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    ゆるやか

    走灰/黒研/文仙。もじしか書けない

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    ゆるやか

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    7がつ13日の結婚式本の、新刊でボツった部分。
    くろーさんがんまちゃんにプロポーズするところです。
    (推敲もしてない、殴り書きなので、本当に供養)
    新刊では、もうちょっと膨らませた感じの、ちょっとハラハラする話にしました。
    というわけで、新刊頑張りまっす。

    #黒研

    くろーさんがんまちゃんにプロポーズする話 黒尾は、指輪の隠し場所を探っていた。
     今日は待ちに待った記念日だ。研磨が打ち合わせから帰ってくるまでの間に、どこに仕込もうか、研磨の家で行ったり来たりしているのだった。

     台所、は下手したら今日のうちに研磨は立たないかもしれない。
     じゃあ、脱衣所のタオル入れ、は気が付かず洗濯機に入れられかねない。
     パソコン機器周辺にしてもいいが、今日は夜も遅いし流石にそのまま寝るだろう。
     そうだ、日付が変わってしまえば今日という記念日は台無しになる。時計の長針は6を超えたところだ。研磨は間に合うのか。そして、指輪を隠した場所も見つけてもらえるのか。サプライズのために隠したけれど、そこまで行きつかなかったら泣いてしまう。
     そう思っていた矢先、急に玄関の引き戸がガタガタと音を立て出した。黒尾は硬直した。まさか、と隙間から覗くと、気だるい様子の研磨がいる。いつもなら、駅で帰ると連絡をくれるのに、なぜ今日に限って連絡がないのかと、0.1秒くらいの間に疑問が駆け巡ったが、それに答えを出している場合じゃなかった。
     場所を選ぶ余裕もなく、研磨が朝に脱ぎ散らかして出かけた部屋着の中に、指輪のケースを潜り込ませ、黒尾は何事もなかった顔を作って玄関に出た。
    「おかえり、研磨。打ち合わせどうだった」
     研磨は虚な目をして黒尾を見たが、すぐに首を傾げた。
    「なんかあったの、クロ」
     なんて、勘の良さだ。黒尾は素直に感心した。
    「特に、なんもねえよ」目が泳ぎそうになるのをなんとか堪え、研磨からなるべく目線を外さないように答える。
     しかし、研磨の目はやや陰った。廊下の奥へ一瞬鋭く視線を投げたが、すぐにノロノロと靴を脱ぐ。なんか、勘違いされているような気もしたが、どうせこの後に理由はバレるのだ。それより、黒尾は指輪ケースの位置をもう少しマシな位置に移動することで頭がいっぱいだった。なんとか、時間を稼がなければならない。着替えの中にあるよりは、クローゼットの中にあるとか、そういうほうが、幾分ドラマチックだ。着替えに入ろうとした研磨に、黒尾は
    「先に風呂入っちゃいなさいよ」と声をかけた。ますます怪訝そうな顔をして声をかけた相手は振り向いた。
    「ちょっとパソコン見たい」
    「でも、椅子に座ったらそのまま寝るでしょ。風呂入っとけば後は寝るだけだし、楽だぞ」
     研磨は、それもそうだ、という顔を覗かせつつも、なおも進路を変える様子がない。部屋のドアに手を掛かるか、としたところで、また声が出た。
    「研磨、風呂!」
    「ねえ、何?」研磨がゆっくり振り返る。
    「さっきから、変なんだけど」
     黒尾の背筋が伸びた。顔をどう作ったらいいか分からなかったが、その前に顔の筋肉が動かない。研磨からまっすぐ見つめられて、自分の目はどうなっているのだろう、と思った。悪いことをしているわけでもないのに、脇に汗がじんわりと溜まってきている。
     耐え難い沈黙が流れたが、黒尾は口をつぐむしかなかった。というより、代わりの言葉が見つからない。
     研磨は口元を曲げたままドアノブを捻った。一瞬部屋の中を見回したが、重い体を引きずるように中に入る。
     黒尾はそれを黙ったまま見ていた。目の前でドアが閉まる。これは、一緒に指輪を隠しているこの部屋に入った方がよかったのか。しかし、背中で拒絶されているのに、着替えているところまでついていくのも変な話だ。
     天井を見上げて部屋の前で突っ立っていると、勢いよくドアが開いた。
    「これ?」自分の様子が変だった理由を、一言で確認してくる。目を見開いて視線を合わせる研磨の手元には黒尾の用意した指輪ケースがあった。
    「うん、まあ」歯切れ悪くうなうずく黒尾の頬を引き寄せ、研磨は少しばかりの背伸びをして唇が触れるだけのキスをした。黒尾は、何がおこったのか、判断が遅れたものの、反射的に研磨の腰を引き寄せた。
     額をくっつけあったまま、2人はしばらく身動きもせず、ただお互いの呼吸と、胸の上下を感じていた。 
    「ねえ、なんで服がぐちゃぐちゃしてたところに、これが置いてあったわけ?」
     黒尾は今更取り繕っても仕方がないと、正直にプロポーズであることを白状した。そして、もう少しびっくりしてもらうような場所を探したかったが見つからなかったことを告白すると、研磨はうっすらと笑った。 
    「俺が見つけられなかったらどうしてたの?」サプライズに引かれたらどうしようかと思う気持ちと、隠しきれず中途半端に終わった無念感に苛まれていた黒尾は、思いの外嬉しそうにしてくれている相手に、ほっと、ため息をついた。
    「だから、今日中に見つけてもらえるように頑張ったわけ」
    「そしたら、こうなったと」
     黒尾は踵を上げている研磨を床に戻す。
    「だって、ちょっと驚かせたかったし。なんせ、プロポーズですよ」
    「んー」研磨は、首を傾げた。
    「驚く、イコール喜ぶってわけじゃなくない?」
     それはごもっともですけど。思っていたよりは喜んでいるが、かといって、テンションがぶち上がっているわけでもない。わかっていたが、相手は手強い。
    「死ぬまで愛し続けようと覚悟を決めた相手を喜ばせたい気持ち、わかってほしいんだけどなー」そう話した時に、ちょうど研磨の腕時計から日付が変わるアラームが鳴った。
    「お風呂入らなきゃ」研磨は指輪のケースの蓋を閉めると、ソファの上に置いて、スタスタと脱衣所へ向かってしまった。その後ろを見送りながら
    「研磨にサプライズくらいしてほしいわけよ」大して期待をしていなさそうに、黒尾は声を投げかける。
     浴室へのドアが閉まる音が聞こえたのと同時に、ある人からラインが入った。
     プロポーズはどうだった? と、文面を見てハッとする。それから研磨の入っている浴室のドアを叩いた。髪の毛を泡だらけにしながら、相手は片目だけを開けてこっちを見てくる。風呂の最中、申し訳ないとは思ったが構っている余裕はない。肝心の返事を、まだ聞いていなかったからだ。ちょっと喜んでいたからオーケーかと思っていたものの、改めて承諾をもらえたかどうか聞かれたら自信が雲散霧消した。
    「なあ、で、どっち?」
    「え?」
    「え? ではなくて」被せるように言う黒尾を制して、研磨は髪の毛をシャワーで濯ぎ出した。その間、黒尾は一度浴室のドアを閉めて、脱衣所に突っ立っているしかなかった。腹の前で手を組み、祈るようにそれを見つめた。そして、唐突にドアはもう一度開いた。
    「で、どうしたの」
    「だから、プロポーズは、どっちかって」黒尾はOKかと聞きたかったのだが、あまりにもあっさりした研磨の態度に、急速に自信が萎んでいった。すると、彼は首を傾げて言った。
    「さっき、言わなかったっけ」
    「聞いてない」キッパリと言い切る黒尾に、研磨は 一瞬目を丸くしたあとに、言った。
    「受けないって言ったら、クロはどうしてたの?」それから、寒いから閉めるね、と浴室のドアがまた閉まった。黒尾は喜んでいいのか、どうなのか、イマイチ歯切れの悪い時間になってしまったのだが、とりあえずまあいいか、ということにした。ブチ切れられることもなかったわけだし、結婚はできるようだし、と。
     プロポーズってこういうものなのか。それとも、自分がそういう星の元に生まれてきたのか。
     その後、研磨は慣れない飲み会で疲れた、とすぐに布団に入ってしまった。こう言う時、感極まって熱い夜を過ごすのではないのか。いつもよりも多めに夜の行為に備えたものを買っておいたということはそっと胸の内にしまい、黒尾も研磨の横に身体を滑り込ませた。
    「おやすみ」研磨の頭にキスをして、首筋に自分の額を擦り付ける。やがて、寝息を立て始めた。
     そして、月が地上を照らすひっそりとした夜。
     黒尾は知らない。
     彼が眠りについた横で、そっとベッドから起き出し、指輪が入った箱をそっと開ける、研磨の姿を。慣れない手つきでそろそろと自分の左手の薬指にそれをはめ、月明かりに手をかざす。それを、幸せそうに見つめている、眼差しを。
     
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