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    zeppei27

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    pkmnハサアオ、ハッサクにもらったカジッチュに途方に暮れるアオキと、二人の馴れ初めの思い出のお話。続きます。

    前作↓の続きですので、まずは前作からどうぞ🙌

    >寿司よ、寿き司れ
    https://formicam.ciao.jp/novel/sushiomoi.html
    寿司と間違えてシャリタツを拾ったアオキがハッサクからカジッチュをもらってしまった話

    リンゴ甘いか酸っぱいか #1 絶望とは、希望をして初めて訪れる。希望に基づく未来への展望が期待を孕み、前を向いたその瞬間に背後から殴りかかってくる代物だ。希望も絶望も、繰り返される既定路線を逸れた場所に存在する。物分かりがいいフリをするのであれば、そもそも余計な希望など持たずに予想範囲内で普通を享受するに越したことはない。別段、それで不幸になるというわけではないし、生きることへの満足は得られるのだから。

     大人になり、社会人生活を長く営むようになったアオキにとって、期待は何よりも自分を裏切るものだった。だから、そもそも期待なんて自他ともにしない。特に人間相手は不確定要素が多く絡みすぎるので要注意だ。普通が一番良い。自分もずいぶん大人になったものだ――そう満足する日々を過ごしていたのは、どうやらただの慢心に過ぎなかったようだ。

    「リンゴ」

    人は絶望と共に語彙を失うのだとも今知った。鞄から取り出したはずのリンゴ、が三つ仲良く膝上に並んでいる。リンゴには目がついており、しっかりとこちらを見上げていた。目を合わせたらば負けだ、と本能的に悟って視線を泳がせるよ、アオキの気持ちはどんよりとしたまま少しも晴れない。思い返せばさまざまな理由からこの状況は納得のいくものであり、ひとえに自分の読みが浅かっただけだという敗北感で足のつま先から頭のてっぺんまで深く深く沈んでいた。強く吹き付ける風にのった、リンゴ――もといカジッチュの爽やかな甘さが鼻をくすぐる。美味しそうだ。なんとも無念な話だった。

     場所は風吹く砂漠の街、ピケタウンである。人口の割には大きなポケモンバトルコートが整備されており、住民が仕事上がりにバトルを行うなど、ポケモンバトルに対する興味が高い地域だ。ジムを置くほどではないが、小規模な支部を作るには十分だろう。青少年に向けたポケモンバトルイベントを行うべく、アオキは積極的に営業にでかけていた。

     打ち合わせの結果は上々、珍しく話もすんなりと行ったので小休憩を取ろうと判断したアオキは既にソワソワしていたと言って良い。何しろ今日はリンゴがあるのだ。朝っぱらからジムに押しかけてきたハッサクが差し入れてくれたもので、いかにも高級品といった質の良さそうなリンゴだった。端的に言おう。凄まじく美味しそうだと思って仕事の間中も考えていた。鞄に入り込んだシャリタツが足元をぴょんぴょんと自由に跳ね回っても気にならないくらい、一種夢見心地だったのである。

    「ハッサクさんが、ただのリンゴを差し入れてくるわけがない」

    要するに自分が浅はかだっただけである。ハッサクは自分を騙そうと嘘をついたわけではなく、渡したいものがあるとだけ言って差し入れてきたのだ。リンゴではなく、ドラゴンポケモンであるカジッチュを渡してきたのは、純粋にアオキにドラゴンポケモンを布教しようという想いからに過ぎない。問題は異例な出来事に飲まれ、食欲に負けて素直に受け取ってしまったアオキにある。

     昨日シャリタツを寿司と間違えて拾ってしまって以来、ハッサクは自分にドラゴンポケモンを扱わせる良いきっかけになるのではないかと意気盛んだった。もともと以前からの彼の野望である。どういうわけだか四天王の頂点に君臨する男は自分に期待をかけてやまない。煌めく原石だのドラゴンのように吠えることができるだの、意味不明な言葉でぎゅうぎゅうと首を絞めてくる。普通を逸脱した人間ならではの荒技だ。どうしてそんな気恥ずかしいセリフを吐けるのか理解に苦しむ。

     ハッサクとの出会いは数年前に遡るが、出会った当初の感触は別段特別なものはない。オモダカの辞令により四天王として集められた四人が、互いに自己紹介をするだけで終わり、同僚として今後ともよろしくと行儀の良い挨拶を交わしただけである。あまりにも幼い少女が混じっていたことには流石に驚きはしたものの、話題性と実力の両方を兼ね備えているのだろうと丁重に接した。彼らは唯一無二の同僚なのだから、仲良くするに越したことはない。

    「それでは、皆さんには実力を競ってもらいます」

    問題は、オモダカによる二回目の招集である。命じられたのは総当たり戦による序列決定で、四天王というものはランダムに挑戦者が挑むようでは箔がつかないのだと超人は宣った。ジムチャレンジとは、用意周到に張り巡らされた物語のレールである。チャンピオンに向けた道のりを歩み進めるごとに、挑戦者はポケモンバトルにズブズブとハマる仕組みだ。適度に勝ち、歯応えを感じながら負ける。そして何度でも繰り返し、到達できた人間は伝説となる。

     神を失った世界では、人が神になるための、オモダカが言うところの希望の光になるためのお膳立てが必要なのだ。なるほどマーケティングの手法としては十二分に理解できる。アオキをジムリーダーだけでなく四天王にまで抜擢した理由は今ひとつ納得がいかないものの、能力がある人間の理屈は素直に賞賛できた。完全に普通を逸脱した人間は脅威だが、自分がうまく適応して――仕事らしく対処すればいいだけの話である。

     だから、オモダカの注文に応じてジムリーダーと四天王を兼ね、どうせだから違うポケモンを使って挑戦者を楽しませる、もとい試せるように万全の準備を期した。ジム戦でノーマルポケモンを使うことを決定したのはオモダカではなく、アオキである。普通、愛してやまない繰り返しの日常、基本だからこそ得難く手堅い安心と安全の象徴を選んだのは、柄にもない反抗心と自己主張が込められていた。

     挑戦者は大概チャンピオンという日常からの逸脱を志す生き物だ。逸脱するからこそ、自分が見捨てた、あるいは顧みない『普通』というものにどれほど意味があるのかを示すのもまた一種のジムリーダーとしてあるべき姿と言えるかもしれない。基本に忠実な質実剛健とした攻め手は、アオキにとって原点と言える祖父譲りの手法である。もしかしたら、自分はポケモンバトルを通して世間に、自分を『普通』から引き出そうとする全てに復讐しようと考えているのかもしれなかった。

    「……オモダカさん。自分は、挑戦者と一番最初に戦う相手になることに異存はありません」
    「却下です。アオキ、戦う前から序列を決めるような怠慢は不要です。手を抜かず、全員全力で戦ってください」

    控え目に面倒ごとを避けようとしたが、オモダカは気にも留めなかった。そうと決まれば仕事と割り切り、チリと戦いポピーと戦い、『普通』とオモダカに任されたひこうポケモンを合わせて全身全霊で時間を押し流す。考えるまでもない、自分が用意してきた通りにバトルを進めていくだけなのだ。たまたま仕事上がりに同僚に頼まれ、ポケモンバトルをしていたところに通りかかったオモダカに目をつけられた日の驚きであるとか、あああの時頷かなければ良かったという後悔であるとか、今日は残業申請が通るだろうかという疑念だけがぐるぐると巡る。

     いつの間にか、二人に勝利し、残すはハッサクだけになっていた。勝ち負けに対する感想は特にないが、負けた二人の表情が晴れやかであるのは喜ばしい。彼女たちとはうまくやっていけるだろう。問題は隣で戦っている様子がちらちらと伺えたハッサクの方だ。

    「隣で拝見していましたが、あなたと戦えることを待ち遠しく思っていました」
    「……それは、どうも」

    ギラギラと輝く琥珀色の瞳は、ハッサクが使うドラゴンポケモンの獰猛さを思わせる熱の籠りようで、アオキはその瞬間に楽をさせてもらえないことを察した。チリやポピーと戦った際に手を抜いた訳ではないが、オモダカになじられている最中のようなやり過ごし方では許されないに違いない。あえて負けるという選択肢はハナからなく、アオキは要は勝てばいいのだという結論に達した。手練れとの連戦で空腹感も強い。今日はいつもの倍、米を食べよう。やはり腹持ちの良さと満腹感の両方を満たす食べ物は最高だ。

    「よろしくお願いします」

    そうしてアオキはハッサクに負け、四天王の第二位として位置付けられることになった。自然な流れであったとはいえ面倒な立場になったな、というのが本音である。おまけに何がどう琴線に触れたのかハッサクに絡まれるようになってしまった。彼としては、オモダカ以来に歯応えのある人間がすぐそばにいるのだから、伸ばし伸ばされ合う仲になりたいと、あわよくばアオキには他の――特にドラゴンの――ポケモンを使わせたいという願いが芽生えたらしい。心底迷惑な話だ。

     自分に絡む点を除けば、ハッサクは好人物である。教師として生徒にも好かれ、四天王としての厳しさも体現する。何より、育ちが良いのか美味しいものを知っていることはアオキにとって好感度を抱くに値する理由だった。美味しい、というのは簡単そうに聞こえるかもしれないが実は至極難しい。舌の好みはそれまでの人生経験全てを凝縮したものである。辛いものばかりが溢れた熱帯地域にいれば、味の薄いものは分かりにくいだろう。逆に、味が薄く素材を重視する地域で生まれ育った場合、味が濃いものは濃さの層を解釈しにくい。世間に溢れる味わいは千差万別あれど、『美味しい』の絶対的答えはその実不確かなのである。

     美味しい店を教えてもらって、美味しくなかった時の悲しみは言いしれない。その感想を尋ねられて、あまり期待を持たせずに慎重な返事をするのも億劫だ。美食家と呼べるほど通ぶる訳ではないが、小難しいと思われても癪である。高価であればあるほど良い訳でなし、最後に頼るべきは自分の勘と偶然による奇跡と言えよう。アオキは営業職という利点を活かして、パルデア地方のみならず他地方の食べ物を大いに楽しんできた。それでも、誰かにお勧めするのは難しい。

     幸にして、ハッサクはアオキにとっても『美味しい』ものを知っていた。アオキが内心忸怩たる思いで世の美食を考えている一方で、彼は肩の力を抜いてお勧めしてくる。時には穴場で、あるいは有名店で、そして一緒に出かけた営業先での勘で、ハッサクはアオキに美味しいものを教えてくれた。肥えた舌は間違いなく信頼に値する。故に、だ。故に自分は無駄に期待を膨らませてしまった訳で――

    「っ」

     すり、とにじり寄ってくる気配にアオキはびくりと震えて現実に戻った。途端、つぶらな瞳と目が合い恐怖する。これはポケモンだ、だがその芳香のなんと食欲をそそることか。確か、このドラゴンポケモンは美味しい果実にしか巣食わないという。つまりこの果実の部分は間違いなく美味しいとお墨付きがあるわけで、小腹が空いたアオキに効果覿面だった。

     少し、舐めてみようか。あるいは一口くらい齧ってもバチは当たるまい。胡乱なことを考えて一つを手に取ると、ぬらりと掌が濡れる。途端に甘酸っぱい香りがあたりに広がり、アオキは冷静にカジッチュをもう片方の手に移し――迷うことなく液体を舐めた。

    「美味しい」

    舌に絡むとろりとした液体は、濃厚な甘味を幾重にも段階を踏んで伝えてくれる。飽きずにもっと舐めたいと思うのは、程よく混じる酸味のためだろう。サンドイッチ作りの極意として、一種類の味だけでなく五味をバランスよく取り入れることと言われているのは何も間違いではない。夢中になって舐め終えると、アオキは改めてカジッチュを見た。

     確かに、彼らはドラゴンポケモンである。だがシャリタツが寿司であるように、カジッチュもまたリンゴなのだ。ポケモンではなくリンゴとして手元に置くのは、ポケモンと共生を歌う現代の生活様式にも合致する。ポケモンバトルには出さないし、もちろんポケモンボールに入れるなどもってのほかだが、こうして疲れを癒すアイテムだと割り切って手元に置くのは問題ないだろう。

     ドラゴンポケモン使いにさせようという罠にハマった絶望感は、敢えてバトルに使わないという妙案で乗り切れそうだ。大事に傍に置いていれば、ハッサクが頼んできた『大切にしてほしい』という要望を叶えられると同時に、彼の思惑を裏切る胸の空く事態にもなる。恭しくカジッチュを顔に近づけると、アオキは躊躇いなくべろりと舐めた。

     禁断の果実の味わいは、尋常ならざる甘美だった。
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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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