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    1405Barca

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    1405Barca

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    前呟いてたワン学のクザサカ導入です。
    サカズキ先生のアパートが台風で浸水します。よろしくお願いします。

    #クザサカ
    kuza-saka

    強風で窓ガラスがガタガタと揺れる部屋の中心で、サカズキは目を白黒させるしかなかった。

    「んまぁ〜〜ごめんねぇ先生!あたしも手伝うから!ハイこれバケツ!」
    日頃は騒音に目くじらをたてるばかりの大家も、この状況では心強く親切極まりない。ありがとうございます、と100円均一の小さなちりとりを脇に置き、サカズキは雨水をバケツで掻き出した。
    数日前から今年度最大級と噂された台風が直撃したのは週末だった。命を守る行動を、という指示のもと学校でも危険物は体育館に仕舞い、連絡網とハザードマップを一枚にまとめたプリントを配布したのが記憶に新しい。金土日の部活動は中止とあって、生徒も教員も足速に帰宅した。かくいうサカズキも戸締りは校長に任せ通常より2時間早く職員室から出たし、台風需要で人で溢れたスーパーで水とインスタントを買い溜めして、帰宅後は窓に養生テープまで貼った。やるなら徹底的にと雨の予感濃い曇り空の下、ベランダの掃除もして我ながら準備バッチリじゃなと腕組みしていたのだ。
    それでこの有様である。借アパートの自室は三階であるにも関わらず浸水していた。ちゃぷ、と強風の重い風音と雨音に混じる異音に目を覚ましたのが深夜5時、電気をつければフローリングは浅瀬のプールと化していたのだ。原因は屋上からの桟がサカズキのベランダを通っていた事、そして丁度ここで屋上の堆積物が詰まってしまったこと。幸い自室とはいえ物が少なく、床下収納もなかったのが幸いだった。急ぎ大家に電話して今に至るまで排水作業に追われている。ふと目に入った時計は朝8時を差していて、空が暗いままだとここまで時間感覚が狂うかとため息がでた。結局30分後、掃いても掃いても水位が変わらないことに業を煮やした大家が力技で桟を取り外し、浸水は収まった。結局その日は台風が過ぎるまで大屋の家に移動し、夕刻まで寝直すこととなった。
    とはいえ、フローリングはサカズキだけの問題ではない。目を覚ましてすぐ、大屋は二階に水漏れしていないかの点検と床板の張り替えの為、一時立退をサカズキに要求した。話を聞くと、親戚がビジネスホテルを経営しているので工事期間そこに住んで欲しいとのことだ。勿論宿泊費は不要だったので、サカズキは有難くその選択を受け入れた。そうして着替、指導要領、教材にPCを愛車に積み、台風直撃から半日後、1ヶ月間のビジネスホテル生活が幕を開けた。
    結論から言えば快適だ。学校から近く、自宅よりわずかに狭いが毎日清潔なシーツの敷かれたベッドがあるので余ある。近年ホテルに居住する社会人も一定数いるのも一理あるなとサカズキは朝食バイキングをつつく日々だ。元より自炊するタイプではないのでそこも性に合っていた。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    「じゃ、お先に失礼するよぉ〜」
    言うなりピュンッと光の速さで定時退勤するボルサリーノを横目にプリント整理を続けていると、ドンドンと校舎が壊れる音の後、生徒の怒号と悲鳴が走る。日常的な生徒の暴走だがいかんせん校舎の修繕費は無限ではないため、やれやれとサカズキは席を立った。
    「サカズキ先生〜!」
    「どいつらじゃあ!」
    「一年の麦わらと二年のクロコダイルが...!」
    結局この日の退勤は20時を超えた。

    「あんのアホども...砂嵐でどこまで飛べるかなんぞどうでんいいし、やるにしてももっと広い場所でよかったじゃろうが...」
    中庭で砂嵐を起こせば屋上まで登れる説を実証していたと大きなたんこぶをこさえて二人は説明した。おおよそ麦わらの提案に売り喧嘩に買い喧嘩でクロコダイルも協力することになったのだろう。お陰で中庭とそれに面した各教室は砂まみれ、主犯二人と手隙の教員でヒイヒイ言いながら掃除していたら日が暮れた。2人を保護者に引き渡した後、サカズキは帰路に付いている。この体では砂まみれになると愛車は学校に置いてきた。歩いてもそう遠くないのが幸いだった。体も口の中も砂混じりでとにかく風呂が浴びたい。いつもより大股でちゃかちゃかと進めば想像より早くホテルへ着いた。あとは鍵を受け取り熱いシャワーを、とフロントにズカズカ近づく。と、右肩にドン、と衝撃を受けた。
    「んあ?」
    なんじゃいと顔を向けると、ぶつかったのは見知った男。その向かいに知らん女。
    「ありえない!帰る!」
    「違うんだって、ねーちゃん。」
    「他の女のキスマークつけてよく言えるわね!?」
    すぐ近くのエレベーターから降りてきたらしい2人は服に乱れがあって、状況はいやでも見てとれた。
    「いやいや、本命じゃないのよ」
    「ならなんで手出したの?馬鹿にしてるの?今晩口説いてきたのは嘘だってことでしょ!」
    「いや、その子もあんたも本命じゃないってこt」
    バキン!
    女のエナメルのバッグが男の頬に直撃して、男の首はガラス細工のように砕けて落ちた。死ね!と一喝して女は出て行く。いいスイングじゃな、と他人事のよう観察して、サカズキは砕けた破片を摘みながら言った。
    「わしもそれはあり得ん思うぞ、クザン。」
    「あらら珍客。一杯奢るから見なかった事にしてくんない?」
    ぱきぱきと冷気を纏わせながら原型に戻っていく同僚に、サカズキは白い目を向けた。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    「未成年じゃなかろうな。」
    「さすがにヤバいだろ。アンタの中で俺どんだけ期待値低いのよ。」
    湯上がりのラフな格好のままチェーンの居酒屋で大男2人が箸を進めている。あの後クザンがフロントに詫びをいれている時間でざっとシャワーを浴びて飲みに外に出た。21時前で店はごった返し場末といった感じだが、それが風味となって酩酊に浸かれるというものだ。
    「小綺麗にして、いい子じゃ思うたが?」
    「あー、前にガープさんと行ったキャバの子よ。向こうが店外で会おうって言うからさぁ。」
    まさか俺のこと本指じゃなくて本命だって思わないじゃない、と一年学年主任のクザンは梅酒をついとあおる。
    「その気がないなら線引きせぇ。」
    「え〜だって溜まるもんは溜まるじゃん。」
    「そろそろ身を固めたらどうじゃ。見合いでも何でもお前ならよりどりみどりじゃろうが。」
    アジフライに歯を立てながらサカズキは言う。別にお世辞でもなく、クザンはよくモテるのだ。少し悩んだふうにう〜んと呟いて、男は言う。
    「結婚は好きな人としたいじゃん。」
    「うわ....」
    「らしくない反応で煽んないでくれます!?」
    もうすぐ50代の男が口に出すとまぁまぁキツいぞと連続攻撃するとスン...と無感情な顔になったクザンにビールを凍らされた。姑息な手はやめんか。
    「あんたは再婚しないの?」
    小さな器のモツ煮を突きながら問うクザンの声色には意趣返しと心配が混じっている。サカズキは15年前妻に先立たれて以来独り身だ。
    「もう一人暮らしに慣れたからのぉ。自炊はせんが。」
    サカズキはレバニラ炒めに醤油をかけて、その後七味をもっさりと振った。出たよ、と嫌そうな目でクザンは自分の小鉢をサカズキから遠ざける。
    「男一匹じゃとそう物も溢れん。まぁ突然死しても処分は楽じゃろうて。」
    「アンタさぁ、笑えねーよ。」
    あ!今くしゃみするなよ!と七味を警戒しつつ唐揚げにレモンを搾って、あ!と思い出したかのようにクザンが顔を上げた。
    「何であのホテルいたの?シャワー浴びるだけだった?」
    「今あそこに住んどる。この前ん台風の雨でフローリングがイカれた。」
    ベランダに雨が貯まって...と詳細を説明するとかわいそ〜と雑に返されたので、サカズキはクザンの頼んだ明太卵焼きに躊躇なく七味を振りかけた。おいバカ!と喚くクザンの残している唐揚げをついでに素早く己が口に放った。
    「こんにゃろ、嫌がらせが20年前と変わってねぇぞ」
    「変えちょらんからのぉ。」
    このマグマこどおじさんがぁ...と七味から逃れた卵焼きの端っこをついついとクザンが切る。お前も舌がガキのままじゃろうが...と嫌味垂れようとサカズキが口を開けると。
    「ウチ来なよ。」
    クザンに先を越された。
    「は?」
    「気はあわねぇけど、20年来の同僚が現役で孤独死なんて俺はやだよ。」
    「お前、いい相手ができるかもしれんじゃろ。」
    「そういうことは出来たら考えればいいだろ。」
    「家に女も呼びにくいじゃろ。」
    「俺は家に遊びの子は上げねぇ主義なの。だから大丈夫。」
    しかし、と口籠るサカズキに反して、クザンはいつもの飄々とした口調のまま続ける。
    「このご時世、老衰で孤独死なんて意外に難しいぜ。将来施設に入って共同生活送る練習にもなるんじゃねぇの?俺もそろそろ一人暮らしが板についちまうと独身貴族まっしぐらだし、お互い助けると思ってよ。」
    あ、家賃は折半な。とクザンは最後にやってきた焼鳥を一本取る。その砂肝はわしのじゃぞ、と手を伸ばすとひょいと避けられた。にいっと生意気な笑顔の同僚は嫌というほど見覚えがある。サカズキは日頃老獪ぶるこの後輩の、年下らしい一面を気に入っていた。
    「オッケーするならこれあげる。」

    深夜23時。居酒屋から駅までの通りにある不動産屋は閉まっていたが、そこには大男が2人、街灯の下張り出されたルームシェア用の物件を眺めていた。
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    1405Barca

    REHABILI現パロ尾鯉のギャグです。赦して。
    別に無趣味というわけではない。
    私大入学を機に都内に越してはや一年、灰の降らぬ生活にも慣れた今日この頃。ゼミに定期的に顔を出し、アルバイトも適度にこなし、サークルに入らない代わりにと近場の道場に度々足を運ぶ日常は同世代から見ても怠惰ではない。しかしながら大学生活二度目の春を迎えた鯉登音乃進にとって、それは惰性と断じる他ない日々だった。
    そもゼミ活動が本格化するのは3年次からであって、今は文献の読み方・引用のやり方など基礎的な学習であるし、アルバイトは音乃進と同じく進学と共に上京し、今では大手の営業職に就く兄から紹介された家庭教師をそれなりの頻度でこなすだけ。幼年から続けてきた示現流も、人目の多い都会の道場で猿叫することは叶わず。つまるところ、どれも時を忘れて熱中できるほどのものではないのだ。あと一年待てばゼミも本格化し憧れの鶴見教授と個人面談もあるのだが、彼のよかにせ教授は現在ロシアで調査発掘に勤しむ多忙な日々を送っていると聞く。院生でも声を掛けにくいと聞く熱中状態の鶴見教授に、ほやほやの一年目ゼミ生がアクションを起こせるはずもなく、画面びっちり敬愛と近況で埋め尽くしたメールを削除して、肌寒い春の夜風に撫でられながら音乃進は自室のパソコンの前で小さくキェェと鳴いた。
    4006

    1405Barca

    PROGRESS収録予定のカノウの短編です。
    冒頭のみ。
    その在り方は輝きを増して女は嫌いだ。細いだけの身体を着込んだ厚化粧。善良であることを売り出すしか能のないカモ。声高にわめくスーツのおとこ女。それら全てを、カノウは物理的な弱さ、脆さのために嫌悪してきた。だが今になって、それらを凌駕する悪性に鼻が曲がりそうになっている。
    何だってんだ、クソ。特殊部隊で殺人も犯したであろう御身分で、今更躊躇する馬鹿がいるか。
    カノウにとっての正義は強さと搾取だった。強いものが勝ち弱者から奪い、栄える。自然界ではこうはいかないらしいが、人間はそれでいい。弱肉強食の明瞭な線引きが心地よいと感じているし、その明暗が際立つことに美を見出してきた。強者はとことん圧倒的に、傲慢に、残忍であるべきだ。そうあるために命も権利も投げ出して奉仕することこそが弱者の喜びであり、この世の美しさを邁進させる崇高な使命なのだと信じてやまない。ではどうやって人を二色に塗り分けるのか、それは闘争に他ならない。どれほど強そうでも、どれほど弱そうでも、実際にぶつかり合い、殺し合う。どれほどのハンディキャップがあろうとも舞台に立った相手は対等であり戦友であり、その高潔さと流した血の尊さに免じて、徹底的に叩き潰す。美しき選抜の聖戦に多くの人間は見向きもしない。特に女達は。だからカノウは女を嫌い憎んできた。
    897

    1405Barca

    PROGRESS収録予定のハルミの短編です。冒頭のみ。
    童の歓声、泡沫の夢朝の空気はさっぱりと清く張り詰めて、何気ない作業にも力が満ちる。この所暑い日が続いていたから、今朝の涼やかさは特に心地良い。
     ハルミはそう思いながら、今日も畑を手入れしていた。数十年の混乱と大戦を経て白井流一派はようやく山深い庵に辿り着き、また世も統治者を得て規律と平穏を取り戻しかけている。未だ敵の多い白井流が市井に溶け込むのは困難だが、食糧や物品の調達に時折蚤の市に顔を出せば、日を跨ぐ事に品が増え、人が増え、活気が増しているのは肌で感じる。まだ世に溶け込めぬ身であっても、人々の顔に笑顔が芽吹くのを彼女は我が事のように祝福していた。
     もしかするともしかすると、木の枝でちゃんばらを楽しむ子供達に我が子が加わるのも遠くないのではないか。次は十兵衛も連れて買い出しに行こうと決め、稽古に勤しむ坊に渡す秘密の甘味を思い浮かべて笑顔が溢れる。今日もくたくたに疲れ帰ってくる我が子に滋養の粥を食べさせる為、陽が中天に掛かるまでには市で見つけた種を撒くつもりだ。さくさくと青々した小松菜を収穫していると、遠くから愛しい家族、ハンゾウとジュウベエが並んで帰ってくる。昔はこの腕に収まる程小さかった我が子も、今や桶ひとつ軽々運んでくるのだから驚いたものだ。父の背に近づき、並び立つ日も近いだろう。今から打乱箱を使うのが楽しみで、今晩あたりあの人に諱を聞いてみようかしらと笑みが溢れる。妹の世話も進んで担う長子の姿に成長の兆しを見つけ、ハルミは温かな気持ちで土いじりに更に精を出す。
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    1405Barca

    DONE一人前扱いされたいカイと弟離れできないビハンの話。弟を見ると煙草の火を消してしまう癖のあるビハンを書こうとしたらいつの間にか二人がキスしていた。ビハン×カイリャン要素あります。閲覧注意。
    それは愛ってやつだよ「御苦労。報告を聞こう。」

     樫の古木の下、じゅう、とほぼ新品の葉巻を足元に押しつけビハンは顔を上げる。兄のこの癖が、カイは嫌いだった。幼い頃は意味も分からずなし崩しに話しかけていたが、今や成人し正式に燐塊に所属する一暗殺者。髭を蓄え肉も育ったというのに、兄はこちらの姿が見えた途端煙草を消してしまう。未だ繰り返されるその所作に『お前は未だ半人前だ』と言われている気がしてカイは眉を寄せる。

    「頭領、以前も申し上げましたが煙はそのままで結構です。フロストやスモークの報告では吸われているでしょう。私も同様に接して頂きたく。」

     貴方様の許可さえあれば一本同伴しますよ、と続ければ怪訝な瞳で覗き込まれる。彼の水面の如き透明な碧眼にこの幼稚な羨望が映ってしまわぬように、目を細めた。目つきは悪くなっているだろうが、完全に自己防衛策だである。数秒の間じっと見つめ合い、結果己のやましさから先に目を逸らしたのはカイだった。
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