後悔するだろう「で、どうしてこうやったわけ?恵たち今日オフだよね?」
五条先生のマンションのベランダへ着地したと思えば、手を引いて部屋の中へと入れられた。
「これからのことなんだけどさ」
靴を脱ぎ、手に持ったそれを玄関へと運ぼうとした俺に先生はため息をついた。
「あー、まず説明」
ソファーにふんぞり返った五条先生。その場で今日あったことを話した。
珍しく三人揃って休日だったこともあり、釘崎がショッピングだ!と騒いで、辞退するも聞いてくれないのはこの三年で嫌というほどわかっているので、連れ添って出かけた。その呪霊とあったのは帰り道のことだった。虎杖が少し離れている間、アイツが持っていた荷物を俺が両手に抱えていた為初動が遅れた。釘崎の攻撃より先に目の前から噴出される霧のようなもの。戻ってきた虎杖が一番それを被って、そのまま蹴り飛ばせばその呪霊は黒い煙を上げて消えた。
咳き込みながら周りを確認すれば、釘先がいた場所に大きな影。虎杖かと思えば突然聞こえた知らない低い声に驚いた。
「ちょっと!なにこれ!きっつ!!」
男の怒った声に顔をしかめれば、晴れた霧の向こうから釘崎の服を着た男が現れた。
「は?」
俺から出たはずの声は高く、思わず喉に手を当てて驚いた。触れたそこがいつもより細く感じたからだ。
「伏黒!?」
こちらを目を見開いて見下ろす虎杖に俺は自分の体の異変に気づいた。なんか小さくなってる?
「えっなにこれ!さすが私イケメンじゃん!!」
そう言って釘崎の服を着た男は鏡をのぞきこみ叫んでいた。は?どういうことだよ。
「そこの女子、もしかしなくても伏黒だよな?」
女子?なに言ってんだって口にする前に腕に触れた柔らかいもの。
「はぁ!?」
思わず両手で掴んだそこは、今鍛えてる真っ最中の胸筋が脂肪の塊になっていた。
「なんでだ??」
シャツを引っ張り上から覗き込めば見慣れない二つの膨らみ。どうみても胸筋ではなくおっぱいがそこにあった
「どうやら私と伏黒だけ性転換してるようね。それにしても、虎杖が一番近かったはずなのになんともないのよ」
釘崎の服を着た男は着ているシャツのボタンを外しながらそんな事を言う。
「なにか条件があるのね……まぁそんなのは帰ったらわかるわ。伏黒」
「は?」
「交換よ」
そう言って差し出された釘崎のシャツ。
「早く脱いで私にアンタの服貸しなさいよ」
「それで野薔薇が恵の服着てたってことね」
「――はい」
「ふーん」
「すみませんでした」
「それは何に対して?」
「反応が遅れた」
「そうだね。まぁ僕は面白い呪いにかかってんな~くらいにしか思ってないけど」
「でも、怒ってますよね?」
「そうだね、なんでだと思う?」
それがわかんねぇから困ってんだろ、と睨めば手が伸びてきた。
「これ、野薔薇に掴ませたよね?」
そう言って掴んだのは俺の左胸だった。あぁ、確かに痛いくらい掴まれたな、と思うと同時にムカついた。
「あれは不可抗力だろ!?」
「そうかもしれないし、恵が油断してるからでもある」
「はぁ?」
「そもそも僕のなのに!なんで野薔薇が触るのさ!!」
「あんたのじゃねぇし」
「いーや!恵の体は余すとこなく僕のになるの!」
「それ拒否ってんのアンタだろ」
十八の誕生日まではだかないって……あ」
「気づいた?」
「……えっ、うそだろ?」
今日十二月十八日。
「一週間後って」
「そうだよ、誕生日女の子なんだよね恵」
「はぁ!?」
「いや、もうこれはクリスマスイヴにセックス決定だね」
「え、女でしないんすか?」
「女の子はねー別にいいかな」
「なんで、ですか」
やっぱり今までたくさんの人と
「いやー無理でしょ」
「……っ」
「そうじゃなくて!恵そこまでして僕としたいの?」
「……してぇよ」
「うーん、今はやめとこ」
「なんでですか?処女は嫌いですか!?」
「後先のこと考えてみな?」
どういう意味だ?
「もし今僕が君を抱くだろ。すると戻った時に君は考えるよ。男なんかより女の俺の方が……ってね」
それは確かに有り得ることかもしれないが。
「確かに男は面倒だよね。洗浄して、濡らして、解して。やっと入れらると思っても細菌感染予防にゴムは必須だ。まぁ女の子でも妊娠問題があるからゴムはいるけどね。そういう意味では女の子も面倒だから、恵は大人しく女の子を満喫しつつ一週間過ごして、戻った時にケツ洗って待ってな」
「……言い方」
「まぁそういうことだから、僕はこれから任務に出るよ」
「あ」
「そんな顔しないで。誰が来てもドア開けない。わかった?」
「わかりました」
「はは、そんなふくれっ面しない」
してません、そう言おうとした時目の前に影が出来、唇がそっと重なった。
「え」
なんにもしないんじゃないのかよ、そう口にする前に五条先生は体を起こし腰を数度わざとらしく叩いた。
「やっぱりいつもの身長じゃないとキスひとつするのに腰を痛めるね」
「……アンタがでかいからだろ」
「アッチもでかいよ?」
「バカだろ」
「いやまじで。恵に時間かけるけど覚悟しときなよ?」
そう笑ってベランダへ出て消えた背中にため息がこぼれた。そんなの知ってるし、付き合うと決めた時から勉強を怠ってねぇっつーの。アンタこそ覚悟しとけよ。そう思いながら、いつもより低い視点に違和感はあるが、なんとかなるだろう。
確かに五条先生の言っていることも理解できる。後悔するだろう、今だってその気持ちがない訳では無い。こんな貧相な体でなく、もう少しボリュームのあるものだったら……いや、それもないか。予定が少し伸びたけど、まぁいい。冷たい空気に身震いしながら、窓の鍵を閉めた。