なぐさめて「はぁ……」
自分にあてがわれた執務室のソファで、太宰はため息を吐いた。先程の任務で、失敗をしてしまったのだ。太宰持ち前の頭脳で編み出す作戦に、間違いはなかった。結果的に云えば、作戦は成功したのだ。ただ、中也が怪我をした。あろうことか太宰を庇って。
「予想外、だったな」
太宰は、まさか中也が自分を庇うなんて考えもしなかった。太宰と中也は犬猿の仲だから。たとえ歩み寄ろうとしても、その距離は縮まらないだろう。それほど太宰と中也は合わないのだった。
「あの馬鹿犬、なんで私を庇ったのかな」
中也には、太宰自ら囮になることを伝えてあった。自分が危なくなっても、敵を葬ることを優先しろと云い聞かせたのに。太宰は「あわよくば死ねる」と思っていたので、自分の生死は正直な所どうでも良かった。しかし、それで中也が怪我をしたことに不満があった。
「あぁもう、文句を云わないと気が済まない!」
幸い中也の怪我は軽く、擦り傷と打撲だけで済んだ。太宰に向けて発射された銃弾を当てさせまいと、中也は太宰を突き飛ばした。銃弾ごとき、中也であれば異能力を使って簡単に止められたはずだ。しかし、中也は突然の出来事に冷静さを失ったのか、とっさに太宰を突き飛ばした。中也と太宰は距離が離れていたため、中也は全速力で太宰のもとに走った。そして、突き飛ばした勢いのまま盛大に体を打ち付け、擦り傷を負った。任務終了後、太宰は中也を真っ先に医務室へ放り込んだのだった。
治療も終わっている頃合いだろうと、太宰は医務室へ向かった。
***
「中也!」
太宰が医務室に着くと、中也の治療は既に終わっていた。「念の為暫く安静にしておけ」と云われたのだろう。中也はベッドに、目を開いたまま横たわっていた。太宰の姿を見つけると、打撲で済んだとはいえ痛そうにしながら体を起こした。擦り傷の範囲が広いせいか、包帯を巻いている部分もある。
「なんだよ、太宰」
「『なんだよ』じゃないよ。なんで私を庇ったのさ」
「つい、体が動いちまったんだよ。いいだろ? 痛いのは俺だけなんだから」
中也は太宰を上手く庇った。突き飛ばしながらも、中也自身が下になるように体の向きを変えたのだ。おかげで太宰は無傷で済んだ。
「良くないよ、そんなの!」
「手前だって囮になる作戦立てたじゃねぇか」
「私は別にいいんだよ」
「俺にとっては、全然良くないんだが?」
「なんで?」
「仲間が傷つくのは、やっぱり見たくねぇ」
「私のことを、仲間だと思っているのかい?」
「手前は仲間っつーか……。もっとタチの悪い、何かだ」