ツーマンセル 非番の夜、歩いていた街。
ふと聞こえた喧騒、妙に気になって赴いた先には先輩たち。
切羽詰まった雰囲気、騒つく胸中。
だけど握った電話は鳴っていない、僕は必要ない?
それでも駆けた、呼んだ。
「先輩!」
弾かれたように僕を見た先輩に、『何か手伝えることは?』と、聞く前に──
「助かった!」
先輩が応えて、くれた。
「吸血鬼が逃げた! この地点から各周囲ふた区画、一般人への非難誘導を頼みたい!」
手短に、だけど要点は捉えた先輩の声に僕は頷いて、来た道を戻り駆けながら返答した。
「了解です!」
私服で丸腰の僕にできるのはそれくらいだ、だけど──
ひたすらに嬉しかった。
僕に、できることがある、そしてなにより──
先輩が、僕を頼ってくれた、その一点が。
高揚から上がる体温、だけど浮かれてばかりではいられない。
気を引き締め直して走りながら、何事かとどよめいている人々に向かって避難を促した。
指示された周囲から人影が消えてすぐ、電話が鳴った。
『どこにいる?』
先輩の声。
場所を伝える僕の声は叫びながら走り回っていたせいで掠れていた。
『今行く』
全身汗だくでよろけていた僕の目の前に先輩が来たのは、それからすぐ。
「すまない、せっかくの休みを」
それを聞いて僕は声をあげて笑ってしまった。
だって、さっき僕に指示をしたときよりも、よっぽど切羽詰まった顔をしていたものだから。
「お役に立てたなら何よりです」
笑い出した僕にキョトンとしてる先輩にそう言ったら、
「本当に助かった、ありがとう」
と、先輩が親指を立ててくれた。
ああ、嬉しいな、僕は、必要とされているんだ。