昼顔 日差しが照り付ける中、千秋は買い物袋を両手に提げて、割れたタイルをパリパリと踏みつけながら、団地の階段を上がっていく。
バブル期に作られた団地の外装は老朽化に歯止めがかからず、剥がれ朽ちている。今時のお洒落さなんて微塵も感じない、打ちっぱなしのコンクリート造りの四角い建物が、敷地内に幾つか並ぶ。
総工費をケチったのか、壁も薄ければエレベーターすらない。修繕なんてもちろんされないだろう。
なのに、千秋はここの最上階に住んでいる。いや、正しくは住まわされている。それが英智との契約だ。仕事も忙しく、会える時間はほとんどない。だが、たまにやって来ては千秋を愛していく。会えない時間を埋めるように時間をかけて、優しい言葉と行為を千秋に与えてくれる。普段、人に会うことをしない千秋には、その時間が何よりも甘美な時間だった。
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