほうびのちゅーして?」
    「さ、流石にここでそれは無理なんで、そろそろ寮に戻りません?」
    「ダーメ。だったらちゅーは我慢するから、もうちょっとこのまま膝枕する~」
    「膝枕へのその異様な食いつき、なんなの? そんなに楽しいもん?」
    「気になるなら先輩もやってみる?」
    「あー……いや、それは来月の拙者の誕生日まで取っておきますわ。またひとつ年上になった拙者に、年下のフロイド氏としては全力で甘えたくなると思いますので?」
    「ふーん、言ってくれるじゃん。オレに甘やかされまくって、その頃には先輩の年上の威厳ってヤツ、すっかり無くなってるかもよ?」
    「フヒッ、そこまで言うなら期待して――……いやコレ、拙者が期待しちゃダメなやつだな」
    「なんで? そこは思う存分、期待しておけよ」
    「ひょえっ……!」

     子どものような声色から一転、艶めいた低音を耳殻に注ぎ込まれて、イデアの背筋がゾクゾクと震える。話すうちに落ち着きを取り戻していた心臓も、再びバクバクと煩い音を立て始めた。

    「髪の毛ピンクになったぁ。先輩、こういう言われ方が好きなんだ?」
    「そ、そりゃあ、あんな完璧な抑揚つけた低音で囁かれたら、拙者の髪も反応しますわっ!」
    「つまり、ちょー期待してるってこと?」
    「ち、ちが……く、は、ないかもしれないけど……」

     さっきから、こちらの心臓は面白いほど年下……今は一時的に同い年の恋人に翻弄されてしまっている。このままでは、確かに年上としての威厳が――そんなものがあればの話ではあるが――危ういのかもしれない。
     なので。すうはあと深呼吸をしたイデアは、なんとか不敵に笑ってみせた。

    「ま、まあ、やれるもんならやってみなよ」

     ふっ、と。こちらを見下ろすオッドアイが、愉しげな笑みに姿を消す。後ろに撫でつけられていたターコイズブルーの一房が、重力に従いさらりと零れ落ちた。
     数拍の沈黙ののち。ちゅ、と小さなリップ音を響かせて、重なった唇が離れてゆく。

    「この体勢、キスはしにくいんだねぇ」
    「……ここじゃ駄目って、言ったと思うんですが?」
    「先輩が言ったのは駄目じゃなくて無理だったし、それって、ちゅーしてっていうオレのお願いに対してだったでしょ? だから、代わりにオレからしてあげたんだけど」

     しれっと屁理屈をこねるウツボに、悪びれた様子はない。だが、こういう物の言い方は、どちらかというと自分がする類のものだという自覚がイデアにはあった。
     これってもしや自分の影響なのだろうか……と。脳裏を過ぎった気づきに速攻で蓋をした異端の天才は、伸ばした指先で恋人の額を軽く弾く。

    「いったぁ」
    「そんなに強くやってないでしょ。それより、膝枕タイムはもうおしまい。君がパーティーを蹴るなんて思ってなかったから、大したお祝いの準備なんてしてないけど。多少のお菓子とプレゼントぐらいはあるから、とりあえず拙者の部屋に引き上げますぞ」

     触れる程度とはいえキスをして、一応は満足したのか。頼りない筋力を駆使して起き上がろうとするイデアに、フロイドが素直に手を貸す。立ち上がって改めて視界に収めた恋人の、いつもより大人びた額出しスタイルは、やはり抜群の破壊力があった。

    「それじゃ、行こっか」

     視線を逸らす口実のように服についた草を払って、イデアは植物園に向けて歩きだす。今は少しでも早く、落ち着ける場所に帰りたかった。

    「んーじゃあ、一回寮に戻ってパーティー寄って適当に食べるもの持ってくんね。ついでに着替えて、髪も直してくるわ」
    「えっ!?」

     だが、背後から届いた言葉を聞き流すことができるはずもなく。自分でもびっくりするぐらいの大声を上げてしまったイデアの後ろから、アハハ、と楽しげな笑いが響いた。

    「先輩、すっげーデカい声だすじゃん。そんなにこの格好が気に入ったの?」

     「違う!」と言ったところで、嘘であることはバレバレだ。それに、否定したところで自分が得るものは何もない。もとより、この貴重な機会を自らの手で潰すような真似が、イデアにできるはずもなかった。

    「そ、そうだよ……」
    「え〜、なに? 声ちいさすぎて聞こえないんだけど」
    「だから、き、君のその格好、拙者的にかなり高得点っていうか、気に入ったってこと……」
    「ふーん? じゃあ、今日はずっとこの格好でいてあげよっか?」
    「あー……いや、ずっと寮服ってのも疲れるだろうから、そこまではしなくていいんだけど。……その、オクタに戻る前に、先に拙者の部屋で……」
    「え? なに? ごにょごにょ言われてもわかんないんだけど」
    「……だから、先に拙者の部屋で撮影会をさせてくだされ……っ! それが終わったら、着替えても髪直しても構わないから!」

     本当は自然な流れで部屋に戻り、記念写真という名目で設けようと思っていた撮影チャンスを逃すわけにはいかない、と。高性能カメラ搭載のスマホを部屋に置いてきた自分を恨みながら、イデアは望みを口にする。当然、揺らめく炎の毛先はピンク色だ。
     しかし、対照的にフロイドはやけに神妙な顔つきをしている。もしかして拙者、気持ち悪がられた!? と。血の気の引いたイデアの薄い身体を、人魚のたくましい腕が抱きしめた。

    「……ホタルイカ先輩」
    「な、なに、」
    「いい感じにおでこ出してるヤツ見かけても、ホイホイついてっちゃダメだよ?」

     どうやら、心配は杞憂だったらしい。だが、代わりに稚魚を見るような視線を向けられ、慌ててフロイドの懸念を否定する。

    「人を節操なしのでこ出し大好き人間みたいに言わないでくれます!? 拙者が興味があるのは、あくまでも君のおでこだけなんで! その証拠に、この前見たジェイド氏のおでこには無反応だったでしょ!」
    「でも、『三日間ぐらい眺めたことがあるんか? ってレベルで新鮮味が無い……』とかなんとか、変なこと言ってたじゃん」
    「だ、だって、マジで謎の既視感しか無かったから……」
    「それはそれで、面白くないんだけど。まあでも、オレってちょー優しいから。このまま先輩の部屋に行って撮影に付き合ってやるし、これからもたまにはこの格好してあげんね」

     てことで前払い〜、と。先ほどより長く口づけたウツボが、ほつれた前髪をかきあげる。そのイケメン仕草を至近距離で浴びたイデアは、ぴえ、と本日何度目かの呻きを上げた。

    「ほら、行くよ~」

     これも甘やかしの一環なのか。よしよし、と頭を撫でられたかと思えば、繋がれた手を優しく引っ張られる。
     同い年にこだわったり、意識しているところが年下っぽくて可愛いんだよなぁ、と思いながら。自分よりも温かい手のひらを、イデアはぎゅうっと力を込めて握り返す。

    「お誕生日おめでとう、フロイド氏」

     そうして、ちょっと驚いたように振り返ったオッドアイに、怒涛の展開で後回しになっていた、対面では今日初めての祝福の言葉を贈る。

    「ありがとう、ホタルイカ先輩」

     一歳ぶん大人になったという自覚のせいか、それとも、いつもよりきちっとした格好のせいか。ふわりと大人びた笑顔を浮かべた恋人に、イデアは再び心臓を押さえる。
     魔導工学の天才たるイグニハイド寮長の、この日の写真フォルダが形の良い額で埋め尽くされたのは、言うまでもない。

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