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    ricolicorice

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    ricolicorice

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    雨の日に熱を出したファウスト
    レノ+ファウのようなお話です

    無自覚に想いあってる二人が好きです

    #レノファウ
    renoFau
    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra

    取り零されない雨粒の温度 季節の変わり目にファウストは体調を崩した。なんてことはない、ただの風邪のようなものだ。
     誰にも知られたくなくて、自分で薬を煎じて飲んだ。幸いにも授業の予定もなかったのでそのまま部屋に引きこもる。一晩寝れば治ると、そう思って床についた。
     
     夜中にはっと目を覚ました。寝台の周りで夢のかけらが淡くちらちらと光っては消えていく。具現化された残滓すら見たくなくてファウストは顔を伏せた。しばらくそうして、大きく息をついてベッドサイドに引き寄せた燭台に火を灯す。発熱のせいかいつもよりいくぶんピントの甘い視界にゆらゆらと炎が映った。
     宴をしていた。アレクと革命軍を立ち上げて、徐々に勢力を伸ばし始めた頃のことだ。まだフィガロに教えを請う前で、人手も魔法の知識も乏しかったから人も魔法使いも分け隔てなくなんだって皆でやっていた。無茶をするアレクに怒って、レノックスが従者として傍らにいて、戦の前は安い酒をみんなで回し飲んで士気を高め、かちどきをあげては歌って踊った。苦しいことも多かった時代だったはずなのに、追憶の中では皆が笑っていた。ファウストもまた。
     忌々しい。厄災の傷そのものよりも、そんな夢を懐かしく見る自分が一番忌々しかった。
     
     窓を叩く水音にファウストはふらふらと立ち上がりカーテンを開けて外を見た。墨を流したような闇の中でざあざあと雨が強く降りしきっている。窓ガラスに映る自分がはりついた雨粒の形にいびつに歪んだ。
     何も考えずにファウストは窓を開けて飛び出した。濡れないように魔法を使うこともせずに。
     耳も目も一瞬で水の膜に覆われて、感覚が隔たれたようにぼんやりと鈍い。そのぶん雨粒がばらばらと肌をたたく感触だけがはっきりとたしかだった。中庭に着地した足元で水がパシャリと跳ねる。
     もう残っていないはずの焼けただれた痕がひきつるように疼いた。身体も頭も冷やしたいような、なにをしたいのかわからぬままになにかを振り切るようにむちゃくちゃに身を躍らせる。
     すぐに息が切れて、けぶるような視界で空を見上げた。厚い雲に覆われているのか大いなる厄災は影すらない。ただただ闇の中から水が落ちてくる。中庭の灯りが淡く光り、その雨筋をうっすらと照らしていた。
    「ファウスト様‼︎」
     突如、頭上から雨音にも負けないほどの大きな声が聞こえた。
     ファウストが見上げた瞬間、三階の窓から大きな身体が飛び出した。レノックスがばしゃんと大きく水を跳ねさせてからファウストに駆け寄る。
     ふわりと大きなタオルのような柔らかな布に頭から覆われて、身体をたたく水から遮断される。ずぶ濡れの服が急に重たく感じられた。
    「どうされたんですか、こんな夜中に」
     タオル越しに問われて、子供がむずがるように首も腕も振った。せっかくかぶせてくれたタオルがばさりと足元に落ちて濡れじっとりと色を変えていく。その上にも雨粒が躍るように跳ねていた。
     さすがにこれは諫められるか、あるいは呆れられるかもしれない。ぼんやりした頭にちらりとそうよぎったが、わきあがる衝動は止められなかった。
    「……ファウスト様……」
    「うるさい、ほっといてくれ」
    「…………」
     自棄を起こしたようにつっけんどんに返しても、情け深い男は心配そうな顔のままに立ち尽くしている。顔をみられたくなくて、ファウストはふいと顔ごと背を向けた。
    「《フォーセタオ・メユーヴァ》」
     レノックスが小さく呪文をつぶやく声が聞こえた。一瞬で乾いたタオルがまたそっとかぶせられる。
    「……一人になりたいときにお邪魔をしたなら申し訳ありません。ですがそんなに濡れてはお身体にさわりますので、どうか服だけでも乾かしてください」
     雨に融けいりそうに優しく、だがはっきりとした声でレノックスが告げる。タオルの下からのぞく彼の足元も服もびしょびしょだった。
     タオルを乾かす魔法は使えるのにどうして自分に降りしきる雨はよけないんだと、そう言おうとしたところでぐらりとレノックスの足と地面が傾いた。これは本格的に熱が上がったなと頭の片隅で他人事のように思ったところで急激に視界と意識が朦朧としてがくりと力が抜けた。地面に倒れこむかと思ったが衝撃は来ず、焦ったようなレノックスの声だけが耳に響いていた。痛いほどに強く抱き留められた、タオル越しでもわかるそのぬくもりがあたたかかった。

     

     やわらかな光で目を覚ます。いつもは閉ざしているはずのカーテンを開けたままに寝てしまったのかとファウストは寝起きの頭でぼんやりと思った。やけに心地よく、夢も見ずにぐっすり眠った。少し身じろぎをして、傍らにある慣れないあたたかな温度にぱちぱちと目を瞬かせた。
    「目を覚まされましたか。おはようございます」
     至近距離で低い声がしてファウストは目を丸くした。
     まるで添い寝をするようにレノックスがファウストの傍らに横たわっていた。同じ布団に入って。
    「……⁉︎」
    「具合はいかがですか。昨夜は熱が出ていたようなので俺が持っていた解熱剤を飲んでいただいたのですが」
     驚きで声も出せずに硬直したファウストに体調がまだ戻っていないと勘違いしたのか、心配そうな声とともにファウストの額にレノックスの大きな掌がそっと触れた。じんわりとあたたかい温度が伝わってくる。ファウストは一瞬で昨夜の醜態を思い出した。
     熱が下がらないようならフィガロ先生に相談しようと思っていました、と続けられて慌てて首を振る。
    「大丈夫だ」
     その言葉は本当だった。昨日はぼうっと気怠かった頭も体もすっきりしている。その分昨夜の熱に浮かされた衝動的な行動がひたすらに恥ずかしかった。
    「良かったです」
    「その、身体は大丈夫だけど、なんで一緒に……?」
    「あの、それは……」
     レノックスは安心したようにほっと息をついて、ファウストが続けた言葉に額からぱっと手を離して身体を起こしてベッドから降りた。レノックスの形にあいた布団の隙間がすうすうと寒い。
    「……あのあと部屋まで運んでくれたのか」
    「はい。お運びして立ち去ろうとしたんですが、その、」
     まさか。
    「あなたが俺の服を掴んだまま寝入られたので……」
     嘘だろうと反射的に言いそうになって、この男がそんな嘘をつくわけがないと思いとどまった。
    「……すまなかった……」
    「いえ」
     簡潔に答えたレノックスも動揺しているのか少し目が泳いでいる。
     戦乱の物がない時代だってレノックスとこんなに近くで寝そべったことはなかった。むしろファウストにとってはものごころついてから誰かと同衾したの自体が初めてだ。
    「すまない、すこし風邪気味だとは思って自分でも薬を飲んでいたんだが……」
    「……風邪気味の時にあんなことを?」
     レノックスの眉が珍しくも剣呑に吊り上がる。
     実際に迷惑をかけた身としてはなにも反論できずにファウストは身を縮めた。
    「まだしっかりと休んでください。食堂であたたかいものをもらってきます」
    「それくらい自分で、」
    「休んでいてください。いいですね」
     有無をいわさずに、顎まで埋まるように布団を整えられる。
    「わかったよ。……レノ、すまない。ありがとう」
     羞恥と申し訳なさに身悶えしながら布団の中から小さく礼を言うと、レノックスの顔がほっとしたようにゆるまった。
    「あなたが元気になられたならなによりです。それに……」
     レノックスは穏やかに目を細めて、幼い子供にするようにやさしく髪を梳くように撫で、途中で止めた。不自然に途中で途絶えた言葉と動きにファウストがレノックスを見上げると、なぜか耳元を赤くして目を逸らしている顔が見えた。
    「レノ?」
    「いえ、なんでもありません。それではまた後程」
     みょうにそそくさとレノックスは扉の向こうへと消えていった。
     もぞもぞと身体を布団の中で動かす。レノックスはファウストより少し体温が高いのか、まだそこにあたたかなぬくもりが残っていた。下がったはずの熱がぶり返したように頬が熱い。
     レノックスが帰ってくるまでにもう少し心を落ち着かせなくては。そう思うのに、なぜかなかなか鼓動は落ち着いてはくれない。窓の外ではやわらかく雨が降り続いていた。
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    ricolicorice

    TRAINING雨の日に熱を出したファウスト
    レノ+ファウのようなお話です

    無自覚に想いあってる二人が好きです
    取り零されない雨粒の温度 季節の変わり目にファウストは体調を崩した。なんてことはない、ただの風邪のようなものだ。
     誰にも知られたくなくて、自分で薬を煎じて飲んだ。幸いにも授業の予定もなかったのでそのまま部屋に引きこもる。一晩寝れば治ると、そう思って床についた。
     
     夜中にはっと目を覚ました。寝台の周りで夢のかけらが淡くちらちらと光っては消えていく。具現化された残滓すら見たくなくてファウストは顔を伏せた。しばらくそうして、大きく息をついてベッドサイドに引き寄せた燭台に火を灯す。発熱のせいかいつもよりいくぶんピントの甘い視界にゆらゆらと炎が映った。
     宴をしていた。アレクと革命軍を立ち上げて、徐々に勢力を伸ばし始めた頃のことだ。まだフィガロに教えを請う前で、人手も魔法の知識も乏しかったから人も魔法使いも分け隔てなくなんだって皆でやっていた。無茶をするアレクに怒って、レノックスが従者として傍らにいて、戦の前は安い酒をみんなで回し飲んで士気を高め、かちどきをあげては歌って踊った。苦しいことも多かった時代だったはずなのに、追憶の中では皆が笑っていた。ファウストもまた。
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