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    kmmr_ota

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    GWT / K暁 / エンディング後の話(書ききれるといいな)

    ##GWT

    チープ・スリル(仮題)- 8 さまざまなマレビトと切った張ったの戦いを繰り広げてきた暁人でも、その門前に立ったときにはさすがに尻込みした。両手をいっぱいに広げても三人ぐらいは並べそうだ。高くもモダンなつくりの塀と木々で、屋敷の全容は外から把握できない。
    「どこまで続いてるんだろう」
     からだを乗り出して塀のさきを覗こうとした暁人の右手が、パントマイムみたいにぐい、と引っ張られた。KKの声がぼそりと呟いた。
    「やめとけ、知らんほうがいいこともある」
    「……それもそうだね」
     ひっぱられるままに任せて、暁人はもういちど身体を門の前に据えなおした。駅からここまでの道のりに立ち並ぶ家のなかでも、飛び抜けて立派な豪邸が本日の目的地である。
     あたりまえではあるが、東京に住まう妖怪たちについて、世間は認知していない。最後の関係者である娘にアポを取るにしても、どのように話を持っていくべきかと暁人は悩んだ。が、ええいままよ、と電話を掛けてみれば、あっけないくらいに電話のアポイントは快諾された。暁人が身分を名乗り、事情説明が隣家の主人と座敷わらしにまでおよんだ途端、あっけらかんと言われたのだ。
     あら、あなたも座敷わらしにあったことがあるの? なら、ぜひうちの主人にも会ってちょうだいな、わたしが話をすると、またうちの奥さんのアレがはじまったよって流されちゃうんですもの……。
     ころころと鈴のようにわらう夫人の声は少女のようだった。座敷わらしと関わる人間というのは、こういう性質が必要なのだろう。
     よし、と気合を入れ直して、暁人は門の端に添えられたチャイムを押した。チャイムの暗い硝子板に映る自分を見て、なんとなく身なりを整える。ほどなく、ぷつっという軽い音とともに、ハイと明るい応答があった。
    「こんにちは、電話で連絡を取らせていただいた伊月と申します」
    『あら、いらっしゃいませ。いま開けるわね。右手に母屋の入り口があるから』
     巨大な門が左右にするすると開いていくと、シャッターの降ろされた車のガレージと車寄せが暁人を迎えた。足元から伸びるブロックタイルの小道は、言われた通り右手の奥へ続いている。その左右には手入れされたさまざまな草木が目を賑わせ、白いタイルに濃く陰を落としていた。そして道の伸びる先、母屋と思しき家の影がある。母屋というからには、視界には入らないが離れがあるのだろう。
    「おいおい、こりゃあ半端じゃない金持ちだな」
     なかば呆れ混じりのKKの声に、呆然と立ちすくんでいた暁人ははっと我に返った。
    「……だね」
     気を取り直して小道に足を進めるが、おっかなびっくり身体を縮めて進むせいで、一歩一歩と進むたびに、ちらちらとスニーカーが目に入る。この邸宅にやけに不釣り合いな気がして、暁人は落ち着かない気分になった。
    「ジャケットとかネクタイとかしたほうがよかったかな」
    「オマエそんなかしこまった服持ってるのか? ……ああ、猫又からもらったやつか」
    「正直あの服には助かってる。……ねえ、やっぱり場違いかも」
    「バカ、その社会に慣れきってない感じが妙齢のご婦人には受けるんだよ」
    「そういうものかなあ?」
     くだらない話をヒソヒソと交わすうちに、母屋の入り口のドアが見えてきた。ちょうど目的の当人とおぼしき品のよい婦人がドアから出てきて、暁人とぱちりと目が合う。あわてて会釈をすると、ふふ、と軽い笑い声が返された。うーん、そういうものらしい。
    「おい、スマホのメモ帳開いて、右手に持っとけ」
     KKの声がすばやく囁いた。
    「え?」
    「なにかあったら打ち込む」
     そういったきり、KKはすっと静かになった。思わず暁人は右手に視線を落としてしまったが、あの? という訝しげな婦人の声で、何事もなかったような顔をつくって向き直る。
    「お時間いただきましてすみません。伊月です」
    「いえいえ、座敷わらしさんの話と聞けばね。さ、どうぞこちらへ」
     婦人のいざないに従って室内に入り、広々としたホールを過ぎて応接間へ。外装と同じく豪奢な室内に目をうばわれながらも、暁人は言われた通りにスマートフォンを右手に持った。とんとん、と暁人の意識外で親指が画面を叩く。こちらも準備はOKとのことらしい。
     そして、これまた立派な応接間のソファーに暁人が身を落ち着け、いままでの事情を順を追って説明してしばらく。婦人はしばらく、ううんと考え込んだ。暁人はテーブルに置かれた縁のうすい白磁のティーカップをぎこちなく左手に取って、唇をわずかに湿らせる程度にひとくち飲んだ。はなやかな香りが鼻を抜けていって、暁人は人心地ついた。
    「お伺いしたいのですけれど」
     婦人がおそるおそる疑問を口にしたので、暁人は手に持ったティーカップを、持ち上げた時の何倍かの慎重さでソーサーにおろして問いかけた。
    「なんでしょう?」
    「座敷わらしさんって引っ越しはできないんでしょうか?」
     暁人は渋谷の街で出会った座敷わらしのことを思い出しながら、返事する。
    「可能だとは思います。あなたを含めた家系の人間に強い思い入れがあるようでしたし」
     婦人はほっと肩を撫で下ろして続けた。
    「ああ、よかった。じゃあ、お迎えにいけばいいのかしらね?」
     右手が勝手にぴくりと動いて、暁人はそのままKKに主導権をゆだねた。手元を隠したスマートフォンの画面に文字が打ち込まれていく。
    『この御婦人は安全なところにいてもらったほうがいい』文字が続く。『あと、夜にしろ』
     暁人は文字を目線だけで追って、婦人にむかってにこやかに返事した。
    「いえ、引っ越しでしたら我々がお連れします。夜に再びお邪魔させていただいても構いませんか?」
    「あら、そうなの? では、よろしくお願いしようかしら」
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    チープ・スリル(仮題)- 8 さまざまなマレビトと切った張ったの戦いを繰り広げてきた暁人でも、その門前に立ったときにはさすがに尻込みした。両手をいっぱいに広げても三人ぐらいは並べそうだ。高くもモダンなつくりの塀と木々で、屋敷の全容は外から把握できない。
    「どこまで続いてるんだろう」
     からだを乗り出して塀のさきを覗こうとした暁人の右手が、パントマイムみたいにぐい、と引っ張られた。KKの声がぼそりと呟いた。
    「やめとけ、知らんほうがいいこともある」
    「……それもそうだね」
     ひっぱられるままに任せて、暁人はもういちど身体を門の前に据えなおした。駅からここまでの道のりに立ち並ぶ家のなかでも、飛び抜けて立派な豪邸が本日の目的地である。
     あたりまえではあるが、東京に住まう妖怪たちについて、世間は認知していない。最後の関係者である娘にアポを取るにしても、どのように話を持っていくべきかと暁人は悩んだ。が、ええいままよ、と電話を掛けてみれば、あっけないくらいに電話のアポイントは快諾された。暁人が身分を名乗り、事情説明が隣家の主人と座敷わらしにまでおよんだ途端、あっけらかんと言われたのだ。
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