些細な喧嘩だった。内容はもう覚えていないぐらいくだらない口喧嘩。時間が経てば笑い話になる程の…。
テーブルを挟んで向かい合うKKと暁人は周りに人がいない為口喧嘩は収まることなく関係ない話にまで発展した。それを止めたのはKKの深いため息だ。
そのため息にハッとなった暁人はKKに謝ろうと顔を見るとKKはあからさまに瞳をそらす。
その瞬間暁人の中にある想いが散るなんて思っていなかった…。
閉じ忘れて開いたままだった窓から雨音と共にどこからか聴こえるピアノの音、まるで唄ってるかのように…
目の前のKKは一言も話さず目も合わせてくれない。いつもなら些細な喧嘩でも謝りあって仲直りして抱きしめてくれるのに…嗚呼…終わりなのか…と暁人は俯き涙を一筋零す。
彼の、KKの優しさに慣れすぎたのだ…。
暫く2人は無言のままだったがその無言の状態もすぐ終わる。KKが突然立ち上がり廊下の方へ歩いて行ったのだ。暁人は何も言えず追えず、徐々に消えていく足音だけ部屋に響いた。
だがここはKKのアジトだ。KKは頭を冷やすために外に出たのだと思う事にして暁人は目元を拭う。
だがきっとKKは暁人の名を呼んでくれない。そしてこれが終わりの合図なのだと、そう、理解した。
そっと立ち上がると玄関に向かい靴を履く。鍵を閉めなきゃと思うがKKは鍵を持って行ってないから不用心だが鍵を開けたままにしよう。KKもそんなに遠くには行っていない筈だ。
「KK………。ありがとう…」
さようならとは言えなくて、時間が経てば今までの記憶が色褪せて落ちるだろう。それを待つだけだ。
玄関で一呼吸、KKの匂いを肺一杯に吸ってこの気持ちを涙と共に流せたら、どんなに良かっただろうか。
ねぇ、忘れない。我儘を言うならば忘れないで。
ずっと胸の奥に、あの夜を超えてからKKが好き、それだけで、生きてきた。
それだけで、生きてきたのに…。
「さようなら…KK…」
今度こそ扉を潜りアジトから遠のく。
どこか、遠くに行こう。KKに会わない場所に、いや、会えない場所に…。