月よ聞いてくれ「はぁ」
ファブリックソファの座面に足を上げ、背中を丸めたルームメイトがため息をつく。それも、これでもかというくらいわかりやすく、盛大に。
一度やニ度なら知らんぷりしていただろう。だが、今のでちょうど十回目。こちらの我慢もそろそろ限界だ。
俺が趣味で続けているブログは、どの投稿にもそれなりの数のコメントが寄せられている。返信するかは別として、たまにはそれらに目を通そうとノートPCを操作していたが、もうそんな気分ではない。液晶モニターをは手前に倒して、そこだけどんよりとした空気が漂うソファの前に足を運ぶ。
部屋にいる間、ソファに身を委ねた茅ヶ崎がそこから一歩も動かず、手にしたスマホの画面にかじりついている。という光景を、俺は毎日のように目にしていた。とはいえ、指の一本も動かさず、ただ注視しているだけという状況は珍しい。おそらく、ゲームをしているわけではないのだろう。動画配信サービスを利用して、アニメでも観ているのか。それとも――
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