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    1405Barca

    @1405Barca

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    1405Barca

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    仲良し燐塊兄弟のつづきです
    兄の死をきっかけにアルカナに目覚めたカイの話。
    完全妄想です。

    その凍てつきは怒りに燃え初めて触れた兄の手は、乾き、冷たく、そして何より大きかった。
    洞窟を抜け朝日霞む地平線を、ビハンの冷えた首筋に縋りつきながら眺めた時、カイリャンは初めて自由を知った。
    襲撃の火の手燻る家屋は軋みながら崩落する。堅牢に思えた村という檻の消失に、長く虐げられてきた彼は喜びよりも不安を覚え、身を縮こませる。ぎゅうと目を閉じて、己が霧散する様な恐怖に耐えていると、冷気が背を這った。彼にとって唯一の縁の感覚に目を開けば、透き通った青に射止められた。
    『大丈夫か』
    大きく冷たい手に頬を摩られると、強張った身体中が蕩けていく。ゆっくりと脱力しながら、緩んだ瞳から止めどなく流れる涙もそのままに肩口に顔を押し当てると、太く無骨な腕に抱きしめられた。
    『帰ろう。カイ。』
    幼児の涙は彼自身を溶かすように熱く滴る。身体に渦巻く嗚咽と激情の熱は、背を摩る手にゆっくり濾過されていく。冷えた手が心地よくて、また一筋雫が落ちた。帰路に着きながら泣き疲れ微睡む彼は、ひんやりと熱を取り去る兄のかたちに安寧を結びつけた。

    燐塊の広間は、今極寒の嵐に見舞われている。集まっていた者の中には逃げそびれ、苦悶の表情のまま凍りついた姿もあった。恐怖の源泉、嵐の中心に、カイリャンはいた。涙は己が異能で砕け散り、血液は凍結により膨張し皮膚を破り、霜で白くひび割れた肌から鋭利に露出している。アルカナの暴走、とりわけ覚醒した瞬間のそれだ。
    慌しく武装し周囲を取り囲む兵士達を呆然と眺め、カイリャンは言う。
    「誰の仕業だ。」
    爪が深々と刺さる拳の内側は、赤い結晶が花開いて。絶えず降下する室温に怯えながら、兵士は『スコーピオン』と零す。
    姿も知らぬ怨敵に、渦巻く念は暗黒色に燃え上がる。それはただ怒りではなく。兄の窮地に到底間に合わず覚醒した己自身への絶望。兄と瓜二つの異能に目覚めた仄暗い悦び。二度と触れえぬ兄への慕情と後悔。
    全てないまぜに荒れ狂う嵐の中で、ただ一つだけ明確に理解した。
    死ぬべきは、己だった。
    隣を歩むと吹聴しながら、彼の後を追う安直さを捨てられなかった己自身が罰されるべきだった。
    最早叶わぬ不可逆の願望の実を握り潰し、滴るのは憎悪のみ。
    凍てつく寒さは、かつての安寧から激情と復讐の証として生まれ変わる。
    「探せ、命に変えてでも。」
    氷柱が生き物の様に辺りを這い、吹雪は一層激しさを増す。堅牢な根城ごと氷漬けようとする嵐の中心に、新たな頭領に、燐塊の兵達は絶対零度の再来を見た。
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    1405Barca

    REHABILI現パロ尾鯉のギャグです。赦して。
    別に無趣味というわけではない。
    私大入学を機に都内に越してはや一年、灰の降らぬ生活にも慣れた今日この頃。ゼミに定期的に顔を出し、アルバイトも適度にこなし、サークルに入らない代わりにと近場の道場に度々足を運ぶ日常は同世代から見ても怠惰ではない。しかしながら大学生活二度目の春を迎えた鯉登音乃進にとって、それは惰性と断じる他ない日々だった。
    そもゼミ活動が本格化するのは3年次からであって、今は文献の読み方・引用のやり方など基礎的な学習であるし、アルバイトは音乃進と同じく進学と共に上京し、今では大手の営業職に就く兄から紹介された家庭教師をそれなりの頻度でこなすだけ。幼年から続けてきた示現流も、人目の多い都会の道場で猿叫することは叶わず。つまるところ、どれも時を忘れて熱中できるほどのものではないのだ。あと一年待てばゼミも本格化し憧れの鶴見教授と個人面談もあるのだが、彼のよかにせ教授は現在ロシアで調査発掘に勤しむ多忙な日々を送っていると聞く。院生でも声を掛けにくいと聞く熱中状態の鶴見教授に、ほやほやの一年目ゼミ生がアクションを起こせるはずもなく、画面びっちり敬愛と近況で埋め尽くしたメールを削除して、肌寒い春の夜風に撫でられながら音乃進は自室のパソコンの前で小さくキェェと鳴いた。
    4006

    1405Barca

    PROGRESS収録予定のカノウの短編です。
    冒頭のみ。
    その在り方は輝きを増して女は嫌いだ。細いだけの身体を着込んだ厚化粧。善良であることを売り出すしか能のないカモ。声高にわめくスーツのおとこ女。それら全てを、カノウは物理的な弱さ、脆さのために嫌悪してきた。だが今になって、それらを凌駕する悪性に鼻が曲がりそうになっている。
    何だってんだ、クソ。特殊部隊で殺人も犯したであろう御身分で、今更躊躇する馬鹿がいるか。
    カノウにとっての正義は強さと搾取だった。強いものが勝ち弱者から奪い、栄える。自然界ではこうはいかないらしいが、人間はそれでいい。弱肉強食の明瞭な線引きが心地よいと感じているし、その明暗が際立つことに美を見出してきた。強者はとことん圧倒的に、傲慢に、残忍であるべきだ。そうあるために命も権利も投げ出して奉仕することこそが弱者の喜びであり、この世の美しさを邁進させる崇高な使命なのだと信じてやまない。ではどうやって人を二色に塗り分けるのか、それは闘争に他ならない。どれほど強そうでも、どれほど弱そうでも、実際にぶつかり合い、殺し合う。どれほどのハンディキャップがあろうとも舞台に立った相手は対等であり戦友であり、その高潔さと流した血の尊さに免じて、徹底的に叩き潰す。美しき選抜の聖戦に多くの人間は見向きもしない。特に女達は。だからカノウは女を嫌い憎んできた。
    897

    1405Barca

    PROGRESS収録予定のハルミの短編です。冒頭のみ。
    童の歓声、泡沫の夢朝の空気はさっぱりと清く張り詰めて、何気ない作業にも力が満ちる。この所暑い日が続いていたから、今朝の涼やかさは特に心地良い。
     ハルミはそう思いながら、今日も畑を手入れしていた。数十年の混乱と大戦を経て白井流一派はようやく山深い庵に辿り着き、また世も統治者を得て規律と平穏を取り戻しかけている。未だ敵の多い白井流が市井に溶け込むのは困難だが、食糧や物品の調達に時折蚤の市に顔を出せば、日を跨ぐ事に品が増え、人が増え、活気が増しているのは肌で感じる。まだ世に溶け込めぬ身であっても、人々の顔に笑顔が芽吹くのを彼女は我が事のように祝福していた。
     もしかするともしかすると、木の枝でちゃんばらを楽しむ子供達に我が子が加わるのも遠くないのではないか。次は十兵衛も連れて買い出しに行こうと決め、稽古に勤しむ坊に渡す秘密の甘味を思い浮かべて笑顔が溢れる。今日もくたくたに疲れ帰ってくる我が子に滋養の粥を食べさせる為、陽が中天に掛かるまでには市で見つけた種を撒くつもりだ。さくさくと青々した小松菜を収穫していると、遠くから愛しい家族、ハンゾウとジュウベエが並んで帰ってくる。昔はこの腕に収まる程小さかった我が子も、今や桶ひとつ軽々運んでくるのだから驚いたものだ。父の背に近づき、並び立つ日も近いだろう。今から打乱箱を使うのが楽しみで、今晩あたりあの人に諱を聞いてみようかしらと笑みが溢れる。妹の世話も進んで担う長子の姿に成長の兆しを見つけ、ハルミは温かな気持ちで土いじりに更に精を出す。
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    1405Barca

    DONE一人前扱いされたいカイと弟離れできないビハンの話。弟を見ると煙草の火を消してしまう癖のあるビハンを書こうとしたらいつの間にか二人がキスしていた。ビハン×カイリャン要素あります。閲覧注意。
    それは愛ってやつだよ「御苦労。報告を聞こう。」

     樫の古木の下、じゅう、とほぼ新品の葉巻を足元に押しつけビハンは顔を上げる。兄のこの癖が、カイは嫌いだった。幼い頃は意味も分からずなし崩しに話しかけていたが、今や成人し正式に燐塊に所属する一暗殺者。髭を蓄え肉も育ったというのに、兄はこちらの姿が見えた途端煙草を消してしまう。未だ繰り返されるその所作に『お前は未だ半人前だ』と言われている気がしてカイは眉を寄せる。

    「頭領、以前も申し上げましたが煙はそのままで結構です。フロストやスモークの報告では吸われているでしょう。私も同様に接して頂きたく。」

     貴方様の許可さえあれば一本同伴しますよ、と続ければ怪訝な瞳で覗き込まれる。彼の水面の如き透明な碧眼にこの幼稚な羨望が映ってしまわぬように、目を細めた。目つきは悪くなっているだろうが、完全に自己防衛策だである。数秒の間じっと見つめ合い、結果己のやましさから先に目を逸らしたのはカイだった。
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    1405Barca

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    それは愛ってやつだよ「御苦労。報告を聞こう。」

     樫の古木の下、じゅう、とほぼ新品の葉巻を足元に押しつけビハンは顔を上げる。兄のこの癖が、カイは嫌いだった。幼い頃は意味も分からずなし崩しに話しかけていたが、今や成人し正式に燐塊に所属する一暗殺者。髭を蓄え肉も育ったというのに、兄はこちらの姿が見えた途端煙草を消してしまう。未だ繰り返されるその所作に『お前は未だ半人前だ』と言われている気がしてカイは眉を寄せる。

    「頭領、以前も申し上げましたが煙はそのままで結構です。フロストやスモークの報告では吸われているでしょう。私も同様に接して頂きたく。」

     貴方様の許可さえあれば一本同伴しますよ、と続ければ怪訝な瞳で覗き込まれる。彼の水面の如き透明な碧眼にこの幼稚な羨望が映ってしまわぬように、目を細めた。目つきは悪くなっているだろうが、完全に自己防衛策だである。数秒の間じっと見つめ合い、結果己のやましさから先に目を逸らしたのはカイだった。
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