「冬だねぇ」
「ニャーン(そうですねぇ)」
「師走だねぇ」
「ニャーン(そうですねぇ)」
「雪だねぇ」
「ニャー(そうですねえ)」
猫又とジジイじみた会話をしつつ、僕は積もった雪を見つめた。今年は例年よりも降雪量が多いらしく、すでに膝上まで積もっている。こんな山奥の神社に参拝客が来るはずもなく、この辺り一帯は僕たち以外に誰もいないようだ。そんな静かな境内で、僕はいつものように賽銭箱の上に座っていた。入っているのは五円玉が片手で数えられるくらいだ。
「あぁ~、寒い! 寒すぎるよぉ!」
「ニャーン(まったくです)」
「雪かきしないとなぁ、下手すれば社が雪の重みで潰れちゃうし」
前に猫又から購入した鋤を引っ張り出してみるが、その重量感に思わず顔をしかめる。これを一人でやるのは骨が折れそうだ。が、数分後。
「あの金棒をいつも持ち歩いているだけあるか、まあマレビト相手には錘になるし。てかこれどうしよう」
殆どの雪をかき集めて山にした前でどうしようかと思案していると、背後から声をかけられた。
「おーい、お兄ちゃん!」
振り返るとそこには、麻里がいた。暖かい服装で首にはマフラーを巻きつけている。僕の妹は今日も可愛い。
「あれ? 珍しいね、ここに来るなんて。それにしても久しぶりだね。元気にしてた?」
「うん、私は大丈夫だよ! それよりお兄ちゃんこそ最近顔を見せないけど、何かあったの?」
「雪のせいで全然行けなかったから、それよりも石段で滑らなかった?」
「うん、転びそうになったけど、何とか耐えたよ」
「そっか・・・良かった」
「心配してくれてるんだ、ありがとう。でも平気だから安心して!」
「そっか、それならいいんだけどさ」
僕は安堵すると共に、改めて妹の可愛さを噛み締める。やっぱりかわいい
「今何してたの?スコップなんか持って」
「雪かき終えてこの雪山どうしようか考えてた」
「そうなんだ~・・・あっ!」
麻里が何かを思い付いたような仕草をする。
****
かまくらの中で身を寄せ合う兄妹の姿があった。もちろん僕と妹である。
「うわっ! 思ったより狭く感じるね」
「できるだけ固めたから大丈夫だと思うけど」
「ふふっ、狭い分こうしてくっつけるから良いかも」
僕の腕の中にすっぽりと収まる妹。そして、僕の胸に頬ずりをしている姿はとても愛くるしい。
「麻里、本当に寒くないか?」
「大丈夫だってば、ほらこうやって・・・ぎゅーってすると温かいでしょ?」
確かに彼女の体温を感じることで温かさが増していく気がする。
「それに、こうした方がもっと暖かくなれそうじゃない?」
そういうと彼女は更に密着してきた。お互いの吐息がかかるほどの距離で見つめ合っていると、感情が昂って角を出してしまった。
「ごめん麻里引っ込めるから」
「だめ、そのままでいて」
彼女は角に触れながら、微笑みを浮かべた。その表情を見て、僕の心臓は大きく跳ね上がった。その鼓動が彼女に伝わってしまうのではないかと不安になったが、彼女も同じ気持ちなのか、さらに強く抱きしめてきた。そしてお互いに無言のまま時間が過ぎていった。
「お兄ちゃん」
「何?」
チュ
「・・・」
頬にキスされ赤面して固まってしまう。そんな僕を見て、麻里は悪戯っぽく笑った。
「てめぇこれ、いつ撮った?」
その後、猫又に詰め寄る一人の鬼の姿があったとか。その手には仲睦まじい兄妹が写っていた。