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    zeppei27

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    ハサアオになります。初顔合わせでハッサクに指導されるアオキの話。ハッサク先生が大人に「こうあるべき」を指導の形で厳しく行うのは、実はなかなかないんじゃないかな……?と考えながら書いていました。頑固おじさんの譲れぬガチンコ勝負が見たい!
     あと少しだけ続きます。

    正しさの証明 #1 初対面における、アオキの中でのハッサクの印象は理想の教職者を描いたままの人間というものだった。仕事柄、オモダカが不本意にも自分を四天王に据えた際に全員の履歴書を見る機会があったため、実際には実物ではなく書類上の出会いである。半年ほど前からジムリーダーになることは決定済みだったというのに、更にもう一足草鞋を履かせられる面倒な事態で暗澹たる気持ちだった。せめて数少ない直接の同僚くらいは、気持ちの良い円滑な関係を築ければ良いな、と仄かな期待を寄せてアオキは書類を確認していた。

     ジムリーダーの代表格として、四天王は多少難があろうとも恥ずかしくはない人間である必要がある。人格者とまでは行かずとも、犯罪者やサイコパスでは本末転倒だ。故に、四天王は当人が提出した履歴書に合わせて漏れなく周囲への事前調査が行われている。聞き取り調査から想像される限り、他地方からの移住者であるハッサクは堂々たる人物らしい。

     体格が良く、声が大きく、目は常に真っ直ぐ相手に向けられている。度量の広い物言い、年長者らしい配慮、反駁することが難しいほどの真っ当さ、これで美術教師だというのだからアカデミーもなかなか人材が豊富である。コルサの友人という事前情報からして、ハッサクの交友範囲の広さとコミュニケーション能力を証明するには十分だ。コルサとは同じジムリーダーとしてしばしば顔を合わせる間柄だが、アオキは良くも悪くも癖の強いこのナチュラルアーティストの友人になれるとは到底思えなかった。経緯は何であれ、交友関係を続けている時点で驚嘆に値する。

     要するに、まあ問題なくうまくやっていけるだろうと肩の荷が降りた心地だったのだ。他の二人よりは年齢が近く、大人として『普通』に接していけるだろう。いかに自分の思惑を超えて三足の草鞋を履かせられようとも、アオキは自分の姿勢を変えるつもりはさらさらなかった。ポケモンリーグに就職した時に描いた通りに営業職をこなし、面倒だが粛々とジムリーダーも行い、ポピーとチリの腕前からして余り手間をかけずに四天王をこなす。完璧だ。オンオフのスイッチも綺麗に切り替えられる。仕事の関係を休日に持ち込むこともない。

    「よろしくお願いしますよ、アオキ」
    「よろしくお願いします」

    だが、運命とは『普通』とやらを看過できないらしい。初めて対面したハッサクは、書類から想像した通りの人物だと安堵した瞬間――

    「初対面ながら言わせてもらいますが、挨拶は相手の目を見て行いなさい」
    「……はい」

    全ての期待を打ち砕いた。君子豹変す。カッと目を見開いたハッサクの顔つきは猛々しい竜そのもので、アオキは常と変わらぬ表情を保ちながらも困惑を隠せなかった。表面上、非常識に見えるような振る舞いをした覚えはない。ビジネスマンらしく、変に興味を抱かれないありきたりな態度を取ったはずだ。反射的に、消極的な返事と共に頭を下げる。老婆心めいた年長者の注意など、どうせ一瞬のことだろう。自分は生徒ではなく、ごくごく稀に顔を合わせるだけの相手に過ぎない。

     そうであれば対応は簡単だ。頭を下げて、適当に謝り、失礼のないように努めれば自然と問題は頭の上を通り越してゆく。相手に反論し、是正し、あるいは話し合うなど無意味だ。全ては一過性のもので、結局のところ他人事である。ハッサクはどうやら古風な人間らしいので、年長者らしく立てておけば良い。

    「アオキ、人の話を聞いていますか」
    「はい」
    「聞こえませんよ」
    「はい」

    耳が遠いのかもしれない。尚も食い下がるハッサクに、若干の苛立ちを覚えたのはアオキにしては珍しい現象だった。静かな水面に、小石どころか巨石を投げ入れられたような嫌な予感に身慄いする。自分は対応を間違えたのだ。どううまくやり過ごそうか、今日はただの顔合わせだけのはずだったので、さっさと解散する流れである。こちらの不穏な様子を察してか、ポピーとチリは甘いものでも食べに行こうと退散していたし、オモダカに至っては最初に四人を集めた後すぐさま仕事に戻ってしまった。

     ポケモンリーグの事務所に、よくわからない気難しい人間と二人きり。こういう難題からいち早く逃げ出す機転が不足していることを痛感してしまう。いつもどうにかこうにか丸く収まるので学習もしない。怠惰と言うよりは図太いのだ、とアオキは冷静に自分を評価した。厚顔無恥で傲岸不遜と思われようとも、それが自分の処世術である。

    「……キ?アオキ、どうしましたか」
    「いえ、自分は別に何も」

    少々たじろいだハッサクの様子から、アオキはようやく自分が長考していたことに気づいた。自身ではまるで意識しないことだが、周囲の人間曰く、アオキは長考し出すと彫像のように微動だにしなくなるらしい。初めて見た人間は皆一様にうろたえ、よもやアオキに何か悪いことでもしてしまったのかと勝手に自責の念に駆られる。ハッサクも同じか、と都合の良い展開を考えるも、やはり神はアオキを見放したままだった。

    「なるほど、それがあなたの癖なのですね。今後は待つことにしましょう」
    「は」

    悠長なセリフに、疑問の声が上がりそうになる。どうして自分にこだわるのだ。教えを乞うてもいない、その場限りの間柄で良いではないか。ありがた迷惑を通り越して圧倒的に避けたいお節介に、流石のアオキも唇の端が微かに下がった。目を、下に落とす。靴の端に泥汚れがついたままなのが、こんな時に限って気になって仕方がなかった。だからと言って、すぐに綺麗にするわけにはいかない。自分の机の上に置かれた書類のことを思い出し、アオキは戦略的撤退を試みることにした。今だけ、この人との間にさざなみ立つのも今だけだ。

    「……仕事がありますので、ジムに帰らせていただいてもよろしいでしょうか」
    「ああ、チャンプルジムでしたか。構いませんよ。――アオキ」
    「はい」
    「次はもう少し時間に余裕を持ちましょう。小生も時間を空けておきます」

    どうしてなかなか手強い。爛々と光るハッサクの目から逃げるようにして、アオキはモゴモゴと呟きながらいつも通りの足取りで歩み去った。多分、あの目はポケモンならばはかいこうせんだ。ハッサクが人間で良かった、と益体もないことを思いついて首を振る。ポケモンの方がまだマシだ。ピッピ人形を使っても、あの人間は自分を解放してくれそうになかった。




     これは常に教職者として、人としてハッサクが掲げている理念だが、世の中様々な尺度はあれども正解はない。だからこそ自分なりの答えを求めるべきであり、真摯に向き合うことこそが肝要である。幼い頃から、長らく周囲により正道にぎゅうぎゅうと詰め込まれた経験が頭の片隅に残っているのかもしれない。お仕着せの道のなんと窮屈だったことか。

     正解とは誰にでも通用するものでもなく、個々人が抱くもの、それで良いと思う。音楽や美術といった、正解がないと明確に定義された世界に憧れたのも、ひとえに正しさを押し付けられてきた反動と言えるだろう。とは言え、答えを求め続けて疲弊するのも人間の常だ。与えられた正解の味など無視して丸呑みするのも、処世術には違いない。強いものの顔色を伺いなびき、甘えて搾取されているのは楽なのだ。

     別段自分は正しくはない。だが、そのような状況に甘んじて過ごす人間を見るとつい、心が動いてしまう。生徒の背中を押す原動力は、自分の過去を救い上げるようなものなのかもしれない。教職者に収まったのは偶然の結果だが、ハッサクはようやく自分の身にしっくりとした役分を得たように感じていた。どんなに相手を思いやってであれども、誰彼構わず叱咤激励する権利も正当性もない。教職者には全てが揃っていた。未来に向かおうとする生徒に語りかける時、彼らが何かを得て進んでゆく時、目の前が明るくなる。まさに天職だった。

    「初対面ながら言わせてもらいますが、挨拶は相手の目を見て行いなさい」

    よって、本来であれば受け流す相手に口を滑らせたのは奇妙な現象と言えた。四天王としての初顔合わせで、時期も場所もまるで不適切である。案の定、アオキは少々面食らった様子ながらも取り繕おうと必死だった。上辺にはさほど変化は見られないが、ハッサクの目にはド忘れしたヤドランそっくりに映る。か細い声ではい、はい、と言うばかりでちっとも響くそぶりがない。

     ここでやめてしまえば良かった。普段の自分であれば、すぐさまニャースを被って丸め込んだことだろう。誰かを変えることを望んでも、望まぬ相手に、ましてや言う権利もない相手につっかかるような真似をしない程度の計算高さはある。アオキは同僚だが、彼の本職が忙しいため然程顔を合わせる機会は多くはないだろう、とオモダカから告げられていた。ならば気持ちよく連絡事項をやり取りするだとか、もう少し穏やかな付き合いに留めるのが妥当ではないか。

    「アオキ、人の話を聞きなさい」
    「……………………………………」
    「アオキ!」

    しかしながら、ハッサクの燃え立った気持ちはちっとも収まりそうになかった。おまけに途中から目を開けたまま寝ているのか、アオキは微動だにしなくなってしまったものだから腹立たしい。そう、今やハッサクの気持ちはその場限りでやり過ごそうにも抑えきれないほどに燃え盛っていた。好悪の情はない、何か情を抱くにはあまりにも彼を知らない。間違っているのは自分だ、と思いながらもアオキの目を見つめる。

     人はこんなにも色を映さない瞳ができるのか、と身震いがするほど深く暗い穴が広がっていた。彼がどこか違う場所にいることは確かで、目の前に居ながらにして逃亡されたことがたまらなく歯痒い。手を伸ばしかけ、ハッサクはあまりの堪え性のなさに瞠目した。手を挙げるなど、一体何年振りのことだろう。力による従属は、所詮従属に過ぎずその場しのぎを加速するだけだと、自分自身が痛感したことではないか。

     一人相撲なんてしないで、さっさとアオキを置いていけば自分は正気を保っていられるだろう。彼とて同じことを考えているはずだ。初対面の人間から、こんなにも構われて迷惑に思うに違いない。――自分は他人がどう思うかを今更気にする人間だったろうか?混乱で頭がくらくらする。掌を握っては開き、何度目かの呼びかけをした果て、ようやく恐ろしい時間は幕を閉じた。

    「いえ、自分は別に何も」

    長らく停止していた時間は、当人にとって砂つぶほどにも意味がないらしい。きょとんとした様子に、ハッサクは安堵とも落胆とも言えぬ気持ちの悪さが胸に広がる感覚を覚えた。どう進んでも掻き乱されるばかりで始末に追えない。自分の衝動が何によるものかわからぬまま突き進むのは無謀だ。ともあれ、一度狙いすました獲物には違いない。ここは仕切り直すとしよう。

    「なるほど、それがあなたの癖なのですね。今後は待つことにしましょう」
    「は」

    宣戦布告には十分だろう。怯んだアオキが、折よく逃げの一手を打ったので寛容なフリをして受け入れる。面の皮の厚さはほぼ同じだろうが、老獪さであれば自分の方が上だとハッサクは口角を上げた。次の機会を持つと明言すれば、アオキがふい、と顔を背ける。子供のような仕草に頬が緩んで仕方がない。ここで叱りつけないのは鍛え上げた理性の賜物だ。

     答えが欲しい、とハッサクは子供のように純粋な気持ちで遠ざかるアオキの背中を見送った。この気持ちに答えを作りたい。次に会うのはいつにしようか。鼻歌まじりにマントを翻し、ハッサクは作戦を練るべくエレベーターに向かった。まずは相手を知るところからだ。新たな上司の顔を思い浮かべると、ハッサクは狩への期待に爛々と目を輝かせた。

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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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