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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
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    zeppei27

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    遅ればせながらメイドの日〜!
    付き合っている傭泥で、メイドパラダイスなお話です。

    #小説
    novel
    #第五人格
    fifthPersonality
    #傭泥

    完璧の作り方 荘園には時空を超えた場所である。と、いうのもおとぎ話でしか存在しないような神であるとか、呪いであるとか、そもそもここで主に開催される『ゲーム』からして奇妙だ。自室で寝ていたはずが、ある日突然豪華客船に乗せられ殺人事件に巻き込まれたり、異国情緒あふれる街並みで追いかけっこをさせられたりもする。当初は皆戸惑うものだが、人間も強かなもので回を重ねればさして驚くには値しなくなる。むしろ、どうすれば今回の『催し物』で自分が有利に動けるか——そんなことさえ考えるようになるのだ。
    「いくらなんでもこれはおかしくないか?」
    ナイチンゲールのサインが書かれたお知らせを読んだクリーチャー・ピアソンはわざとらしく哀れっぽい声をあげた。多分外界の街角なら、お人好しの一人や二人は釣れただろう。
    「残念だけど、ここでは現実なのよ」
    しかしながら荘園では異なる。医師のように冷たい声を発したエミリー・ダイアーを始め、誰一人として催し物に疑念を抱くことはなかった。ましてやクリーチャーの希う気持ちなど、かけらも価値がありはしない。
    「まあ、いつものことだからなあ」
    鷹揚に答えたのはカヴィン・アユソで、こちらはお知らせと共に届けられた衣装箱を漁っていた。ヒラヒラした布地がはみ出ているのを見とめ、クリーチャーはいよいよ現実なのだとため息をついた。
    「死ぬほどのことじゃないから、良いじゃないか。新鮮な気持ちになれるって考えたら、悪くないだろう?」
    「同意だ」
    デミ・バーボンが努めて明るい声を発したのに対し、すでに催し物に参加して冷めた表情のホセ・バーデンが受け合う。彼が足を組み替えるとしゃらりと布地が動き、綺麗な波を作ってみせた。普段のぴっちりとした海軍服であれば決して起こらない音だ。
     そう、ホセは既に催し物に参加している——長いヒラヒラとした紺色の裾が美しい、メイド服を着て。
    「メイドの日、なんて誰が考え出したんだか」
    揶揄い気味の声をあげたのはノートン・キャンベルで、彼もホセと同じくメイド服を着せていた。それも本格的なハウスメイド仕様で、肉体労働にも適した機能的な装いである。
     これまで、荘園にメイド服は何着か誂えられ、マーサ・べハムフィールやエミリーなど、さまざまな女性だけでなく、幸運児にも与えられている。
    「今回は新衣装開発に向けた参考意見を募集するためのものだからな。東洋の『メイドの日』に因むそうだ」
    普段通りのエスニックなロングドレスをまとうパトリシア・ドーヴァルが重々しく告げる。彼女が口を開くと運命の託宣のように聞こえるのは何故だろう?これが運命か?全くもってくだらない。どうせなら、とクリーチャーは視界の端でくすくすエミリーと笑い合う少女を見つめた。
    「どうせならウッズさんが着る姿を見たかった……」
    「うわ、清々しいほどの気持ち悪い発言」
    「思っても言って良いことと悪いことがあるだろう」
    ノートンとアンドルー・クレス(彼は普段着が長裾であるため免除されていた)の誹りなどものともせず、クリーチャーは想像の中でだけ楽しむことにした。己の足元を覆うヒラヒラとした布や、硬く窮屈な可愛らしい(男性用の大きさに作られているだなんて理解できない)ヒールの高い靴のことは忘れたい。お淑やかで、可愛らしく初々しいエマ・ウッズが毎朝自分を起こしてくれて、目覚めの紅茶を運んでくれたらばどんなに良いだろう。食事に呼ばれたり、ロケットチェアに誘導されたり、きっと毎日は格段に潤うはずだ。
    「顔がだらしなくなってるよ、ピアソンさん」
    「おっと」
    隣から響いた低い声に現実にかえれば、不満そうな顔をしたメイドに思いきり睨まれた。誰かと思えばナワーブ・サベダーで、彼もまたメイド服の犠牲者だった。その腕は与えられた衣装ではなく、両袖が引きちぎられ妙に涼やかである。ノートンのマルタのような腕さえ覆える袖なので、おそらく身幅には合っているはずだが、それこそ機能性に欠けるという判断に基づくのだろう。
    「君の場合、裾の長さは『ゲーム』に影響しないみたいだな。さっきの試合は見事だったよ。おかげで助かった」
    「ピアソンさんこそ。懐中電灯が裾で隠れる以外はうまく動けたみたいだね。でもさ」
    「なんだ、改まって」
    褒め言葉に顔を輝かせたものが一変し、スン、とした低気圧が訪れてクリーチャーは思わず身構えた。この青年とは深い仲であるのだが、今でも尚彼の深淵な思考回路は理解に及ばない。だからこそ人間は面白いものだとフィオナ・ジルマンが話していたが、クリーチャーにすれば唾を吐きたくなるような現実だった。人間は、わかりやすければわかりやすいほど良い——自分が生きやすくなる。蛇口を撚れば水が出るように、素直であれば尚よろしい。
     その点、わかりにくさの頂点を極める男と誰よりも親密な関係を結んだのは青天の霹靂と言える。もちろん、周囲の人間にとっては尚更で、いまだに双方に「再検討すべきでは」という冗談が投げかけられるくらいだ。双方に?ならば逆にちょうど良いではないかと泰然として受け止めたのは未来が見通せるイライ・クラークだけである。
     固唾を飲んで待っていると、ナワーブは眉間に皺を寄せてクリーの足元を指さした。
    「あんた、下にズボンを履いてるだろ」
    「その方が動きやすいからな……ちょっと待て、なんでわかったんだ?」
    どうにもすうすうして頼りないがために、くりーはちゃっかりメイド服の下にズボンを履いていた。普段通りの動きができたのはその安心感ゆえである。ただ、少し蒸して暑かった点は困ってしまったが。
    「なんで、って、さっきの試合で観察してたからだけど?」
    「は?」
    あの激闘の中に一体いつそんな暇があったのか、そもそもなんで自分の足元を観察していたのか、さまざまな疑問と困惑が頭をぐるぐると巡って星座を作り出す。傭兵座は渦を巻いていた。
    「あんたの足がどんな風に見えるのか、色々想像してたんだよ。中身まで見えたらハンターをどうぶちのめそうかまで考えてたのにさ、実際見てみたらズボンが見えた時の俺の気持ち、わかる?勘弁してよ」
    「君の気持ち悪さはよくわかった」
    ついでに、自分の発言に対するエマの気持ちも。今後はもう少し気にかけることにしよう。居た堪れなさから足を閉じるも、長いドレスの布地からナワーブの視線が突き刺さるかのようだった。
    「完璧なメイドが見られると思ったのに」
    残念がる表情は年相応の幼さが残るもので、クリーチャーは思わず笑ってしまった。発言内容は頓珍漢だが、妙に通じてしまうものだから困ってしまう。唇を尖らせる彼の姿を可愛いと形容できるのは、きっと世界中を探しても自分一人に違いない。考えてみれば、なるほど悪い気持ちはしなかった。
    「完璧、ねえ」
    しばし思案すると、クリーチャーはやり切れない様子のナワーブの剥き出しの腕に手を這わせた。びくりと体が震える様が新鮮で面白い。
    「ピアソンさん?」
    「良いだろう。『完璧』とやらを見せてあげようじゃないか」
    ひそりと囁いて空き部屋へと誘う。扉を閉め、誰も周囲にいないことを確認すると、クリーチャーはためらわず己の長い裾の中に手を入れた。中が見えないように、しかし意味深長に勿体ぶって。ごくり、とどちらともなく喉が鳴る音が響く。あるいは二人ともだろうか。
     ズボンのボタンを外し、脱いでゆく。ほんの少し下げてやれば、ストンと足元に落ちた。
    「……どれだけ完璧か、確認してみるか?」
    ご主人様。慇懃無礼にお辞儀をしてみせたのが合図となった。

     さて、クリーチャーは本当に完璧だったろうか?その答えは、実装される衣装を楽しみとしよう。

    〆.
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。数年間の別離を経て、江戸で再会する隠し刀と諭吉。以前とは異なってしまった互いが、もう一度一緒に前を向くお話です。遊郭の諭吉はなんで振り返れないんですか?

    >前作:ハレノヒ
    https://poipiku.com/271957/11274517.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    答え 今年も春は鬱陶しいほどに浮かれていた。だんだんと陽が熟していくのだが、見せかけばかりでちっとも中身が伴わない。自分の中での季節は死んでしまったのだ、と隠し刀は長屋の庭に咲く蒲公英に虚な瞳を向けた。季節を感じ取れるようになったのはつい数年前だと言うのに、人並みの感覚を理解した端から既に呪わしく感じている。いっそ人間ではなく木石であれば、どんなに気が楽だったろう。
     それもこれも、縁のもつれ、自分の思い通りにならぬ執着に端を発する。三年前、たったの三年前に、隠し刀は恋に落ちた。相手は自分のような血腥い人生からは丸切り程遠い、福沢諭吉である。幕府の官吏であり、西洋というまだ見ぬ世界への強い憧れを抱く、明るい未来を宿した人だった。身綺麗で清廉潔白なようで、酒と煙草が大好物だし、愚痴もこぼす、子供っぽい甘えや悪戯っけを浴びているうちに深みに嵌ったと言って良い。彼と過ごした時間に一切恥はなく、また彼と一緒に歩んでいきたいともがく自分自身は好きだった。
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    zeppei27

    DONE何となく続いている主福の現パロです。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!単品で読める、ホワイトデーに贈る『覚悟』のお話です。
    前作VD話の続きでもあります。
    >熱くて甘い(前作)
    https://poipiku.com/271957/11413399.html
    心尽くし 日々は変わりなく過ぎていた。大学と自宅を行き来し、時に仕事で遠方に足を伸ばし、また時に行楽に赴く。時代と場所が異なるだけで、隠し刀と福沢諭吉が交わす言葉も心もあの頃のままである。暮らし向きに関して強いて変化を言うならば、共に暮らすようになってからは、言葉なくして相通じる折々の楽しみが随分増えた。例えば、大学の研究室で黙って差し出されるコーヒーであるとか、少し肌寒いと感じられる日に棚の手前に置かれた冬用の肌着だとか、生活のちょっとした心配りである。雨の長い暗い日に、黙って隣に並んでくれることから得られる安心感はかけがえのないものだ。
     隠し刀にとって、元来言葉を操ることは難しい。教え込まれた技は無骨なものであったし、道具に口は不要だ。舌が短いため、ややもすると舌足らずな印象を与えてしまう。考え考え紡いだところで、心を表す気の利いた物言いはろくろく思いつきやしない。言葉を発することが不得手であっても別段、生きていくには困らなかった。だから良いんだ、と放っておいたというのに、人生は怠惰を良しとしないらしい。運命に放り出されて浪人となった、成り行き任せの行路では舌がくたくたに疲れるほどに使い、頭が茹だる程に回転させる必要があった。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。前作を読んだ方がより楽しめるかもしれません。遅刻しましたが、明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう~!会えなくなってしまった隠し刀が、諭吉の誕生日を祝う短いお話です。

    >前作:岐路
    https://poipiku.com/271957/11198248.html

    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ro
    ハレノヒ 正月を迎えた江戸は、今や一面雪景色である。銀白色が陽光を跳ね返して眩しく、子供らが面白がってザクザクと踏み、かつまた往来であることを気にもせず雪合戦に興じるものだからひどく喧しい。しかしそれがどんどんと降り積もる量が多くなってきたとなれば、正月を祝ってばかりもいられない。交通量の多い道道では、つるりと滑れば大事故に繋がる可能性が高い。
     自然、雪国ほどの大袈裟なものではないが、毎朝毎夕に雪かきをしては路肩にどんと積み上げるのが日課に組み込まれるというもので、木村芥舟の家に住み込んでいた福沢諭吉も免れることは不可能だ。寧ろ家中で一番の頼れる若手として期待され、庭に積もった雪をせっせと外に捨てる任務を命じられていた。これも米国に渡るため、芥舟の従者として咸臨丸に乗るためだと思えば安い。実際、快く引き受けた諭吉の態度は好意的に受け止められている。今日はもう雪よ降ってくれるなと願いながら庭の縁側で休んでいると、老女中がそっと茶を差し入れてくれた。
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