獣の贄(未完) もう随分と昔に退治された妖獣が、長い年月を掛けて封印を破り、今生に復活したそうだ。姿は狼と似ているが、それを実際に見た者はごく僅かだ。今はもう廃墟と化した山村を縄張りにして他の獣や怨霊を使役して人々を襲っている。
「というわけだが、聶宗主は何かご存じだろうか?」
「……もちろん存在は知っているとも。他ならぬ我が御先祖様が封印した妖獣だと伝わっているから」
「封印が破られた後は既に大勢の人間を喰っているらしい。さて、宗主はどうお考えだろうか?」
念押しとばかりに放たれた言葉に懐桑は眉を顰め、視線を真横に逸らす。側に控えている年長の門弟たちにそっと目配せして助言を求めようとするが、「何も答えたくはない」と皆言いたげな様子で沈黙を貫いていた。
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