※ゲイの自覚はあるけどpride parade を知らないふりしたことがあり、また活動に参加していないことを引け目に感じてる千早がいます
例えば、pride paradeってなんだ? って話になった時、俺だけが知ってるんだと気づいたら、口を噤んで知らないふりをするような人間だったんです。今のは小学生の頃の話ですけど。なんで知ってるの? って聞かれるのが怖かったから。大人になった今は、必要が生じたらカミングアウトができるようになりました。相手が人の性的指向を揶揄うような人達じゃない場合に限り、ですけど。子どもの頃の俺はきっと今の俺の生活を信じないでしょうね。両親にも言うつもりはなかったんですから。
藤堂君が役所から貰ってきた紙に必要事項を記入すれば俺と藤堂君は法的に強い結びつきを得ることになります。親よりも……お姉さんや妹さんよりも。間違いなく他人同士なのに配偶者は同列になるんですよね。
この権利を得るための戦いに身を投じていないのに、のうのうと享受していいのかなって、思っちゃったんです。何もお返しできることがないのに。
ずっと抱え込んでいたのだろう思いを吐き出して千早は寝た。なんかハイペースで呑んでるなとは思っていたのだが。俺達からの見返りを求めてたんじゃねえだろとか、俺達が幸せに生きることがお返しになるんじゃねえのとか、そういう言葉を求めてはいないだろうと思っていたから黙って聞いていた。いくら負目を感じていたとしても千早は婚姻届に記入するだろうし、俺だってそうだ。他人同士が一心同体、一蓮托生になるために。俺に何があっても千早に遺せるものがあるように。
自覚の早い遅いもあるのかもしれない。俺は成人してから自覚したが、もっと視野も狭く知識も浅い頃だったら、それこそガキの頃なら俺だって逃げ隠れていたかもしれない。今の俺なら誰からも逃げたり隠れたりする必要なんざねえだろと言えるが。
今までの人生は変えられないし、後悔することなんて俺にだっていっぱいある。喧嘩三昧で心配かけたのは悪かったなとか……子どもの頃の千早に寄り添う相手でありたかったとか。それは無理な話だ。
明日の千早は俺に探りを入れてくるだろう。昨日の俺って何の話してましたっけ? 忘れたフリをしてやるか、ちゃんと覚えてると言ってやるべきか。明日の朝、あいつの顔を見て決めよう。