ひるね教官にグラースを探してきてくれと頼まれて、俺は心当たりがあるところを片っ端から駆け回っていた。
「こんな所に居たのか……。」
俺が探していた男は、図書館の裏にある大きな木の幹に背中を預けて、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。いつからここに居たかは分からないが、教官が前の授業をサボったと言っていたから2時間くらいはここに居たのだろう。
足音を立てないように近づいてしゃがみこむ。
そよ風がグラースの柔らかい色の髪を撫でる、風のせいで顔に掛かった髪を、起こさないようにそっと耳にかけてやった。
「……。」
綺麗な顔だ、睫毛も長いし、唇も柔らかそうで……。
引き寄せられるようにぐっと顔を近づける……が、そこで身体の動きを止めた。
突然キスなんてして起きないだろうか、でも、良く寝ているし起きないならしてしまってもいいんじゃないか?これでも恋人同士で、これ以上の事もしている仲だ。キスくらい、どうって事ないだろう、グラースにとってなら尚更。
いや、でも、寝込みを襲うなんて男としてどうなんだ?
グラースはああ見えても、ふとしたときの人間の態度で傷つくくらいには繊細だ。そんな彼が自分を守る為にあんな奔放な振る舞いをしていると言うのに、恋人である自分がそれを繰り返すのか?
本能と理性が戦っていて、中々踏ん切りがつかないのに苦笑いを浮かべる。全く、なんて己は意気地が無いのだろう。
「あー、もう、なんて中途半端なんだ、俺は。」
告白した時に、思わず泣いてしまったグラースを心から守りたいと、離したくないと思ったのに。
寝ているグラースの隣に腰をおろす、時計を見ると昼休憩の終わりまで後30分という所だった。
今日は天気も良いし、風も少しあって気持ちいい。自分も木の幹に背を預けるとグラースの髪の毛が頬に触れた。
「寝顔……、可愛いな。」
あどけないかわいい寝顔に微笑んで、近くにあった額にそっとキスをした。俺は身体の力を抜いて目を閉じる、そのまま心地よい眠りに落ちていった。
*
「……するなら、唇にしろよ、ばか。」
俺にもたれかかってるグラースが顔を赤くして呟いたのを知る由もない。