割と可能性ある 他人から好意を寄せられることには慣れている。秋波を送ってくるのは異性だけではなかったが、同性の場合、言葉にして伝えて来る者は殆どいなかった。そうさせないように牽制していた事実は認めよう。例えば、よく知らない相手なら告白させてから、きちんと振ってあげる方が相手にとっても自分にとっても都合がいい。多くの異性はここに当てはまる。しかし、同性で自分に惚れるような物好きは、同じ部活だったりクラスメイトだったりと、その後の関わり方にも影響する奴が多い。恋は盲目とは言うが、身近にいてよく俺に惚れるな、と軍曹やドSなど評されている自覚があるので呆れてしまう。とりあえず先手を打って子どもは三人がいいとか言ってはみているが。
同性で俺に告白する勇気を持ってしまった相手は今までに一人、伏見先輩だけだった。
伏見先輩の卒業間際、二人で出掛けないかと誘われた。ああ、告白しようとしていると気づいたけど、世話になっていたし、ずっと組んでいた相手だから無碍にできなかった。
ゾウガメのいる動物園を見て回って、カフェ席のあるパン屋でお茶をして、映画を観て、そして。日が暮れる頃、小さな公園のベンチだった。
断った後、伏見先輩は俺のケジメに付き合わせて悪かった、と頭を下げた。だからお前が頭を下げるな、と。伏見先輩はいい人で、自分にはない熱さがあって、頼りにしていた。頼られたと自負もしている。伏見先輩が嫌いな訳ではない。むしろ感謝している。デートだって楽しかった、と思う。そんな先輩にはもっと「いい人」と出会ってほしい。
伝統の卒業式後の追い出し試合では伏見先輩はいつもの通りで、ありがたかった。
「俺、彼女と別れたんです」
選手権が目の前に迫ったある日の部活後。鈴木とは別に目を掛けている後輩が、俺の目を見据えて宣言した。練習中の鬼気迫る様子と、何かもの言いたげな視線はそのせいだったか。
「なら部活に専念できるな」
そう言って、先に目を逸らしてしまった。今の勝負は俺の負けだった。片付け終わってないぞと言い捨てて、その場を逃れてしまったのも良くないと頭では分かっていた。もっとちゃんと、心を折ってやらねばならないのに。
新戸部は遠からず想いを打ち明けに来るだろう。今更どんな牽制も通用しないだろう。こんなところまで伏見先輩に似なくていいのに。俺の自惚れであってほしい。自分の大事に思う相手ほど思い通りにならなくて困る。
部室に着くと、先に着替えていた速瀬に、何かいいことあったのかと聞かれた。いいこと? まさか厄介ごとが増えただけだよ。そう答えてやると、じゃあ何ニヤけてんだよと絡まれた。ニヤけてる? まさか、そんな訳ないだろ。