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    siroinari

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    siroinari

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    乙骨帰国時のお迎えが新田明だったら。知り切れトンボ。すべては捏造。新田姉弟が好きです。特に姉は術師じゃないし一般家庭出なので高専組をちゃんとこども扱いしてくれそうだな、という理由は後付で単に推しと絡ませたかっただけです。

    #乙骨憂太
    boneWorriesToo
    #新田明
    akiraNitta

    怒声や泣き声の響く空港で一人佇む黒服の女。
    手荷物もなく、端末を片手に能面のような顔で周囲を見渡す姿はいっそ異様だ。
    だが誰一人視線を向けることはない。自分のことで精いっぱいなのだ。一刻も早く脅威から逃れたいと、少しでも離れたいと喚き散らす。
    (嗚呼、五月蠅い)
    耳障りな声を排除したくて手元の端末の文字を追う。ひっきりなしに届くので通知は切ってしまった。
    呪霊の出現情報、派遣された術師の名前、発見された術師の状態、今動ける術師の数。
    一際多い死亡報告に弟の名前がないことに安堵する。安堵して、結局自分だって何も変わらないのだと自嘲が浮かんだ。
    (嗚呼、五月蠅い)
    ぽこぽこと黒いモノが生まれていく。生まれたソレがどうなるのかを彼女-新田明は知っていた。
    端末をひたすらにスクロールして得られるのは損害、負傷、欠損、死、死、再起不能。
    生存の文字が救いにならないことを彼女は知らなかった。知りたくなかった。
    たった数年、大した能力も持たずに弟を守りたくて飛び込んだ世界には確かに救いがあったはずなのに。
    五条悟という存在が消えただけで世界は瞬く間に地獄へと変わった。
    (違う。見ていなかっただけだ)
    誰もが眼を逸らしていただけ。たった一人に依存する世界の脆さを見て見ぬふりをしていただけだ。
    新田は術師ではない。術式なんてものはないし、ただうっすらとナニカが見えるだけだ。そんな彼女ですら、彼女だからこそ解ることもある。
    ぴたりとスクロールしていた指が止まる。弟の名と術式、そして『彼女』の名前。
    (まだ高校生ッスよ。)
    たった十五、十六の子供があっさりと命を落とす。遺体が残るだけマシだと新田はもう知っていた。
    ほんの少し遡れば、年相応に笑っていた彼らがいたはずなのに。
    「死刑、なんて」
    渋谷の惨状は知っている。それを成したのが誰であるかも。
    それでも新田の知っている彼は優しい子だった。友達のために動ける子だった。
    眼の奥が熱くなる。でもそれは新田に許されていない。そんなことをしている暇があるのなら、少しでも彼らのためになることを。
    新田をここに遣ったのは庵歌姫だ。
    切り札だと言っていた。取り寄せた資料に眼を落とす。呪術界の常識なら華々しいであろう経歴だが、新田には地獄への履歴書にしか見えなかった。

    ぞくり、と全身に悪寒が走る。
    気付かれないよう視線だけを彷徨わせて、息を呑んだ。
    幼い子供だ。電話に向かってヒステリックに叫んでいるのは母親だろうか。女性の手に縋りつきながら宙を見ている眼は怯え切っていた。
    新田には黒いもやにしか見えないが、きっとその子には見えているのだろう。じりじりと母親へと身体を押し付けて、ナニカから離れようとしている。見開かれた眼は瞬きもしない。ガチガチと鳴る歯と大きく上下する肩に母親は気付かない。黒いもやが少しずつ子供に近づいていく。
    新田にはソレが見えない。解るのはそれが子供に触れたら終わりだということ。子供の喉から引き攣った呼吸が漏れる。
    一歩、新田は踏み出した。
    「え」
    思わず漏れた声はどちらのものか。
    子供はポカンと同じ場所を見上げたままだ。新田もまた同じ顔をしているだろう。
    黒いもやがいた場所に、代わりに立つのは長身の男。刀袋を背負った彼はナニカを振り払った腕を下ろすと小さく子供に手を振った。呆然としたまま見上げる子供に困ったように笑い、そっと口元に人差し指を充てる。
    「新田さん、ですか?」
    「あ、そうっス!乙骨術師ッスよね?」
    気付けば彼は目の前で新田を見下ろしていた。長身だが大きな垂れ眼のせいか、柔和な笑みのせいか、威圧感は感じなかった。
    「はい。早速ですみませんが、状況を教えてください」
    車へと歩き出しながら簡単に経緯を説明する。
    渋谷での抗争、五条悟の封印、宿儺の暴走、そして上層部が下した結論。
    「夏油傑、ですか。」
    「はいッス。上層部は五条悟を夏油傑の共犯とみなしています。」
    新田はこの決定に疑問を持っている。夏油傑のことは、去年百鬼夜行を起こした特級呪詛師であるということしか知らない。だが、今回の渋谷での被害は五条悟より宿儺の手によるものの方が大きいのだ。むしろ五条悟は非術師にほとんど手をかけていない。遺体の状態や呪力の残穢から、殺したのは呪霊であると結論付けている。彼の残穢が確認された人間はいるが、全員自失状態ではあったものの皆回復していた。
    「他の被害は?今、動けている術師はどれくらいですか?」
    「二級以下の術師は基本的に渋谷外に配置されていたので、そこまで大きな被害が出ていません。」
    率先して動いている術師の名を上げるが、乙骨の表情は硬いままだ。先ほどの新田のように端末をひたすらにスクロールして名前を追っている。
    鬼気迫るような、縋るようなものを見た気がして、思い至った。
    「高専生について、東京校二年生は禪院術師、狗巻術師は重体で現在治療中、パンダ術師は無事は確認されていますが行方不明です。」
    乙骨の足が止まった。
    「重体?」
    ひゅ、と喉が鳴る。声は出せない。出せば死ぬ。
    さっきの子供みたいに全身が震えてガチガチと歯が鳴った。眼を逸らせずに大きな暗闇を見つめ続ける。
    一つ、彼が息を吐いた。
    「すみません」
    泣きそうな声だ。そう思ったら身体が体温を取り戻していた。
    ゆっくりと深呼吸した彼は眼を逸らしながら小さく新田に謝る。あ、と思った時には動いていた。
    「大丈夫ッス!」
    両手で掴んだ腕は刀を振るうには酷く細い。この細腕に、これからどれだけの命がのし掛かるのか。
    「三人とも生きているし、重体の二人も回復の見込みはあるって聞いてます。五条さんも封印されたけど死んだわけじゃないッス!」
    生きている。まだ誰も死んでいない。東京校で”まだ”死者は出ていない。
    「だから大丈夫!だから、」
    諦めないで。とは言えなかった。諦めなければ報われるとは限らない。一級呪術師すら殉職しているのだ。いくら実力があっても彼らは高校生。心身共に成長途中で本来ならまだ守られるべき子供だ。なのに戦場に送り出すしかできない。ただ言葉を吐き出すしかできないこの身が情けない。泣くなと念じても涙は勝手に溢れてくるし、鼻をすする音は誤魔化せないだろう。握ることしかできない腕にそっと添えられた手は人を救える手だ。
    「新田さん」
    「あ、ごめんなさいッス」
    そろそろと下ろす手が掬い上げられた。両手を取られてポカンと見上げる。
    「ありがとうございます。」
    心配してくれて。憤ってくれて。助けようとしてくれて。
    全部詰め込んだ言葉が新田に届く。何故、と思った。何故そんなに、
    「強くいられるんですか」
    「さっきあなたが言ってくれたから」
    "まだ"と。
    「僕はまだ何も出来ていない。これからなんです。皆がここまで頑張ってくれた。だから今度は僕が頑張る番です」
    強い眼差しが真っ直ぐに見下ろしてくる。呆然と見つめる新田にふにゃりと笑う顔は年齢より幼く見えた。ぐ、と奥歯を噛み締める。彼の覚悟に応えたかった。
    「現在負傷者は高専と、提携の病院で処置されています。京都校の一年生の術式で悪化はしていません。医療チームの指揮は家入さんが取っています。」
    「なら先に高専にお願いします。家入先生と話すまでは僕の帰国は隠していただけますか?」
    無粋な邪魔をされたくないので。
    視線の先に何を見ているかは知らないがゾッとする眼で虚空を睨む。
    元よりそのつもりであると告げれば大きな眼をぱちぱちさせた。
    「庵さんの指示です。“どう足掻いたって利用されるんだから、優先順位くらいは選ばせてやって”と。」
    「そう、ですか」
    困ったように笑う彼が折れませんように。
    新田はただそれだけを祈った。
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