何をやってもうまく行かない、仕事も生活も何もかもだめだ。俯きながら歩いていると目の前の人にぶつかった。
「ちょっと何しょぼくれてるのよ!」
目の前にいたのはシルクハットを被ったマジシャンのような格好をした・・・
「男ですか?」
「失礼なこと聞かないでよねぇ~一応男だけど」
性別を聞くのは失礼なことだったようだが男だった。
「お兄さん、ちょっと僕のところで占ってあげようか?」
「占いの人ですか?」
「占い師兼マジシャンってとこかな~」
その人は僕のことをチラチラと見ていた何かを誘っているような気がしたのだが気のせいだろう。
「あの、いくらで?」
「代金?いいのいいのそんなものは」
見た目に反して結構気さくで話しかけやすそうな人だ。俺はその人について行くことにした。
「今日は公演の予定がないからね」
そう行って連れてこられたのは地下ステージだった。赤と黒のエキゾチックな内装で見方によっては何処と無く危ない感じがした。
「普段ならここはお客さんで満員なんだけどね」
そう言いながら、机と椅子を引っ張り出して設置した。
「ゆっくりとして」
座るように促されたので座った。
「こんなものしかないけど」
お茶のペットボトルと菓子が入っている盆を出した。とりあえずありがたく頂戴することにした。
「で、本題なんだけど。なにかに悩んでいたように見えたけど」
「はい、最近仕事が上手く行かなくて、付き合っていた彼女とも分かれて・・・」
「それは災難だね~それじゃあ君の運勢がよい方向に向くように占ってあげるよぉ~」
なんだか胡散臭そうな態度でいるが、今はこの人に賭けるしかないであろう。
「へぇ~なるほどねぇ~」
カードを見ながらなにかを呟いているタロットを使うのか。
「結論は出た」
「ど、どうなんですか?」
「簡単に言えば良い方向に向かうってことね~」
ニコニコとカードを見せてきた。逆位置の死神だ。
「とりあえず運が尽きない内にとっとと行動に移しな~」
「ありがとうございます!」
俺は礼を言って急ぎ足で出ていった。それからと言うものの仕事も上手く行って、生活も良くなり更には愛人まで手にいれた。けれど、最後に見たのは
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《昨日、東京都渋谷区の幽玄坂付近の工事現場で足場が崩れる事故が発生し──》
「僕に占ってもらうなんて、運の尽きだね」
俺はテレビを見ながら呟いた。一人が幸せの絶頂からドン底に落ちるのを見るのはもう慣れている。だって俺は守りたいものを守るためならなんだってやるから。たとえ自分が悪になろうとも、どんな手段を使っても金と権力を手に入れる。