結婚への一歩「ふぅ……」
私はいまひっそりと隠れ家で療養をしている。オリジンでイフリートとジョシュアと共にアルテマと闘い、勝利したが皆大怪我を負ってしまった。そのため私を含めた三人は今タルヤの指示のもと、身体を以前の状態に戻すため日々リハビリに励んでいる。今の私はうまく歩けない状態だったため、隠れ家の壁を支えにしながら隠れ家を一周して医務室に戻るという訓練をしている。
「焦らないで、ディオン。少し休憩する?」
そう私に心配そうな瞳で尋ねてくるのは私の最愛の人、テランスだ。テランスは自力でここ、隠れ家にいる私の居場所を突き止め、キエルと共にやってきた。オリジンでの闘いでボロボロになった私を見て、抱きしめられながら「もう離しません!」と周りにたくさんの人がいる前で言われたことは恥ずかしかったが、私も闘いに勝利した高揚感が身を包み、テランスを抱きしめ返した。思い出すと恥ずかしい思い出だが、良い思い出だ。
「いや、まだ書庫の近くじゃないか。医務室に戻るまで、ゆっくりとだが、戻るぞ」
「わかりました。ディオン様」
そう言って歩き出そうとした途端、書庫の方から子供たちがやってきた。あの子供たちは隠れ家に前からいるテトとクロだ。リハビリをしている私たちに気づいたのだろう。「あっ」と声を出しこちらに走って近づいてきた。
「ねえねえ。ディオン! 今大丈夫?」
「前から気になってたことがあるんだけど、訊いてもいい?」
「ん? 気になる事?」
この子たちは私が隠れ家に来てからともに交流をしてきた子たちだ。「遊んで!」と言われて、一緒に遊んだこともある。昔、子供だったころテランスとした遊びをこの子たちにも教えたこともある。もうすっかり仲良しになってしまった。そんななか、テトとクロは私の服装をじっと見つめている。いったいなんだろう……?
そしてテトが上から下まで服装を確認しながら口を開いた。
「ディオンって、何でウェディングドレス着てるの?」
「え!?」
「ウェディングドレス!?」
私とテランスは同時に驚いてしまった。う、ウェディングドレス!? 私は着ていないぞ!?
「だって、白くて、長いスカートだし……。結婚するとき着るものだって、語り部の本にそう書いてあったよ」
「あ、わかった! テランスと結婚するんでしょ! クロわかっちゃった!」
クロは頬を赤くして「結婚だー!」と大声ではしゃいでしまっている。
「ま、待て。これはドレスではないっ! これはれっきとした戦闘服で……っ」
しかし子供たちは私の言葉を聞いていない。「結婚! 結婚!」とぴょんぴょんと飛び跳ねて、走り出してしまった。私は顔を手で覆った。
「ああ……、もう……、テランス、そなたからも後で子供たちに違うと伝えておいてくれ……」
しかし、テランスからの返事がない。私はどうしたのだろうとテランスを見つめた。
「私は良いですよ。結婚」
「……なっ!?」
驚愕している私に、テランスは私の耳元に唇を近づけ、囁いてくる。
「あなたの身体が治りましたら、結婚式を挙げましょうか」
私はテランスの顔を見る。テランスは目を細めて微笑んでいる。……まさかこんなことになるなんて……。私は恥ずかしくなり、ついそっぽを向いてしまう。
「う、む……。そ、そのためには、はやく、身体を、治さねばな……」
恥ずかしくなり、つい言葉がしどろもどろになってしまう。そんな様子をテランスはくすくすと笑いながら優しい瞳で見つめてくる。
「はい。ディオン様」
むぅ……。なんだかテランス、うきうきしていないか? 私を支えてくれている手からなんだか喜んでいる様子が伝わってくるぞ……。
「あっ、二人とも! ここにいたんだね! まだ医務室まで長いから、頑張って!」
遠くから私たちがいるのを見つけたのだろう、キエルが私たちに気づき、ぱたぱたと近づいてきた。
「あれ? 顔が赤いよ? 熱でもあるの?」
キエルが私の顔を見て心配そうに見つめてくる。どうやら勘違いさせてしまったようだ。
「い、いや、何でもない。さあ、今日もリハビリ、頑張らなくてはな!」
「そうですね。ディオン様……」
そう言って私は、また一歩、とゆっくりと歩いてみせる。微かだが、この一歩一歩がテランスとの結婚への道なのだと思うと、私も心が躍るのを感じた……。