第二話二学期が始まって1ヶ月が過ぎた10月の半ば。
職員室の引き戸がガラリと開き、くぐるようにして大柄な男子生徒が出てきた。
「失礼しました。」
「ああ、赤木君、ちょっと良いですか?」
四半期ごとに出す、体育館の利用申請書を出し終えた、2年生の男子バスケット部新主将の赤木剛憲は、帰り際、バスケ部顧問の鈴木先生に呼び止められた。
「実は、職員会議で体育用具入れにある、女子バスケット部の備品をそろそろ処分してはどうかと言う話が出ているんです。」
「えっ、女バスですか…?」
赤木は眉をひそめた。
男子・女子両バスケット部の顧問を務める、鈴木先生から赤木が聞いた事情としてはこうだ。
女子バスケット部の部員がいなくなり、事実上の廃部となって4年たつが、その間に入部希望者がないものの、ボールやロッカーなどの備品が未だに残されている。
男バス用に転用するとしても、高校バスケットでは男女でボールサイズが異なるため難しい。処分することは簡単だが、今後女子バスケット部への入部希望者が現れ活動が再開しない保証はない。教師陣も責任を取るのが嫌で逃げ腰なのだ。
部活は5人以上として成立するが、公式戦に出られないと言うだけで、サークル扱いであれば4人以下でも活動は認められ、ある程度の予算が下り、理屈上備品の保管も可能になる。要はその線で保管ができないかと言う話だった。それでも希望者が無ければ正式な廃部手続きを取るしかないと。
「私としては、活動していた時代も知っていますから、なかなか忍びなくて…。どうにか存続できないかとは思っているんです。」
と柔らかな物腰で、どこか寂しそうに赤木に心のうちを吐露した。
「まぁ、4人のサークルじゃそもそも試合できねぇけどな…」
説明を受け、今度こそ職員室を後にした赤木がひとりごちた。
「確か聞いた話で女子のバスケ経験者がいたな…。」
心当たりが1人いた。正確には2人だが、人柄の良さ、顔の広さ、情報通にしてある程度の口の硬さも含めて頼りになるのはそのうち1人だ。もうひとりは実際のところ、赤木も人となりをよくわかっていない。
2年3組を覗き、目的の人物を呼ぶよう頼むと、すでに部室に向かったと言う話だった。
「やれやれ」
無駄足だったかとため息一つ、赤木が向かったのは部活棟にある書道部だった。
「すまんが」
「あれ、赤木君。」
「♦︎はいるか?」
「はーいいますいますいまいきますー!」
何だそれは、早口言葉か。
「はいはい、どうしました?赤木君。」
部室の奥からタオルで手をふきふきかけてくるのは、中学時代バスケ部、現在書道部所属の♦︎だった。
「大丈夫か?込み入った話だから取り込み中なら出直すが…」
「大丈夫ですよ。何でしょう?」
かの事情を説明してしばし。
「つまり、教師の方はいっそ廃部にしちゃいたいけど、鈴木先生としてはできれば、サークルでも良いから女バスを再起できそうなメンバーはいないだろうか、と。」
「そういうことだな。話が早くて助かる。」
「…で、通りすがった私にも白羽の矢が立ったわけね。」
「そう。二の矢なのよ!」
✿に向かってピースサインを出しながら嬉しそうに言う♦。
✿は♦に借りていた本を返しに書道部へ寄ったところ、これ幸いと文字通りとっ捕まったのだった。
「女バスの再結成か、正式廃部ねぇ…。」
はぁ、とため息をつく✿。
(なんだってそんな重大なことに巻き込まれるんだろ…。)
ふと、脳裏に浮かんだ疑問を✿は口にした。
「っていうか、そもそも論なんだけど、高校の女子のバスケって6号球よね?男子は7号球で。」
「そうだな。」
「湘北の体育の授業、男女でバスケはある?」
「あるな」
「女バスを正式に廃部にして6号球処分しちゃったら、女子の体育どうするの?」
「「あっ」」
赤木と♦の驚く声が見事に重なった。
✿はうーん、と顎に手を添え考えるそぶりをするとつぶやいた。
「私の勘だけど、問題の本質は用具室が圧迫されてるとかとは違うところにあるんじゃない?」
それからおよそ1時間のち。
「ありがとうございました。」
今度のあいさつは✿。
「「「はーー…」」」
ぴしゃりと職員室のドアをしめて、同じタイミングで赤木と✿と♦︎はため息をついた。
「すまなかったな、二人とも巻き込んでしまって」
「いーえー。赤木君こそ、部員のいない女バスのために奔走してくれたじゃないですか。」
「右に同じ。まぁ結局、全員空回りだったけどねぇ」
「それにしても、✿ちゃんすごいねぇ、名探偵だね」
「まぁ、たまたまじゃないかな。昔から相手の考えをうかがうような役割ばっかりしてたからかもね。」
ことの顛末はこうだ。
湘北高校の部費は人数や活動内容を問わず、まず各部活に一定の額「基礎費」があてがわれる。そのうえで人数×単価が追加され、さらに毎年の予算申請書をもとに決められる。
さらに、公立であるため、毎年の部費の全体総額は変わらないということは、出来るだけ多くの部員を集めた部活が、公式大会での好成績につながり、さらに翌年度の予算が増え、場合によってはOBの寄付というものも増えてくる。
逆にそのような結果を出せない、出しにくい部活であれば、どうにかやりくりしていくしかない。
そのような中で、休止という形で廃部をしていない女子バスケット部は「基礎費」だけは見積もられており、そこを正式に廃部という手続きを踏ませることで予算を他の部へ回したらよいのでは、という案が出ていたのだ。だがそれはほかの部の顧問何人かで検討されていたことにすぎず、尾ひれがついて巡り巡って、冒頭の鈴木顧問の相談になったというわけだった。
「噂も伝言ゲームも、回すうちに内容変わっちゃうもんよね。」
「まったくだ。」
「しかし、部費問題ね…。まぁ4年も活動してなかったら、そろそろどうにかしないとって気持ちにはなるかもしれないね。」
「でも、結局振出しに戻るわけよね。女バスを正式に廃部にするか問題。」
「「…そうだった。」」
この2人が責を負うわけではないにしろ、近いうちに白黒つけなければならない問題ということは、教師陣と話して伝わってきた。
「♦︎はどう思う」
「部員じゃない私が言っていいのかわからないけど、なくしちゃうのももったいないとは思う…かも。」
「まぁ私も、ないよりはあったほうがいいかなぁ。」
「でも✿ちゃん、結局、剣道部入ったんでしょ?」
「黒河のところか。」
黒河は赤木と同じクラスの剣道部主将だ。赤木よりは物腰は柔らかだが、不器用で堅物なもの同士、気のおけない関係であった。
「うん、そっちも人数少ないから、経験者ならぜひって。♦︎ちゃんは?」
「書道部は活動は多くないから、兼部してる子も多いよ。赤木君はどう思います?」
急に振られて怪訝な顔をする赤木。
「なんで俺に聞くんだ…男バスだぞ俺は」
「あっはっはっは。それもそうでした。」
「ていうか、女バスがいたら、体育館使う部が増えるじゃない。そういうのは迷惑じゃない?」
✿がそういうと、赤木がひどく心外そうな顔をした。
「…俺が自分の部だけよけりゃ良いと思ってるというのか?」
「あ、いや、そう言うわけじゃ…」
「ネットで分けるなり、時間で分けて外周練するなり、やりようはいくらでもある。それに、バスケを好きな奴らが増えて、迷惑だと思うわけないだろう。」
「赤木君、優しい…!」
(私は…どうなんだろう。)
もう一度バスケをしたいのか、どうか。
バスケ部のことを思い出すと、必然的に1年前の悪夢を思い出す。
それが怖くて、あれからボールには触っていない。
かと言って、このままバスケ部なんて潰れてしまえという気持ちや私じゃない他の人に頼んでみたら良いんじゃないのという返答も考えたが、どうにも自分の奥底にある何かと乖離していた。
(どっちつかずだなぁ、私も。)
ただ、✿の部屋には練習用のボールと、中学卒業の時の寄せ書きがされたボールが無造作に転がっていて、それが視界に入るのは気がついたら苦痛ではなくなっていた。
「二人は今日は部活はないのか?」
「ないかな。」
「私も今日は片づけだけだったのでこの後はないです」
「主将権限だ、バスケしていかないか?」
ぱあっと♦の顔がほころぶ。
「!いいんですか!?やる!やります!赤木キャプテン!」
「✿はどうする」
「えっ…、わ、私、は…。」
迷う✿の手をぐっと引いて、いたずらっこのように微笑む親友は、✿の思い出の中の彼女のままだった。
「ねえ、✿ちゃん、遊ぼうよ。」
手早く着替え、体育館に向かうと、赤木が2つボールを携えて待っていた。
「2人が準備する間軽く磨いておいた。よく見てみたが、そんなに劣化はしてないな。」
「え?これ女バスの六号の方?」
「ホントだわ、結構キレイ。」
攻守を変わりながらワンオンワンをする✿と♦。
「明日は太ももパンパンだと思う…。」
「私もだよー。でも、やっぱりバスケ、楽しいなぁ私。✿ちゃんは?楽しい?」
「……。」
(たのしい…のだろうか、私は。こんな私が、またバスケを楽しんでも、いいのだろうか。)
伸びてきた手をかわし、✿が慌てて一歩後退する。
「ほら、ぼーっとしてたら、もらっちゃうよ?」
「ごめんごめん、油断してた。」
カットされないようにハンドリングをキツくする。
二人のプレイを見ながら赤木がつぶやく。
「ブランクがあるとは言うが、二人ともいいディフェンスをするな。さすが「守りの武石中」といったところか…。」
ディフェンスのステップをうまくずらし、抜くスキが生まれたその瞬間、✿の耳の奥でジリジリっと嫌なノイズが聞こえ、心臓が恐怖にはねる。
「ぐぅっ…!」
立っているはずなのに、浮遊感と落下する感覚。背中を悪寒が走る。
(また、これなの…?)
どこまで行ってもついてくる嘲笑。
(やっと、やっと思い出したのに、私…)
破られた、もらったばかりのユニフォーム。切り裂かれたバッシュ。
『偉そうに』
『生意気』
『どこまで逃げても同じだよ、あんたなんて。』
(やっぱり、だめだ、私にはもう。)
その瞬間だった。
『立てよ✿!走れ!!ぼーっとしてんな馬鹿野郎!一人で諦めてんじゃねぇ!!』
「!?」
声が聞こえた。かつての、友の声。
✿と同じ、蒼い四番を背負った少年の声だった。
「大丈夫?✿ちゃん?」
異変に気づいた心配そうに希美が声をかけた瞬間、
(踏み出せ!前に進め!)
「わっ!」
肩口をすり抜けるようにして大きく一歩を踏み出す。二歩めで置き去りにする。
「早い!」
その挙動に赤木も目を見張った。
✿の一気に視界が開ける。
みるみる近づいていくゴールに向かい、スキップするように踏み切る。
身体が宙をふわりと舞う。かつてはカッコつけ、などと言われていた技。最高点で体を捻りながら、くん、と手首のスナップでボールを放る。ゴール下の守りをかわすための✿の得意技だ。
ぱさり、とネットの音がして、ボールが床を叩いて転がっていく。
「はっ、はっ、はぁっ…」
呼吸を整えて振り返ると、体育館には赤木と、女子二人しかいない。
「……三井……?」
声の主と思われる人影は、そこにはなかった。
それは何のことはない、✿の中の記憶の再生だ。
耳の奥に残った記憶に、レコードの針が落とされたように再生されたのだった。
「✿ちゃん、大丈夫?さっき…」
心配そうに駆け寄ってくる♦。✿は拾い上げたボールを見つめ、誓うように額に当て、つぶやいた。
「♦ちゃん、赤木君、あのね…。私ね、やっぱりバスケットが好き。大好き。」
「この1年半、いろんなことがあってね。私、ずっとバスケットが好きなのに、できなくなっちゃって。ずっと辛くてもう二度とやるもんかって思っていたの。でも、湘北にきてみんなと会って、もう一度バスケしてみたら、今ね、楽しいって気持ちがとまらないの。なんでかなぁ。」
一言でも胸の内にあった「想い」を定義してしまうと、これまでの自分の行動やいいわけが全て覆っていく。本当の気持ちに収束していく。
「私、女子バスケット部、やりたいな。」
「✿ちゃん…」
「五人以下だとサークル扱いなんだよね。公式戦なんて出られなくていい。とりあえず、♦ちゃんがいてくれれば…」
そういって、自分の言っていたことが勝手な言い分だったと慌てた。
「あ、いやごめんなさい。全然無理強いするつもりはなくて。その。部員が私1人でも練習はできるし。」
胸には熱い想いがあるのに、肝心なところで一歩引いてしまうのが、✿の悪い癖だというのはわかっている。
「もう!✿ちゃん水臭い!そういう時はちゃんと言ってよ!バスケ部やろうよって!」
「え、あ、…あの、ば、バスケット一緒にやりませんか?」
「…やります!やりましょう!!」
「きゃっ」
うれしさのあまり飛びついてくる♦に思わず✿はボールを落としてしまう。
「……決まりだな」
「賑やかだな、どうしたんだ赤木。」
声のするほうへひょこりと木暮が体育館に顔を出した。
「おう、ちょうど女子バスケ部が再起したところでな。」
赤木は木暮ににやりと笑うと、顎でくいっと奥にいた女子二人を示した。
「えっ!?そうなのか?」
「そうなんですよー!」
「たった今、そうなりました。…よろしくお願いします。」
二人きりの新生女子バスケットボール部は、その足で職員室へ戻り、申請書類の手続きを終えると、件の備品の確認に用具室へ向かった。
「うーむ、やっぱり年季が入ってるね…汚れがなかなか取れない。」
「まぁそれでも、使えないくらい劣化してるわけではないね。磨いて空気入れれば十分使えるかな。」
「ごめんなさいね木暮くん、ボール磨き手伝わせちゃって。」
「いやいや、なんのなんの。鈴木先生も喜んでいて、よかったじゃないか。」
この相談を持ち掛けた鈴木顧問が一番女子バスケット部の復活を喜んでいた。休止だった部が活動再開になっただけなので、残置された備品はそのまま利用でき、予算内なら買い足しも可能だとのことだった。
「それにしても、有力なマネージャー候補が女バスに取られちゃったなぁ。結構俺、本気で✿さんが男バスのマネージャーで入ってくれるの狙ってたんだけど。」
「一応剣道部と兼部だから男バスまでは無理だよ…。ていうか、まだ剣道部の黒河君に説明してないし。」
そういうと、✿は磨き終えたボールをタップしながら言いにくそうにつぶやいた。
「木暮君さ…狙いは私じゃなくて、三井なんでしょ?」
「えっ」
木暮が目を丸くして、ボールを磨く手を止めた。
中学MVPであり、武石中学校の男子バスケ部のキャプテンでもあった三井寿は、同じく女子バスケ部のキャプテンをしていた✿とは確かに付き合いも木暮や赤木よりも長く、木暮からすれば二人は、苦楽を共にしてきた良き友人という立ち位置に見えるだろう。
同じく武石中学校の女子バスケ部でシューティングガードをしていた♦が、磨き終えたボールを両手でぴっと真上に放ち、まっすぐに落ちてきたそれを受け止める。
「みっちゃん、バスケ部に戻ってこないのかなぁ。怪我って誰にでもあることだし、頑張ってリハビリして、戻ってきたって、カッコ悪いことなんてひとつもないのにね。」
「そうね…ま、湘北だったら、三井の実力ならブランクあってもレギュラー争いも楽そうだしね。」
現在の✿や♦から見ても、今の湘北バスケ部は弱い。何が、ということを上げだすと個人スキル、練習体制、コーチの不在、メンタルタフネスなどきりがないのだが、しいて言うならば、部のまとまりが弱いという点は大きい。
「はは、厳しいこと言うなぁ。」
笑いながらも、ボールを見つめる木暮の目には、寂寥感が漂っていた。
「…なぁ✿、やっぱり一度三井と話をしてみてくれないかな?あいつもバスケを諦められてないと思うんだ。戻るきっかけを逃してしまっているだけで。バスケ部には、三井が必要なんだよ。」
「私が……三井にどんな話をすれば良いの?みんな待ってるから戻ってきてくれって?」
少し怒りを滲ませたトーンで✿は続けた。
「本人が望まないことを、私は三井に無理強いすることは出来ないよ。子供じゃないんだから。戻るも戻らないも誰かに言われたからじゃなくて自分で決めなきゃ。これからブランク埋めて、体力つけてきつい練習なんて続かないよ。私だって、一度はバスケ諦めたけど、一応は自分で決めて、こうやってもう一度ボールに触ることにしたわけ…だし。」
「でも、✿になら、自分の胸の内とか、話してくれるんじゃないかなって。主将同士、仲良かったんだろう?」
「♦ちゃん、仲良かったように見える?私と三井」
「もう、しょっちゅう口喧嘩ばっかりしてました。」
「だ、そうですよ。」
からりと用具室のドアが開き、赤木が顔を出した。
「✿、すまん、先生から伝言で、書かなきゃならん書類がまだあるそうだ。職員室来られるか?」
「あ、うん、わかった。ごめんね、二人ともあと任せてもイイかな?とりあえずあと十五分、五時まで備品確認して、そのあとは上がっちゃっていいから。」
「うん、行ってらっしゃい、✿部長。」
用具室の扉が閉まり、✿と赤木の足音が遠のくと、ふう、と困ったように♦がため息をついた。
「ごめんなさい、木暮君。✿ちゃんがあんな態度で。」
「あ、いや、俺も結構しつこくて、ごめん。」
「さっきはああいったけれど、確かにぶつかることは多くて、でもそれは中学生っていう幼さもあったからで、本当は主将同士、助け合って信頼しあってたと思うよ、あの二人は。✿ちゃんもみっちゃんのこと、意地悪とか、どうでもいいとかそういう気持ちで言ったんじゃないと思うの。ただ、今は二人ともお互いを思いやる余裕がないっていうか…。✿ちゃんもね、愛知の高校に進学して、いろいろつらいことがあってバスケットを諦めちゃったみたいだから、みっちゃんの気持ちはなんとなく共感してるんじゃないかなあ。」
「そう、なのか…。」
「五月雨式にあれだこれだって出してきて…必要書類は一度に渡してもらわないとこっちも困るんですけど…はあ。」
再度、職員室に呼び出された✿は追加の書類を受け取り、教室に戻る途中、廊下の曲がり角から長身の男と鉢合わせた。
「わっ、ご、ごめんなさい…。」
✿が見上げるような高い身長。肩まで伸びる黒髪。
「三井…?」
そして、目の前の男も同様に✿を認識した。
「…お前…。✿…。」
苦々しく、✿の名を呼び、歪んだ、憎悪の顔を向ける三井。
「なんで…お前が…。」
(何で、お前がここにいるんだ…!今さら、湘北に何しにきやがった!俺を、嗤いにきたってのか!)
ぎっ、と奥歯をかみしめると、わざと✿に肩をぶつけ、
「…退け。」
「きゃっ!」
吐き捨てるようにつぶやくと、よろけた✿に目もくれず、階段を下りて行った。
「何なの…あいつ…。」