───水の音がする
深い眠りから目覚めた暁人はぼんやりとした意識を徐々に集中させ周りに目を配る。
遥か頭上に見えるは朝を迎えた渋谷の町並みか。
足元は底が見えずひたすらに冥い。
まるで深海だな。
暁人の身体は沈んでゆくわけではなくただただ見えない水の中をゆらりゆらりと漂っている。
「あの夜」を超えてどうなったのか。記憶はまるで水で滲んでしまったように曖昧で、思い出そうとすればするほど頭の芯がじりじりと痺れた。自分に起きた出来事を把握することは諦め、今度は自分の身体に意識を向ける。
掌を見て驚いた。掌から逆さまになったカゲリエが透けて見えている。あの夜渋谷中に漂っていた何万もの幽霊の姿を思い浮かべた。
──僕は、死んだのか
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