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    なかた

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    なかた

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    ザビー助けて俺この娘好きなっちゃう(紬万♀)

    ##A3!

     夕方のホームは、家路を急ぐ人でごった返していた。
     紬は役者として舞台に立つ傍、家庭教師のアルバイトをして生計を立ている。そのため、帰宅ラッシュは自分とは無縁のものだと認識していた。ところが、今日は小学生の勉強を見てほしいという知り合いの頼みを引き受け、帰りがちょうど混む時間帯と重なってしまった。
     周りにいる沢山の人が、狭い車内に詰め込まれる様子を想像すると、それだけで気分は憂鬱だ。出勤ラッシュでもみくちゃにされるのに耐えられる自信がないから、入社前に車を買ったと言っていた至の気持ちも今なら理解できる。だからといって、今更誰かに迎えを頼んだり、タクシーを呼んで車移動に切り替えるというわけにもいかない。ホームに降りた時点で、他の選択肢は消えているのだ。
     諦めて、ぼんやりと電車の到着を待っていると、ぽんと肩を叩かれた。人口密度の高い空間だ。一瞬、誰かの腕がぶつかっただけかもしれないと思っが、振り返るとよく見知った顔が紬を見つめていた。
    「万里ちゃん」
    「おー、やっぱ紬さんじゃん」
     制服姿の彼女は、紬と同じ劇団に所属する摂津万里だ。意識していなかったが、紬が先ほど改札を通った駅は、万里が通っている花咲学園高校の最寄駅でもあった。
    「万里ちゃんは今、学校から帰るとこ?」
     特定の部活に所属しているわけではない万里が、帰宅するには少々遅い時間だ。紬の問いに、万里は手入れの行き届いたワンレンボブヘアを揺らして頷いた。
    「そーそー、今日は日直で遅くなったけどな」
    「日直か。偉いね」
     要領がよく、記憶力も高い万里は、テスト前に教科書を軽く読むだけで難なくいい点を取ることができた。おかげで、わざわざ教室にいる意味を見出せなくなり、頻繁に屋上に足運んでは、持て余した時間を潰していたらしい。花咲学園高校は偏差値高い私立高だ。レベルの高い授業に、ついていけなくなる生徒も少なくないと聞いたことがある。
     そんな中、まともに机に向かうこともなく、トップクラスの成績を維持できる万里は間違いなく優秀である。とはいえ、指導にあたる教師の苦労を思うと、過去の彼女の素行を肯定することはできなかった。
     しかし、MANKAIカンパニーで仲間に出会い、打ち込めるものを見つけてから、万里は変わった。最近は同い年で同じ学校に通う咲也の影響もあってか、それなりに真面目な学校生活を送っているようだ。日直のような、雑務をサボらなくなったというのも、変化のあらわれだろう。その点は手放しで褒められる。
    「紬さんはカテキョ帰りだろ? 今の偉いねって言い方、教師っぽかったし」
    「正解。さっきまで小学生に勉強教えてたから、子供に言うみたいになっちゃったかな」
    「つーか。紬さんは普段から、ウチのこと結構子供扱いしてっけどな」
     否定は出来なかった。紬はまだ十代で高校も卒業したしていない万里に対して、子供だという線引きをしている。勿論、一人の人間として、尊重しなくては……という意識がないわけではない。けれど、それ以上に家庭教師として接する相手と同世代の彼女に対して、庇護の対象という感覚が強いのだ。
    「そうかな……ごめんね」
    「……」
     この返答が正解なのか、紬には分からない。そして、万里は何も答えない。制服が不釣り合いに思えるほど、大人びた横顔からは感情が読めなかった。
     沈黙の気まずさに耐える紬に、助け舟を出すようなタイミングで、電車がホームに滑り込んでくる。ドアが開くと、風になでられた水面が波打つように人々が移動を始めた。
    「痛っ」
     声の方に視線向ける。万里の身体のどこかに、サラリーマンが持つビジネスバッグの角がぶつかったようだった。睨まれた男は、素知らぬ顔で車内に乗り込んでいく。
     ドアの向こうは、この場以上に無秩序な空間だ。そこで、より不快な目に遭うの自分ではなく、万里の方だろう。紬は万里の身を案じ、咄嗟に自分が盾になれるスペースに彼女を誘導する。
     ホームで想像した通り、車内はあっという間に人でいっぱいになった。紬がもう身動きが取れないと感じる頃、ドアの閉まる音が耳に届く。
     電車が走り出すと、紬は己の詰めの甘さを思い知ることになった。万里を傷つける可能性がある他人の立ち位置ばかり気にして、自分のことがすっかり頭から抜けていたのだ。紬は今、万里と向き合うように立っている。
    「あの……万里ちゃん」
    「ん?」
     控えめな声で名前を呼ぶと、目尻をアイラインで跳ね上げた勝気な瞳が紬を捉えた。紬は特別小柄ではないのだが、劇団に所属する女性の中でも背が高い万里と並ぶと、身長差はないに等しい。正面にある顔を、じっと見つめているのも失礼だろう。視線を下げると、シャツの胸元は大きく空いて、深い谷間が目に飛び込んできた。紬は肝を冷やし、大急ぎで窓の外に目を向ける。
    「窮屈で辛いだろうけど、天鵞絨駅ま……わっ!」
     言い切るより先に車体が大きく揺れる。反応が遅れ、踏ん張りきれなかった紬は、前のめりによろけた。痛みはない。幸か不幸か、万里の胸がクッションになってくれたおかげだ。
    「紬さんの方こそ、コケないように気ぃ張ってろよ」
    「そうだね」
    「あ、そーだ」
     するり、と万里の腕が背中に向かって伸びてくる。
    「紬さんはウチが掴んどくから」
     この状況で後方に倒れれば、迷惑をかける相手は一人や二人ではない。気遣いはありがたいのだが、それではさらに密着してしまう。それが唯一にして最大の難点だ。華やかで刺激的な香水の香りが、柔らかな身体の感触が、温かい体温が、紬の理性を強く揺さぶる。
     電車が二人が下車する予定の駅に到着するまで、およそ十分。その間、紬は実家で飼っている愛犬ザビーの姿思い出し、自分は巨大化したザビーを抱きしめているのだと思い込むことにした。
    「紬さん、降りねぇの?」
     意識を逸らすことだけに集中していた紬は万里に指摘され、ようやく解放される瞬間が訪れたことに気がついた。
    「ごめん、降りよう」
     短いスカートがはためくのにハラハラしながら、万里の後を追って、天鵞絨駅のホームに降り立つ。目に映るのは、見慣れた内装だが、なぜだか吸い込んだ空気が新鮮に感じられた。
    「なんか顔色悪く見えっけど、大丈夫か?」
    「平気。今までこんなに混んでる電車に乗ったことがなかったたから、ちょっと疲れちゃったのかも」
     万里が間近にいたせいで、気疲れもしているとは言えなかった。
    「ザビ……じゃなかった。万里ちゃんは? 大丈夫?」
    「ヨユーヨユー」
     万里の明朗な笑顔を見て、紬はほっと一安心した。苦労が報われたのだ。
    「そういやさぁ」
     改札に向かう途中、万里が急に立ち止まる。それに合わせて紬も足を止め、話の続きを待った。
    「紬さん、ウチのこと子供扱いしてるって言ったけど、別にそんなことないんだな。くっついてた時、なんか硬いのあたっ」
    「それ以上は言ったらだめだよ!!」
     テラコッタカラーの唇から、とんでもない言葉が出掛かかる。それを紬が必死で食い止めると、万里はいたずら好きの子供のように舌を出した。
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