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    kmmr_ota

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    GWT / K暁 / エンディング後の話(書ききれるといいな)

    ##GWT

    チープ・スリル(仮題)- 9「で、なんで夜なの?」
     夕焼けが影を落とす公園のベンチに座って、暁人はKKに問いかけた。座敷わらしの現在の住まいに程近く、空き地にわずかな樹木が植わるだけの小さな公園だ。青紫とオレンジのグラデーションが賑やかな空とは異なり、地上には枯葉と土のくすんだ茶だけがある。住宅街の隙間を縫った猫の額ほどの空間では、遊ぶ子供もいないようだった。暁人以外の人影はない。
    「鬼のことを思い出せよ。勾玉を持ってる、か弱い妖怪が大移動しようってんだ」
    「マレビトが襲ってくるってこと?」
    「そういうことだ。真っ昼間に大立ち回りは難しいだろ」
     なるほどと、とひとつ頷くと、風がぴゅうっと吹き込んだ。枯れ葉が一枚、風に乗って飛んでいく。暁人はひょいと首をすくめた。
    「さすがに冷えこんできたね」
     暁人は手に持ったコンビニのコーヒーを啜った。たった百円の重みながら、寒暖差の激しくなってきた秋の夜に冷え込む指をあたためてくれる。高級な茶葉の紅茶もいいが、やはりこっちのほうが馴染みがあった。
    「そこらの喫茶店にでも入ればいいじゃねえか」
     KKの疑問に暁人は反論した。
    「こういうところじゃないと作戦会議できないだろ。それで?」
     暁人はスマートフォンを操作して、地図アプリを開いた。目的地となる婦人の家にピンを打ち、自分たちの現在地とが両方画面に映るようにする。しばらく沈黙が続いて、右手が下唇をさすった。KKが思慮にしずむときの癖だ。
    「かなりの長距離の護衛になるな」
     実践経験という意味では暁人も短い間に山ほど積まされたが、やはりKKには長いあいだひとりで現場をこなしてきた実績がある。考えを邪魔しないように、暁人は声を出さずにコクリ、と頷く。
    「座敷わらしには悪いが、狭い住宅街を抜けるまでは囮に使わせてもらうしかないだろうな。地の利が悪すぎる。できる限り隠れて弓で粘るべきだ」
    「じゃあ一回アジト戻らなきゃかな」
     さすがにいつも弓を持ち合わせているわけではない。暁人の疑問に、KKはいや、と軽く否定して続けた。
    「いや、さっきLIMEでデイルに連絡取った。ここに持ってきてもらう」
    「ああ、なんか手が勝手に動いてると思ってたけど、それか」
     暁人がなるほどと納得すると、KKの呆れた声がした。
    「……オマエ……」
    「なに?」
     しばらくの間があった。KKはめずらしく歯切れ悪く、なにかを言いあぐねるような様子だったが、暁人は待つことしかできない。ようやくKKは言葉を絞り出した。
    「かわいそうな亡霊とか現れても、ホイホイ身体を貸したりするなよ」
    「さすがにそんな危機感のないことしないよ」
     暁人がさらりと返すと、胸の奥がむずむずとこそばゆくなった。KKだ。自分とはちがう心が身のうちにあるから、暁人の鼓動はひとりでいたときより騒がしくなった。そのざわめきに戸惑うこともあったが、それ以上に何度も支えられている。東京タワーで膝をついて挫けそうになったとき立ち上がれたのは、胸の奥から突き上げた熱さに、強く背中を叩かれたからだ。
     でも、これはなんだろう? こういうとき、暁人は歯がゆく思う。ふつうの人のように身体が別々にあって、向かい合って観察していれば、しぐさや表情、目の動きでわかったのかも、と思う。
    「なんか、言いたいことある?」
    「……オレが言えることじゃねえなってな」
     KKはひとつため息をついて話を戻した。地図を右手がなぞって経路を示す。
    「この住宅街を抜けたら川沿いに北上するぞ。屋敷の近くは道路が放射状に整備されてるし、見通しも効きやすい。山場は川越えだろうな」
    「了解」
     サイドボタンが押されて、スマートフォンの画面が暗くなる。ふたりの間に、ふたたび沈黙が落ちた。ふだんなにごともなかったように振る舞うぶん、おとし穴にころげおちるみたいに唐突にやってくる寄る辺なさに、お互いどう対応していいかわからなくなるときがある。
     でも、暁人は知っている。あんなに仲のよかった凛子と絵梨佳でさえ、最期にはすれちがってしまったことを。だから、伝えなくては。まだ言葉が通じる奇跡のうちに。
    「……KK、ごめん」
    「なんだよ、湿っぽいな」
     KKの返事は、軽い笑いを含んで返されたようでいて、その後ろには張り詰めた糸がある。それを、暁人はひんやりと冷たくなる胸の温度でわかっていた。
    「謝って許されることじゃなくても、これだけは言っておかなきゃいけなかったから」
     KKはなにも応えない。でも、まだここにいる。暁人は続けた。
    「でも、なによりも、ありがとう。思ってたより、」そこで暁人は言葉を切る。深呼吸して、声が震えないように。「ひとりはキツかった」
     なのに、KKの手が、そっと暁人の手に添えられた。鼻の奥がツン、としびれる。通夜の晩の気付けのような熱よりもやわらかく、しかしなにかを確かめるように。自分の体温のはずなのに、そこに、たしかに暁人はひとりを見出した。
    「オレはまさかエドにハサミで殴られる日がくるとは思ってなかった」
     とうとつな言葉に、暁人はきょとんとした。KKは淡々と続ける。
    「もちろん、形代に入れられたこともな。想像してねえことばっかだよ、オマエに会ってから」
     暁人はまだ話の流れがつかめなくて、え? と思わず口にした。いや、『は』だか『あ』だか、とにかく判別のつかない母音系統の気の抜けた声がでた。
    「……っハハ、オマエ、なんだその声」
     KKははじけるように快活に笑って、さらりと続ける。
    「オレはオマエと一緒にいて、それなりに楽しかったってことだ」
     暁人の涙は、ひょいと引っ込んだ。
    「……それは、」
     そこまで言って、今度は暁人が言葉をさがす番になった。KKはそれを分かってか、くく、と小さく笑いを押し殺している。どうしていいのかわからずに、しばらく投げ渡された言葉のまわりをうろうろと落ち着きのない犬みたいに歩き回って、暁人はようやっとポツリとこぼした。
    「よかった……」
     親しみを込めて、暁人の手の甲がパシリと叩かれる。
    「行こうぜ、仕事の時間だ」
     KKの促しに、暁人は空を見上げる。夕暮れの時は過ぎ、東京に星の見えない親しき夜がやってこようとしていた。
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    kmmr_ota

    PROGRESSGWT / K暁 / エンディング後の話(書ききれるといいな)
    チープ・スリル(仮題)- 8 さまざまなマレビトと切った張ったの戦いを繰り広げてきた暁人でも、その門前に立ったときにはさすがに尻込みした。両手をいっぱいに広げても三人ぐらいは並べそうだ。高くもモダンなつくりの塀と木々で、屋敷の全容は外から把握できない。
    「どこまで続いてるんだろう」
     からだを乗り出して塀のさきを覗こうとした暁人の右手が、パントマイムみたいにぐい、と引っ張られた。KKの声がぼそりと呟いた。
    「やめとけ、知らんほうがいいこともある」
    「……それもそうだね」
     ひっぱられるままに任せて、暁人はもういちど身体を門の前に据えなおした。駅からここまでの道のりに立ち並ぶ家のなかでも、飛び抜けて立派な豪邸が本日の目的地である。
     あたりまえではあるが、東京に住まう妖怪たちについて、世間は認知していない。最後の関係者である娘にアポを取るにしても、どのように話を持っていくべきかと暁人は悩んだ。が、ええいままよ、と電話を掛けてみれば、あっけないくらいに電話のアポイントは快諾された。暁人が身分を名乗り、事情説明が隣家の主人と座敷わらしにまでおよんだ途端、あっけらかんと言われたのだ。
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