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    1405Barca

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    1405Barca

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    現パロ尾鯉のギャグです。赦して。

    #尾鯉
    koi

    別に無趣味というわけではない。
    私大入学を機に都内に越してはや一年、灰の降らぬ生活にも慣れた今日この頃。ゼミに定期的に顔を出し、アルバイトも適度にこなし、サークルに入らない代わりにと近場の道場に度々足を運ぶ日常は同世代から見ても怠惰ではない。しかしながら大学生活二度目の春を迎えた鯉登音乃進にとって、それは惰性と断じる他ない日々だった。
    そもゼミ活動が本格化するのは3年次からであって、今は文献の読み方・引用のやり方など基礎的な学習であるし、アルバイトは音乃進と同じく進学と共に上京し、今では大手の営業職に就く兄から紹介された家庭教師をそれなりの頻度でこなすだけ。幼年から続けてきた示現流も、人目の多い都会の道場で猿叫することは叶わず。つまるところ、どれも時を忘れて熱中できるほどのものではないのだ。あと一年待てばゼミも本格化し憧れの鶴見教授と個人面談もあるのだが、彼のよかにせ教授は現在ロシアで調査発掘に勤しむ多忙な日々を送っていると聞く。院生でも声を掛けにくいと聞く熱中状態の鶴見教授に、ほやほやの一年目ゼミ生がアクションを起こせるはずもなく、画面びっちり敬愛と近況で埋め尽くしたメールを削除して、肌寒い春の夜風に撫でられながら音乃進は自室のパソコンの前で小さくキェェと鳴いた。
    要は生活に充実感がないのだ。校内を歩く同世代の軽薄だが楽し気な談笑、教材を抱え駆けるせわしない足並み、遠巻きに聞こえる運動部の掛け声。鯉登家の次男という立場と生来の高慢さから、その全てから隔離され、学友の一人もいない音乃進はうだつの上がらない日々を過ごしていた。何でもいい。何か新しいことがしたい。あわよくば、誰かと繋がれるような、たわいもない話ができるようになれるような。夜風の冷たさに上着を羽織りつつすいすいとスマートフォンをなぞりながら、ふと、幼少の頃を思い出した。
    それは音乃進が声変わりを迎えたころ。上京した兄は郷愁の念満ち満ちて、頻繁に電話をかけてきた。大学での事を話聞かせるというよりこちらの声を聴きたくて掛けているのだろう、大半の時間は音乃進の近況報告だった。近所で話題になるほどの兄の溺愛っぷりは遠距離になって更に加速し、多感な年頃だった音乃進のプライベートにも容赦なく踏み込んできた。この時兄の興味は交友関係、特に恋愛の方面にあり、二日に一回の通話で気になる人はおらんのか?と何度も探りを入れてくるだけに留まらず、高校の女学生を隅々調べ上げ、この娘はどうじゃ、こんな娘もおるぞなどと相手非公認のお見合いを始める始末。全て善意からのお節介だとは理解できても思春期の音乃進にとっては有難迷惑であり、なんとかこの不毛な会話を終わらせようと彼は考えに考えた。二晩ほど頭を悩ませ、日曜日の特撮ヒーローを眺めているうち、ついに打開策を打ち出した。
    彼女がいないなら作ればいい。後腐れのない架空の女学生を、自分自身で作り出すのだ。この時ほど、示現流の猿叫に感謝したことも無い。彼の喉は変声期を乗り越えてなお、高音の適正があったのだ。二日後の晩、満を持して兄からのコールを取り、音乃進は確かに彼女の存在を信じ込ませたのだった。

    『こいはろ~♡みんな一日おやっとさぁ♡恋乃音だよ~♡』

    鯉登音乃進は、俗にいう両『声』類なのであった。


    ~~~~~~~~~~~~~~~


    「存外暇な連中がいるものだな。」
    PCを弄りながら、音乃進は投稿動画の横の数字を眺めた。
    両声類であること、つまり画面上では萌声褐色和装ロリだが中身はれっきとした成人男性であるという事実を、音乃進は隠していない。むしろ明言することを挨拶代わりに配信を始めることをルーティンとしている。なので普通の女性萌声生主を求めてやってくる視聴者は予めはじかれている。いかにVTuberといえど、それ自体に希少価値がついていたのは数年前の黎明期までで、今では個人Vなど掃いて捨てるほどあぶれているのが現状だ。バ美肉もボイチェン(音乃進の場合人力だが)も方言もそう珍しくもなく、話題性やキャラづけの面では使い古された要素だ。
    だというのに、大した告知もせず参入した個人勢としては悪くない再生数が表示されている。勿論企業や有名個人勢とは雲泥の差で、収益化も遥か先ではあるが、自己紹介動画、ゲーム実況、作業配信、そしてメインの歌みた配信。合わせて十に満たない投稿動画は多いもので視聴回数4桁に届いている。駆け出しの生主にこれだけ視聴者がつくとは、と嬉しさと恥ずかしさでついうふふと微笑みが溢れた。
    しかして音乃進は冷静だった。思うに、この再生回数は、ビジュアルが要因だ。画面の端からすいと引き出した2D体は二次元に詳しくない音乃進にもわかりやすく愛らしく、そしてほんのりとフェテッシュな絶妙な出来栄えだ。女性にも男性にも愛されそうな、でも少しだけお色気要素もある感じで、という曖昧な依頼だったが素晴らしい作品がかえって来た。

    「流石は頭巾ちゃん先生だな!前々から素敵な絵だなと思っていたから喜びもなおのこと。う~んこの萌袖から覗くフリル、色彩、瞳の描きこみ、も~ほんとスゴ~~~~イ!!」

    大枚はたいた甲斐があった。配信中ずっと目に入れているが、いつ見ても新しい発見があるほどの膨大な描きこみだ。先生に感謝の電話をした時も、自信作だとフンフン鼻を鳴らしていた。あれこの絵師かわいいな。だがこんなかわいらしい仕草でも実際は元軍人の屈強なロシア人らしいので、音乃進としては頭巾ちゃん先生もバ美っと配信すればいいのにと思っている次第である。
    動画編集を終え、居住まいを正してから投稿ボタンを押す。少しだけ緊張するのは、音乃進の中で、この疑似女体に対し己の研鑽が足りぬという自覚の表れだった。せっかく推し絵師に与えてもらった肉体、まだまだ萌声に研鑽を重ねねば、と生来の義理堅さと積極性で、彼の胸は熱く燃えていた。彼の身体は今、久しく無くしていた充足感で満ち溢れていた。




    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




    きっかけは安易なものだ。
    Youtubeの『あなたへのおすすめ』と銘打って表示される動画はユーザーの周知の如く、謎チョイスで有名である。急に十年前の動画が発掘されたり、興味の分析に明らかに当てはまらないものだったりする。そのうちのパターンの一つに、一目で駆け出しだとわかる、再生回数の少ないVtuberの動画が表示されるというのがあったのだ。アルバイトを終え、ひとり鍋をつつきながら、するすると画面をスクロールしていくうち、ふと目に留まった一つの動画。秘かに応援していた絵師が産み落としたであろうVは、苦学生尾形百之助に、どこか既視感を抱かせた。

    「いや推せすぎる…。何なんだこの成人男性ロリは…。っ今の鼻濁音サイコ~~~赤スパ投げざるを得ない。結婚してくれ。」

    そして秒で沼った。

    画面上にスーッと赤い枠が浮かび、猫のアイコンと共に「俺の嫁へ」というコメントが映し出される。現在ライブの同時視聴者数は86人。幸いコメントの流れはゆっくりで、傍から見れば大怪我間違いなしの黒歴史赤スパは真夏の陽のごとく燦々と居座り続けている。尾形に続くスパチャはまず現れないため、画面越しに思う存分大勝利のキメ顔を向けた。左右にせわしなく揺れるVtuber恋乃音の歌声に魅了されるあまり、尾形は赤スパに続くコメント「ワ…!」「彼氏面ってコト?」「男って明言しててもこんなの湧くんだ」「怖~」「草」「オイお前ニートだろ!」「なんでこいつ自分からデジタルタトゥー入れに言ってんの?囚人なの?」は視界に入っていなかった。
    尾形百之助は苦学生である。資産家と風俗嬢の非嫡出子として生まれ、母の死後は母方の祖母や父の別荘などを転々としつつ義務教育を終えた。そのころにはすっかり家事炊事は身に付き、ニヒリズムに傾倒した己が人格を自覚した。盲目的な思慕の虚しさと、己が力で稼ぎ生きるためには己に付加価値を付けるしかないことは、母の痩せこけた横顔から学んでいた。尾形は今、奨学金を借りながら大学生活を送っている。公立である為、成績優秀者であれば授業料が免除されることもあり銀行口座にはそれなりの額が入っているが、余計な借りを作りたくない一心で生活費はほぼアルバイトで賄っていた。 クリュニーもびっくりの清貧な生活にも慣れた二年次のある日、運命的な出会いをした。一方的に。

    『あ、すないぷねこさん、スパチャあいがと!え~と、おいは男じゃっでね。わかっちょとはおもが…。』

    「んなことわかってる。それがいい。そこがいい。」

    『うふふ、おいもわかっちょっが、ないごてが照れてしまうな。変な感じだ。』

    「えっかわい…。てか声聞こえてるのか?え?相思相愛か?やっぱそうか…。」

    天啓得たりと深く息を吐く尾形には「その発言やばいと思いモス」「ストーカー量産すな」「これが新時代のヤンホモ製造機かぁ」「やっぱり草」「恋のお話し?聞かせて?」「オンラインオチウしろ」のコメントはやっぱり見えていなかった。
    流れるように『俺も好きだぞ』と赤スパを投げる。尾形は居酒屋、ホテル清掃、塾講師であくせく稼いだ金を溶かすことに快感を覚えるようになっていた。おっ恋乃音がキェって鳴いた。ちょっと引いている恋乃音かわいいなァおい。俺の汗のしみ込んだ札束(オンライン)で推しのかわいい面を叩けると思うとあっちょっと出るッ。血は争えないのではない。これまで勉学にアルバイトに集中してきたあまり、札束さえあれば特別扱いしてくれる好みの娘♂という万能の願望器を前に、尾形の精神はパチスロ80%演出で脳を破壊された浮浪者の如くアドレナリン漬けにされているのだった。
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    1405Barca

    REHABILI現パロ尾鯉のギャグです。赦して。
    別に無趣味というわけではない。
    私大入学を機に都内に越してはや一年、灰の降らぬ生活にも慣れた今日この頃。ゼミに定期的に顔を出し、アルバイトも適度にこなし、サークルに入らない代わりにと近場の道場に度々足を運ぶ日常は同世代から見ても怠惰ではない。しかしながら大学生活二度目の春を迎えた鯉登音乃進にとって、それは惰性と断じる他ない日々だった。
    そもゼミ活動が本格化するのは3年次からであって、今は文献の読み方・引用のやり方など基礎的な学習であるし、アルバイトは音乃進と同じく進学と共に上京し、今では大手の営業職に就く兄から紹介された家庭教師をそれなりの頻度でこなすだけ。幼年から続けてきた示現流も、人目の多い都会の道場で猿叫することは叶わず。つまるところ、どれも時を忘れて熱中できるほどのものではないのだ。あと一年待てばゼミも本格化し憧れの鶴見教授と個人面談もあるのだが、彼のよかにせ教授は現在ロシアで調査発掘に勤しむ多忙な日々を送っていると聞く。院生でも声を掛けにくいと聞く熱中状態の鶴見教授に、ほやほやの一年目ゼミ生がアクションを起こせるはずもなく、画面びっちり敬愛と近況で埋め尽くしたメールを削除して、肌寒い春の夜風に撫でられながら音乃進は自室のパソコンの前で小さくキェェと鳴いた。
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    1405Barca

    PROGRESS収録予定のカノウの短編です。
    冒頭のみ。
    その在り方は輝きを増して女は嫌いだ。細いだけの身体を着込んだ厚化粧。善良であることを売り出すしか能のないカモ。声高にわめくスーツのおとこ女。それら全てを、カノウは物理的な弱さ、脆さのために嫌悪してきた。だが今になって、それらを凌駕する悪性に鼻が曲がりそうになっている。
    何だってんだ、クソ。特殊部隊で殺人も犯したであろう御身分で、今更躊躇する馬鹿がいるか。
    カノウにとっての正義は強さと搾取だった。強いものが勝ち弱者から奪い、栄える。自然界ではこうはいかないらしいが、人間はそれでいい。弱肉強食の明瞭な線引きが心地よいと感じているし、その明暗が際立つことに美を見出してきた。強者はとことん圧倒的に、傲慢に、残忍であるべきだ。そうあるために命も権利も投げ出して奉仕することこそが弱者の喜びであり、この世の美しさを邁進させる崇高な使命なのだと信じてやまない。ではどうやって人を二色に塗り分けるのか、それは闘争に他ならない。どれほど強そうでも、どれほど弱そうでも、実際にぶつかり合い、殺し合う。どれほどのハンディキャップがあろうとも舞台に立った相手は対等であり戦友であり、その高潔さと流した血の尊さに免じて、徹底的に叩き潰す。美しき選抜の聖戦に多くの人間は見向きもしない。特に女達は。だからカノウは女を嫌い憎んできた。
    897

    1405Barca

    PROGRESS収録予定のハルミの短編です。冒頭のみ。
    童の歓声、泡沫の夢朝の空気はさっぱりと清く張り詰めて、何気ない作業にも力が満ちる。この所暑い日が続いていたから、今朝の涼やかさは特に心地良い。
     ハルミはそう思いながら、今日も畑を手入れしていた。数十年の混乱と大戦を経て白井流一派はようやく山深い庵に辿り着き、また世も統治者を得て規律と平穏を取り戻しかけている。未だ敵の多い白井流が市井に溶け込むのは困難だが、食糧や物品の調達に時折蚤の市に顔を出せば、日を跨ぐ事に品が増え、人が増え、活気が増しているのは肌で感じる。まだ世に溶け込めぬ身であっても、人々の顔に笑顔が芽吹くのを彼女は我が事のように祝福していた。
     もしかするともしかすると、木の枝でちゃんばらを楽しむ子供達に我が子が加わるのも遠くないのではないか。次は十兵衛も連れて買い出しに行こうと決め、稽古に勤しむ坊に渡す秘密の甘味を思い浮かべて笑顔が溢れる。今日もくたくたに疲れ帰ってくる我が子に滋養の粥を食べさせる為、陽が中天に掛かるまでには市で見つけた種を撒くつもりだ。さくさくと青々した小松菜を収穫していると、遠くから愛しい家族、ハンゾウとジュウベエが並んで帰ってくる。昔はこの腕に収まる程小さかった我が子も、今や桶ひとつ軽々運んでくるのだから驚いたものだ。父の背に近づき、並び立つ日も近いだろう。今から打乱箱を使うのが楽しみで、今晩あたりあの人に諱を聞いてみようかしらと笑みが溢れる。妹の世話も進んで担う長子の姿に成長の兆しを見つけ、ハルミは温かな気持ちで土いじりに更に精を出す。
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    1405Barca

    DONE一人前扱いされたいカイと弟離れできないビハンの話。弟を見ると煙草の火を消してしまう癖のあるビハンを書こうとしたらいつの間にか二人がキスしていた。ビハン×カイリャン要素あります。閲覧注意。
    それは愛ってやつだよ「御苦労。報告を聞こう。」

     樫の古木の下、じゅう、とほぼ新品の葉巻を足元に押しつけビハンは顔を上げる。兄のこの癖が、カイは嫌いだった。幼い頃は意味も分からずなし崩しに話しかけていたが、今や成人し正式に燐塊に所属する一暗殺者。髭を蓄え肉も育ったというのに、兄はこちらの姿が見えた途端煙草を消してしまう。未だ繰り返されるその所作に『お前は未だ半人前だ』と言われている気がしてカイは眉を寄せる。

    「頭領、以前も申し上げましたが煙はそのままで結構です。フロストやスモークの報告では吸われているでしょう。私も同様に接して頂きたく。」

     貴方様の許可さえあれば一本同伴しますよ、と続ければ怪訝な瞳で覗き込まれる。彼の水面の如き透明な碧眼にこの幼稚な羨望が映ってしまわぬように、目を細めた。目つきは悪くなっているだろうが、完全に自己防衛策だである。数秒の間じっと見つめ合い、結果己のやましさから先に目を逸らしたのはカイだった。
    1759

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    1405Barca

    DONEビハンの最後の手は何...?なんなの...?という世界七不思議と強火ジョタ兄さんのカイリャンラブコールが内混ぜになって産まれたやつです。最後の闘いのシーンで完全妄想しました。色々と注意。
    走馬灯に照らされて古い記憶の唐突な再生は、懐古による哀憐や葛藤を必要としないビ・ハンであれ起こる。彼の脳内で再生される過去は、決まって弟との出会いである。山深い集落の因習らしい、冬の平穏を祈る為の生贄だった彼の手を取ったあの日。集落の人間は燐塊の指示により殲滅し、残党を求め洞窟に足を踏み入れた。黴臭い祭壇に縛り上げられた、死に追い立てられ狂乱する村人に好き勝手打たれて血達磨の幼児に、同じエデニアの香りを見つけた。全く無意識に邪魔者を殺し尽くし、吸い寄せられるように少年に近づく。瞬く間に氷漬けにされた暴徒を見渡し、『かみさま?』と問う骨張った身体を抱え上げた時、あろう事かビ・ハンは危うく彼を振り落としかけた。彼に触れた手が、全く未知の感覚によって粟立ったのだ。訳もわからず抱えられた子供は暴れる事なくビハンの胸に収まった。そんな小さな身体からじわじわと染み渡り、己が拍動をこんかぎり沸き立たせるそれが何なのか。困惑し少しばかり佇んでしまった。
    1520

    はも@🐈‍⬛🎏原稿

    SPUR ME恋音展示が間に合わない文量になったので、現在できてるところまで公開します!本当にすみません!完成したら完全版をpixivに投稿しますので、よろしくお願いします。
    函館に引っ越してきた鯉登くん(16)が冬季鬱っぽくなったのを、ここぞとばかりに手を差し出して手に入れようとする尾形百之助(21)の話です。
    極夜にて「尾形はあたたかくて、すきだ」
     そう言って尾形の膝の上に形の良い丸い頭を置いて少年が呟く。少年の声は声変わりが済んでもまだ少しばかり声が高く、甘い。
     尾形、おがた。何度も甘い声で名前を呼ばれ、尾形はくつくつと肩を揺らして笑う。
    「なぁ、もうここで暮らせよ」
     艶のある黒紫の髪を撫で、少年の耳を指で柔く揉む。たったそれだけなのに、少年の耳が赤く染まる。黒い瞳がゆっくりとこちらを向く。気が強い性格で、誰にも弱ったところを見せようとしなかった子どもが、今は縋るような目で尾形をじっと見つめている。
     この少年には自分しかいない。言葉で言われなくとも、少年の視線、表情、態度で解る。それが尾形にとって他の何にも変えられない幸福――黒くどろどろした幸せが自身を染めていく感覚にうっすらと微笑んだ。
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