誕生日を尋ねられた。
私は
『分からない』
と真実を口にした。
それを受けて、ふたりは
『ふぅん』
と、何の抵抗もなく納得した。
程なくして私の誕生日が定められた。ふたりの意見と、そして私の考えも汲まれた日だ。
有難いと成るが儘に頬を緩めた一方で、ふと、ひとつの可能性も頭に浮かんだ。
故に、問うた。
『私に誕生日はあるのか』
と。
誕生日の定められた日から少しばかり経ったとある逢魔時、その輪郭を夜闇に溶かしながら姿を見せたその人に。
聞いた刹那、周囲の空気が僅かに冷えた。
その人の表情に変化はない、が、紅い相貌が、微かに揺れた。
『 』
ぽつりと告げられた日付。それは先日、友人たちと定めた日とはかけ離れている。
当然だ、知らなかったのだから、致し方ない。だが──
『どうした』
私が黙り込んだからか、それとも何かしらの感情が顔に現れていたか、分かりかねるがそう聞かれてしまっては答える他ない。
私は全てを話した。
すると、その人は
『ふぅん』
と、何の抵抗もなく納得した。
これには私の方が喫驚した。てっきり──そう例えば、機嫌を損ねるだとか、ともすれば憤慨するだとか、懸念していたものだから。
呆気に取られてしまった私に、その人は
『ならばその日を大切に』
と、言った。
周囲の空気は既に元通り。
そして、その声は先の質問の答えよりも柔らかく、また、瞳は確かに、撓んで、いた。
『では、またいずれ』
声色の意味、溢した笑みの理由、それらを理解し損ねている私に背を向けて、その人は外套の裾を翻す。
『ノースディン!』
私の声は夜に溶けた。彼の人は蝙蝠に姿を変え、既に遥か遠く。
我知らずついた溜息。その白さが消えるより早く漏らしてしまった独り言。
「私にとってはどちらも、大切なものだというのに」
せめてそれを私が伝えるまで帰るのは待ってもらいたかったものだ。
「……また、と言っていたな」
別れ際の言葉を反芻し、月を見上げた。
「そのときに、必ず」
成るが儘に頬を緩めて、私は帰路についた。