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    おかき

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    おかき

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    1014R///最終的にマスグラになる話

    マスター視点。
    歩み寄りの話。

    火遊び 2話side.Master


    朝起きて歯を磨くと、じくりと唇が傷んだ。そっと様子を見ると、昨日グラースに噛まれた所が赤く腫れている。血は止まったけれど、じくじくと痛む感覚は残っている。

    「はぁ……。」

    とんでもない事になってしまった、と自分がやった事ながら後悔してしまう。
    士官学校の生徒達を守るためとはいえ、自分の貴銃士を制御するためとはいえ、その、後ろめたいような関係になってしまって良かったのだろうか。いやダメだろ、相手が貴銃士じゃなくてもそういうのは良くない。

    (でも快諾したのは俺だ……。)

    変な対価の求められかたをして動揺していたのかもしれない、キスされたし、舌も入れられたし、あと何故か唇も噛まれたし。躾のなってない犬かあいつは。
    とにかく、不本意であったもののグラースの言う通りにしなければならないだろう、要はあいつの性欲を程よく解消してやればそれでいいのだ。そうすれば、自ずと士官学校の生徒に手を出す事は無くなるだろう。

    そう考えると少しだけ心の中が落ち着いてくる、こんな形で一時的な解決に持っていけるとは思わなかった。
    まぁ、犠牲になるのが一般生徒から俺に変わっただけで何も解決してない気がするけど。
    鏡に映る自分の唇にそっと指で触れる、昨日、ここに、グラースの唇が触れた。

    「唇、柔らかかったな……。」

    あいつ曰く、男でも女でも変わらないらしい。
    いや、男としかした事ないから分からないけれど。
    いやいや、それは男としてどうなんだ??

    未だにじくじくと痛む唇を擦りながら、俺は大きくため息をついて身支度の続きを始めた。





    今日の授業には貴銃士達との合同授業は無い。そうなると、俺が貴銃士特別クラスに様子を見に行くか、校内でばったり出会うか、そのぐらいしか彼らと会うことはあまりない。
    あんな事があった以上、グラースとどんな顔して会えばいいのか分からないから、その点では偶然出会う事がないように祈るしかない。

    ……祈ってたはずなんだけど。

    「ごめんね、ちょっと訳があって、しばらく君と2人きりになれそうにないんだ。」
    「グラース様……。」

    休み時間に偶然、グラースと女子生徒が一緒にいる所に遭遇してしまった。慌てて身を隠したはいいものの、動けずに曲がり角の影になっている所に張り付く事になった。

    (タイミングが最悪過ぎる)

    こっそり様子を伺っているが、グラースは俺との約束通り、関係を持っていた生徒と「もう会えない」と事前に話をしているようだった。案外律儀だな、と感心する。
    俺の予想では、あの場ではああやって約束したけれど、こっそり手を出す可能性もあるだろうなと思っていたし。それに、なんの前触れも無くいきなり「もう会えない」とか言われたら、それこそまたトラブルの元じゃないか?大丈夫なのかあいつ。

    (でも、あの子……。)

    グラースでは無くて、女子生徒の方に注目する。見覚えがある、確か同じ学年のはずだ。
    そして、俺の記憶が正しければ目立たない大人しい生徒だったはずだけれど、どこか自信に満ちて容姿も可愛らしくなっているような……気がする。

    「わかりました、グラース様が言うなら……。」
    「今までありがとう、これからも友達で居てくれる?」
    「はい!是非、これからも仲良くさせてください。」


    待ってくれ、こんなに後腐れのない別れ話があるか???

    いや、後腐れのないことはいい事だ、いい事なんだけれどどうも違和感が拭えない。どういうことなんだ、あの子もグラースに弄ばれていた生徒の一人ではないのだろうか。それとも、恋人とはまた別の関係?
    いや、でも、昨日あいつは確かに関係を持っている子とは会わないと約束してくれたし、ってことはやっぱり……。

    思わず顎に手を当てて考え込む。
    と、突然背中の方から明るい声が聞こえてきた。

    「Hey、マスター!こんな所で何してんだ?」
    「う゛!?」
    「おっ、と、ごめんごめん。驚かせちゃったな、大丈夫?」
    「じょ、ジョージ、」

    慌てて振り返ると心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでくる碧眼と目が合う。
    アメリカの貴銃士のジョージだ。
    バクバク言っている胸を落ち着かせるように深呼吸して、向き直った。

    「本当にびっくりした……。」
    「HAHAHA!本当にごめんな、なにしてたんだこんな隅っこで。」
    「……それは、」

    チラッと背後の様子を見ると、グラースは居なくなっておりその場には女子生徒だけが残されていた。

    「あの子の事、見てたのか?」
    「ううん。ただ、グラースと話し込んでたみたいだったから、近寄れなくて。」
    「ふーん?あの子さ、グラースとカップルになってから可愛くなったって評判なんだぜ。ラブイズパワー!ってやつかな。」
    「……なるほど。」

    確かに。
    女の子は恋をすると変わるって言うし、グラースの事だから身だしなみとか美容の事とか、そういう気遣いみたいなアドバイスは出来そうだ。フランス銃のみんなは、美術や家庭科が得意だし、さぞモテるだろうからそういう話題にも詳しいんだろう。きっと。

    「ま、グラースの場合は、男も変えるみたいだけどな!」
    「……はは、本当に見境ないんだね。」
    「博愛主義ってやつ?……あー、ライク・ツーはフジュンナコーユーカンケイ?って言ってた。」

    それに関してはライク・ツーの言うとおりだ。あんな穢れた博愛主義があってたまるものか。思わず苦笑いを浮かべていると、ジョージが真面目な顔になる。

    「悪い奴じゃないんだぜ、グラース。」
    「え?」
    「ほら、俺とあいつは補習組だから。結構一緒に課題とかやるけど、やる気がないだけで頭はいいと思うんだよなぁ。」

    ジョージが顔を覗き込んできて、俺の眼をみてにっこりと笑う。
    ……今、もしかして気を使われたのだろうか。

    「別に、悪い奴だなんて思ってないよ。」
    「Really?マスターの顔に呆れた奴って書いてあったけど?」
    「そりゃ呆れてはいるよ、地頭が良いなら普段からちゃんとやれば補習なんてしなくて済むだろ。……でも、別に、不純な交友関係を持っているだけで、悪い奴と思ってるわけじゃ、」

    なんとなく、真っ直ぐなジョージの目を見れなくて下方に目線を落としながら言い訳じみた事を零す。
    悪い奴だなんて思ってない、呆れてるししょうがないやつだと思うけど、だからと言って最低だって決め付けた訳でもない。

    でも、それを真っ直ぐジョージに向かって言えないのは。
    どこか自分でもまだあいつの事を疑っているからだろうか。それとも、...あの後ろめたい約束のせいだろうか。

    「そうなのか?マスターって、グラースのこと嫌いだと思ってた。」
    「……え?ど、どうして?」
    「んー、なんとなく。」
    「な、なんとなく?」
    「だってさ、マスターはクラス違うのに結構俺たちの様子を見に来てくれるだろ?それくらい真面目で優しいのに、グラースとあんまり喋らないじゃん。」

    ジョージの言葉が頭の中で反芻した。
    考えてみればそうだ、マークスやジョージには学校生活がちゃんと送れているか心配で声をかけに行く、ライク・ツーにはトレーニングの話をするし、十手には彼が年長者だって事もあるけど、相談事や日本の文化について雑談しに行く。最近加わったシャスポーやタバティエールにだって、俺は気軽に話しかけに行ってた。でも、

    俺、グラースと話した事あったっけ?

    「おーい、マスター?考え事?」
    「……ジョージの言う通りだ。」
    「えー、もしかして、無意識?」
    「かもしれない……。」

    住む世界が違うとか、キラキラした奴だなとか思っていたけれど、無意識に避けるまでになっているとは。
    貴銃士達にとって、自分のマスターがどれくらい大事か、フランスの一件で強く身に感じたのに。……俺は、なんて事を。

    「ごめん、そんな深刻そうな顔するとは思わなかった。」
    「いや、ジョージに言って貰えて助かったよ。反省して、謝らないと。」
    「ええっ、す、stop!!マスターってホント真面目だなぁ。」

    ジョージは俺の腕を掴んで首を横に振る。
    不思議そうに見つめていると、困った様に微笑んだ。

    「これから、段々話しかけて行けばいいだろ?Don't
    worry!グラース、悪い奴じゃないし。」
    「……でも、俺アイツと話す事無いよ。」
    「Oh……、そこはまぁ、適当に?世間話で良いんじゃないかなぁ、」
    「それが1番難しいんだけどなぁ。」

    ため息を付くと、丁度ラッセル教官が歩いて行くのが向こうに見えた。事態が進んだ事を報告するべきか迷っていると、ジョージが笑って背中を押してくれた。

    「教官に用事?俺のことはいいから、行ってきていいぜ!」
    「ジョージ、ありがとう。」
    「良いって良いって!じゃあな!」

    そう言ってジョージが大きく手を振る、その笑顔に安心して俺も小さく手を振り返してから、ラッセル教官の元へ駆け寄っていった。

    「マスターとグラース、仲良くなれるといいな。」

    1人残されたジョージがそんな事を言っていたのは知る由もない。
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