[習作]無題 清められた神社を探索するなかで、社務所の冷蔵庫にビールの缶を見つけた。
そのときふたりは、いくつもの鳥居のまわりをうろつくマレビトと格闘をくりひろげたあとだった。つけくわえるなら、最後には三体のジャンボてるてる坊主と向き合うはめになり、暁人はだれがどうみても疲弊していた。KKもちょっとげんなりしていた。
だからだろうか。畳敷きにちゃぶ台、座椅子にふかふかの座布団。居心地よく整えられた社務所の冷蔵庫のなかに、よく冷えたビールの缶をみつけて、暁人はなにも言う事なく、その場にどかりと腰を据えた。KKにも異論はなかった。それで、ぷしりと音をたて、プルタブを開けて、ぐびりと煽って、かれらは同時にためいきをついたのだった。
しばしふたり、ぎゃあぎゃあとりとめのないことを話したが、暁人はアルコールによわかったようだ。たいしてビールをあおりもしないうちに、ほほがゆるみ、身体がここちよく火照るのをKKは感じる。KKといえば、それなりに酒には強かったので、ただあかるくたのしいだけの酔いは、あたらしくもこそばゆい。胃がぽかぽかとあたたまるのがおもしろくもあった。
機嫌よくビール缶をあおる暁人を、KKは内側から、じっと見つめる。
こいつ、普通の大学生なんだよなあ。
今どきの、真面目でかわいいくらいに素直な青年なのだ。ほんとうは。ただ、普段の幽霊退治のなじみぐあいをみていると、もしすべてが終わったとして、元通りとなるかはあやしいもんだな、とKKはちょっと首を傾げる。あんがいノリノリだもんな、こいつ。喉の奥からくつりと、わらいがこみあげた。酒精がひきずりよせた陽気さは、暁人が感じているのか、己が感じているのか、もうさだかではない。ふたりの間にやわらかくたゆたう境界線が、KKのからだのうちによせて波をうつ。
いつの間にか意識はふわふわとKKのもとをはなれ、思い返してみれば奇妙なことだが、KKは夢をみた。死者が見るものを夢と呼んでいいのかさだかではないが、ではまぼろしか、ええい、とにかくなんでもよかった。
その夢のなかでは、KKはまだ現役の刑事で、暁人とバディを組んでいた。暁人はきっちり締めたネクタイに似合わずに派手に警察車両を転がして、KKが単独で捜査を進めようとしたときには、班長の凛子に告げ口していた。東京の平和のために、ふたりはあわただしくかけずりまわり、なんだかゆかいにやっていたようだった。