待って、いつから好きだったんですか○社会人なヒロ慶○
「で、この前木戸の結婚式いったら「お前と佐倉が式挙げるときは呼べよ」って言われて!」
なんでそうなるんだよ~!と叫んだヒロはビールを一気にあおった。幾度となく飲んできた中でも、今夜は一段と荒れている。まあ似たような経験があるからその気持ちもわからなくはないが。
「俺はただの最古参強火佐倉担なんですう~!あっ、すみません、生ください!」
器用な後輩は愚痴の合間に注文を挟んでいたが、注文をとった店員の様子までは気が回らないらしい。興味深そうな目で見られてんぞお前。佐倉ってどのグループのアイドルだろって思われてんじゃないのか。
「慶さんもそうでしょ?正人さんと付き合いたいんじゃなくて幸せになってほしいみたいな!」
急に俺に矛先が向けられる。さっきの店員がこちらをチラ見したのがわかってより居たたまれない。数日間は各種SNSの巡回を強化しよう。ネタにされたらたまったもんじゃない。
「慶さん聞いてます~?もう酔っぱらっちゃった?」
「酔っ払いはお前だアホ。まあ似たようなもんだ、恋愛対象外だよあいつは。さっき頼んだやつ飲んだら帰るぞ」
「えー、まだ飲みましょうよ!」
渋られたが他にも行きたい店があると言えば二次会!行きましょう!と機嫌が良くなった。話題も切り替わったしやっと落ち着いて酒が飲める。
ーーそう、落ち着いて酒を飲んだ。結局三次会まで行ったはずだが、それ以降の記憶がない。
あたりを見回すと見覚えのある大手ホテルチェーンの部屋だった。何度か出張で使ったから間違いない。ただ問題は、隣にヒロが寝ていること、お互い裸であること、俺の腰から下に違和感があることの三点だ。
状況証拠が揃いすぎていてもう推理もクソもないが、現実逃避をするくらいは許されたい。酒の勢いとはいえヒロとやっちまうとか佐倉に申し訳がたたなさすぎる。
……いや、待て。こいつは昨日なんて言った?
『慶さんが好きです。俺が恋してるのは佐倉じゃなくて、ずっと慶さんなんで。チャンスくれませんか』
途端に昨日の記憶が全部戻ってきてしまう。ああ最悪だ、こんなルートのはずじゃなかったのに。
「『俺はまだ恋かは分からないけど、恋人はじめてみてもいいぞ』、覚えてますよね慶さん」
いつの間にか起きていたらしいヒロが慶さん顔赤くてかわいいとか抜かしてきたので、ひとまず無言で枕を顔面めがけてぶん投げる。覚えてるっての馬鹿。
調子のりましたすみません、腰大丈夫ですか?と気遣ってくるが、もう少しやり返したい。
「昨日のあれ、嘘な」
「ちょっと待って何それ?!」
さっきまでの様子はどこへやら、待って振られるなら心の準備させて、と頭を抱えだすヒロの耳元で言ってやる。
「告るまでが遅いんだよ、待ちくたびれそうだったぞ」