その在り方は輝きを増して女は嫌いだ。細いだけの身体を着込んだ厚化粧。善良であることを売り出すしか能のないカモ。声高にわめくスーツのおとこ女。それら全てを、カノウは物理的な弱さ、脆さのために嫌悪してきた。だが今になって、それらを凌駕する悪性に鼻が曲がりそうになっている。
何だってんだ、クソ。特殊部隊で殺人も犯したであろう御身分で、今更躊躇する馬鹿がいるか。
カノウにとっての正義は強さと搾取だった。強いものが勝ち弱者から奪い、栄える。自然界ではこうはいかないらしいが、人間はそれでいい。弱肉強食の明瞭な線引きが心地よいと感じているし、その明暗が際立つことに美を見出してきた。強者はとことん圧倒的に、傲慢に、残忍であるべきだ。そうあるために命も権利も投げ出して奉仕することこそが弱者の喜びであり、この世の美しさを邁進させる崇高な使命なのだと信じてやまない。ではどうやって人を二色に塗り分けるのか、それは闘争に他ならない。どれほど強そうでも、どれほど弱そうでも、実際にぶつかり合い、殺し合う。どれほどのハンディキャップがあろうとも舞台に立った相手は対等であり戦友であり、その高潔さと流した血の尊さに免じて、徹底的に叩き潰す。美しき選抜の聖戦に多くの人間は見向きもしない。特に女達は。だからカノウは女を嫌い憎んできた。
しかし今回は違う。ずっと搾取する側だった己が地に伏した。相手は女だった。これまでの弱さを直視し乗り越えもしない屑とは違う、強い女。カノウは初めて敗北し、初めて奪われる歓びに身を震わせ、
そして何も起きなかった。
「しけた面じゃねぇかブロンド。そんなに相棒のナニが女々しかったか?」
濃い藍色の半球の下、砂の大海に浮かぶ寺院に満ちていた静けさを、わざと下卑た言葉で濁らせる。声をかけた相手、ソニアはあからさまに眉を寄せた。マークを持たない彼女は、こちらが鍛錬にいそしむ間、上官であり相棒のジャックスの補助をしているらしい。つまらない、お前が戦えばいい、あんな玩具の義手で何ができる。鬱憤をそのままぶつけたが、当人はこちらを向きもせず、言い返してもこない。ただ声を掛ける前と同じに、砂の闘技場を眺めていた。