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    zeppei27

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    一次創作小説〜!
    顔立ちを見込まれた主人公が、謎の集落にスカウトされて移住を決めるまでの話です。リプに続きがあります。

    #一次創作
    Original Creation
    #小説
    novel
    #ファンタジー
    fantasy
    #奇妙な味

    魅惑の顔立ち Pという集落に出かけたのはほんの偶然で、首都大学のふるさとイベントなる地方誘致の一環でLさんと知り合わなければ決して実現し得なかっただろう。そもそもPという集落があること自体を私は寡聞にも知らず、ふるさとイベントに出るのもこれが初めてなのだとLさんははにかんでいた。彼女は一度首都に出てきて働いていたそうなのだが、やはりPというよくよく知る故郷の居心地の良さにUターン移住したのだという。
     かく言う私はこれという特徴のないG県出身だが故郷に未練はなく、同時に首都での仕事に疲れてしまっていた。大学を訪れたのは、まだ前途洋々だと何も考えずにいられた時代を懐かしんでのことである。おりしも地方栄転という名の流刑に遭う羽目になり、すっかり嫌気がさしたところだった。
     Lさんとの会話は弾み、彼女の語る故郷の情景はひどく魅力的に映った。そんなふうに思える故郷が私にもほしいとさえ思う。山深い、交通はやや不便だが伝統製品を細々と共同で作る集落。温泉もあるよ、というセリフが決め手となって、私はLさんに是非訪れたい旨を伝えた。
     答えは良し、人手が足りないので猫でも連れて帰ろうと思っていたとLさんは言う。伝統製品は今や世界的に需要が高まっており、なかなか追いつかないのだそうだ。
    「出会って間もないのに言って良いかわかりませんが、Rさんは向いていると思います」
    「本当に?」
    じ、とLさんが私の顔を見つめる。観相学の類でも修めているのだろうか。職業や移住の面接で、気質や能力と並んで骨格や顔立ちが重視されるのは珍しいことではない。私はと言えば、客観的に見ても整った顔立ちではないものの、一発で不合格を受けるほどではないだろう。とは言え他人に押しはかられるのは久方ぶりのことで、二十年前に就職活動をした日のことが思い起こされた。
    「はい」
    Lさんは無責任だ。伝統製品が何かを見てから、最終的な判断をしてほしいという願いを聞き入れ、私は有給休暇を申請してPに向かった。

    ***

     噂に違わず、Pという集落は遠かった。飛行機に乗り、体育館ほどしかない小さな空港からLさんの車で山の奥深くへとズンズン向かう。二日はかかるのだそうで、途中の宿営地(この手の場所では野獣撃ちに使えるよう、あちこちに宿営地が設けられているのだ)で夜を過ごした。宿営地の雑華無さがどれほど新鮮に感じられたことか!
     猟師たちが採れたての新鮮なきのこ手を分けてくれ、踊り炙りをして食べた。薬指は一番栄養が集まっていて美味しい。Lさんが言うには、伝統製品にもこうした山の幸が活かされているそうだ。楽しみでならない。Lさんも木に登って猩々をもいでくれた。
    「すごいですね。鍛えてらっしゃるんですか?」
    猩々を追い詰め、枝先でもぎ取る鮮やかな手捌きに惚れ惚れして話せば、Lさんは猩々を引きちぎりながら首を振った。
    「いえいえ、山育ちですから。Rさんもそのうちこうなりますよ」
    「本当に?」
    「はい」
    首都で勤めているうちにすっかり体が鈍ってしまったので、これはお愛想でも嬉しい。猩々の皮をめくり、真っ赤な瞳に太陽を思い出した。前途洋々。本当に、前途洋々だ。
     九十九折りになった山道を車でギュンギュン進んで行き、いろんなものを弾き飛ばす。轢いた飯泥棒を捕まえて、土産用に小さく折りたたんでトランクに詰める。Pに着く頃にはちょうど良い塩梅に発酵が進んでいるはずだ。
     山道はすれ違う人もなく、車もない。伝統製品の納品時期が来れば数珠繋ぎになるのだとLさんは教えてくれた。
    「出荷数が限られていますから、年中混む道ではないんです」
    「観光客は訪れないんですか?」
    「交通が不便ですからね。本当に稀に——稀に、来ることはありますけれど」
    温泉も地元の人間が使うだけなのだという。都会から隔絶した楽園!良いではないか。私の気分は否応なしに高まった。

    ***

    「着きましたよ。お疲れ様です」
    「おお、ここが」
    車に乗るのも山の景色にも飽き始めた頃、ようやっとPに辿り着いた。山間の平地にぎっしりと家々が立ち並んでおり、一番奥に工場らしい大きな建物が見える。手前に田畑が広がる以外は、現近代の様式で建てられた家の多い、どこにでもありそうな風景だった。
     正直に言おう。伝統製品を作る集落として、私はこの風景に少々落胆していた。これでは他の都市に出かけても同じではないか。だが、そんな私の贅沢な考えを読み取ったかのようにLさんは工場へ行けばわかると片目をつぶって見せた。
    「ここで重要なのは、何を作っているかなんです。Rさんにはきっと素晴らしい場所になりますよ」
    「本当に?」
    「はい」
    すっかり慣れっこになってしまったやり取りに免じて、私は疲れた体を引きずって工場に向かった。Lさんの家には空いた離れがあるので、私はそこに寝起きすれば良いと言う。何もかも世話になってしまって申し訳ないが、たとえ気に入らなかったにせよ、一ヶ月も働けば恩を返せるだろう。
     集落はそこそこ賑わっており、他所ものである私への対応も丁寧だ。探るような目つきを一瞬しても、何故だか私の顔を見つめるとにっこりと微笑んでくれる。この集落で、私の顔立ちは好ましいものなのだろうか?人生で一度もなかった経験に、背中がこそばゆくなった。
     工場は、遠目で見た時と変わらず軽工業の工場といった雰囲気である。紙のお札がベタベタと貼ってあるのは、危険物を取り扱っている証だろう。そんな場所に、来たばかりの部外者が立ち入って良いものだろうか。今更ながら常識を取り戻した私の質問に、Lさんはここでも力強く否定してくれた。
    「大丈夫です。ここはRさんの天職がありますよ」
    「本当に?」
    「本当に」
    力の入れようが不安だったが、私は運を彼女に任せて工場に入った。手前は出荷場らしく、緩衝材を大量に詰め込んだ段ボール箱に、ボール紙の箱をどんどんと詰め込んでいる。流れに沿ってゆくと、検品中の製品が何であるかを見て取り私はあっと声を上げた。
     艶やかな黒髪だ。どう見積もっても人のそれと寸分違わぬ髪が、頭の形になって箱に収められている。よくよく見れば黒だけでなく、赤、白、金、銀、あらゆる色があるらしかった。
    「もしかして、かつらですか」
    「はい」
    ここで思い起こされたのが、かつらの世界的製造会社の「かの字」という謎めいた会社のことだった。品質は限りなく人毛に近く、被ればまるで地毛のようにしっくりと馴染むのだという。余りにも流通量が少ないためにプレミアがつき、中古でも欲しいという声に応える術もない幻の製品だった。オークションサイトで流れるものは偽物しかないと言うのがもっぱらの噂である。
    「ええ。私たちはかつらではなく、『第二の地毛』と呼んでいます」
    最高級のかつらは、他の会社でも人毛を取り扱う。しかしどうやら秘密はそれだけではないようだ。製造過程に工夫があるのだろうか?Lさんは企業秘密であろう場所にも臆面なく私を連れ出した。
    「私が入っても良いんですか?」
    「見なければ信じてもらえないでしょう。それに、盗めるものではないんです」
    見ればわかりますよ、というLさんの髪は艶やかで美しい。もしかして、と思うも彼女は微笑むばかりだった。
     戸惑いながらも奥へ、最奥部へと向かってゆく。途中途中で、集めた髪の毛——間違いなく人毛だろう——を丁寧に型に貼り合わせる職人たちを見かけた。髪型の指定などもあるようで、作り出される製品は千差万別、丁寧な手仕事に感動するばかりだ。私にあんな繊細な仕事ができるとは到底思えない。うっとりとした表情でかつらの髪を撫でる人々が羨ましい。あんな風に一つのことに心を傾けられるだなんて、当世そうないのではないだろうか。
    「ここが、素材を取る場所です」
    「素材を取る?」
    人工的な建物に囲まれた場所のどこにあるというのだろう。鉱山に続く道があるでなし、湧水を採るでなし、なんと言っても髪の毛なのだ。ひょっとすると、ここには寄るべない人々が集められて髪の毛を伸ばしては切られるような恐ろしい養殖場なのだろうか?だとすれば、私は飛んで火に入る夏の虫だ。いや、だが、きっと大丈夫だ。私は大丈夫に決まっている。
     覚悟を決めてLさんについて行き、外で見かけた紙のお札がベタベタと貼られた扉を潜り抜ける。扉のぐるりを茅の輪が囲っているのが奇妙で、一歩踏み越えた瞬間背筋がぞくりと震えた。いる。
    「おぐし様です」
    「おお」
    それは、巨大な少女の人形たちだった。はるか昔の先祖たちの顔立ちをした人形が、天井いっぱいまでみっしりと詰まっている。福々しい頬に、あどけない少女のような眼差し、つんとした唇。可愛らしい当世風の服は顔立ちと不釣り合いだが、妙な愛嬌があった。
     こうして顔立ちを見ると、肌や目、髪の色が異なれども子供は子供だということがよくわかる。彼女らからは長い長い髪が生え、足元まで覆うそれを職人たちが櫛削り、白い紙子を着た人々が祈祷しながら先端を切っている。素材を収穫している。まさしくこれは収穫だった。
    「これは、生きているんですか」
    「いえ。おぐし様はご覧の通り、元は人形です」
    Lさんが話すには、その昔呪いの人形なるものがこの世には存在していたという。Pという集落は元々人形作りを生業としており、作るだけでなく古い人形の処分を任せられることも多かったそうだ。その過程で出会った呪いの人形たちを祓い、慈しみ、可愛がりしているうちに、どういうわけだか彼女たちは大きく育ってしまったのだという。
     困ったのは生きている人間たちだ。このままでは人形で集落がいっぱいとなってしまう。燃やしてしまうかどうしようかと悩むところに、とある人形師が人形たちの伸びゆく髪に目をつけた。どうだ、ともに生きようではないか。人形たちは物を言わない。機能が備わっていないのだ。
    「しかしながら共生は成功し、今に至ると。本当に?」
    「はい。製品の質を理解すれば、きっとすぐにわかりますよ」
    じっ、と顔を見つめられ、私は顔を真っ赤にした。わかっていたのだ。Lさんも、集落の人々も。今なら彼らの眼差しの意味がよくわかる。あわあわとする私をよそに、職人が蓋のないボール箱を持ってきて私に手渡した。美しく艶やかな栗毛。ゆるく巻いた癖っ毛は、私にとって見慣れた物だ。
    「脱帽しました」
    力無く笑うと、私は覚悟を決めて自分の頭に触れた。いくつかの留め金を外し、ずるりと落とす。新鮮な空気に触れた寂しい頭が、ひんやりとした。昔はこんな風ではなかった。長い栗毛は私の自慢で、色々な髪型を楽しんだものだ。大学を卒業した辺りからやや頼りなくなり、働き、目の前のものにがむしゃらにかぶりついているうちにどんどん私を置いていってしまった。
     それがどうだ、目の前のかつらはまるであの日の私ではないか。ごくりと息を呑んで、かつらを手にする。Lさんが箱を取ってくれたのを合図に、私はそっと頭に載せた。他所者であるはずのそれは恐ろしくしっかりと馴染み、元ある髪と一体化していく。比喩ではなく、本当に自分のものになったということが『わかった』のだ。
    「お分かりいただけましたか」
    Lさんが手鏡をこちらに向ける。自信に満ちた、あの日の私の豊かな髪が映っていた。この気持ちをなんと言おう。ほの温かい安らぎ。居心地の良さ。
    「わかりました」
    「本当に?」
    「本当です」
    私は即日移住した。

    〆.
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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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