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    おかき

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    おかき

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    1014R

    ※創作マスターとグラがセフレ(?)になる話、今回はキスまで

    火遊び 1話side.Gras

    レザール家から離れて、士官学校に来てから僕は毎日が充実していた。
    生徒はみな士官となる為に勉強や訓練を積み重ねているだけあって、色々と溜まっている奴が多い。
    普段の訓練への不満、人間関係の軋轢、上級生への鬱憤、欲望の捌け口だって知らない奴も多い。そういう奴を手篭めにするのは赤子の手をひねるより簡単だ。
    しかも、たまに逸材もいるものだから、たまらない。

    まぁ、思い通りにならない奴が身近に1人だけいるが、

    「グラース、話しがあるんだけど。いいかな。」

    授業が終わった瞬間、その思い通りにならないやつ、他でもない僕達のマスターが声を掛けてきた。
    貴銃士特別クラス、なんて設けられているから授業が別れていればあまり顔を合わせる事は無い。しかも、あっちから声を掛けてくるなんて珍しい。

    にこり、と微笑みを浮かべて僕はマスターの手を取った。

    「やぁ、マスター。君の方から声を掛けてくれるなんて、僕とっても嬉しいな。」
    「……あー、うん。」

    おい、せっかく可愛こぶってやったのになんで無言なんだこいつ。僕の綺麗な顔で微笑まれれば男だろうが女だろうが見蕩れるのに、見蕩れるどころか少し引いてやがる。
    猫被りを捨てて声を荒らげようとするのをこらえて、僕はとマスターの顔を覗き込んだ。

    「マスター?どうしたの。」
    「あ、あぁ、ごめん。ここじゃ話せないから、場所を変えたいんだけど。」
    「?うん、良いよ。……ふたりきりになれる場所、行こう?」

    握っているマスターの手の甲にそのまま軽くキスをした。ちゅっ、と可愛らしい音がなって、ここまでやれば流石に何か言うだろうと思ったけれど、マスターはそれをじっと見つめたまま、微動だにしなかった。
    おいおい、コミュニケーションも満足にとれないのかうちのマスターは。

    ここまで反応されないと虚しくなってくるな、と思っていると、後ろから殺気を感じた。恐らくマスターの忠犬か、僕の旧式のお兄様のどちらかだろう、どっちにしても絡まれると面倒だ。
    とりあえず場所を変えようと、僕はマスターの手を引いて教室を後にした。





    「で?なんだよ、話って。」

    連れてきたのは寮にある僕の部屋だった。人気の無い所が良いって言われて、思いつくのがここしか無かったからだ。僕は自分のベッドに座って、マスターは、僕の前で腕を組んでいる。

    「もう猫被らないんだね。」
    「必要ないだろ、誰かさんには意味ないみてぇだし?お前こそ、その余所行きの態度止めてもいいんだぜ。」
    「……!」
    「気付いてないと思ったのかよ、お前、戦闘の指揮してる時雰囲気変わるだろ。……それで、そっちが素だろ?」

    マスターの紫の瞳がまっすぐ僕を見据える。
    フランスで出会ったとき、社交界の場ではただにっこりと微笑んで佇むだけだったくせに、いざアウトレイジャーと対峙した時の雰囲気の変わり様に驚いたものだ。的確に指示を出して、自分を蝕む薔薇の傷も厭わずに絶対非道を使わせていたのを思い出す。

    どうするべきか考えていたのか、ゆっくりとマスターが瞬きをする。すると、さっきまで温和な光を灯していたそれは、ガラリと雰囲気を変えて鋭くなった。
    要はこいつも僕と同じで、化けの皮をかぶって振舞っていたってわけか。

    「人のこと、よく見てるんだな。」
    「それほどでも、顔色伺って丸め込むのは得意なんだ。」

    マスターはバレたことになにも思わないのか、さっさと本題に入る。

    「ああそう、……じゃあ、単刀直入に聞くけど。士官学校の生徒に、誰彼構わず手を出してるって本当?」
    「……。」

    僕は何も言わなかった。
    なるほど、普段から良い子ちゃんで真面目なマスターが、だらしない僕に話があるなんて言うから何かと思えばそんな事か。
    本当かどうか、事実確認からしてくるなんて甘いヤツだ。僕の普段の振る舞いを見ていれば結論は1つだろうに。それとも、こいつ、僕のこと眼中に無いんだろうか……。

    口の端を上げて微笑む。

    「本当だって、言ったら?」
    「……今すぐやめなさい。」
    「どうして?」
    「教官から相談を受けたんだ、士官学校の風紀を乱しているから俺の方から注意をして欲しいって。」
    「ふぅん、」
    「複数の生徒から匿名で進言があったみたいだし……、俺はお前の個人的な交友関係に微塵も興味無いけど、弄ぶならやめろ。誠実じゃないし、本気にしたら可哀想だろ。」

    心底鬱陶しそうな顔をされてカチン、とくる。
    そりゃ、手を出す方が悪いに決まってるが乗る方だって負い目くらいあるだろうが。元々、クソがつくほど真面目そうでつまらない男だと思っていたけど、それは今日は確信した。
    こいつ、優雅な僕とは正反対で、住む世界が違う人間だ。

    そして、そういう人間ほどめちゃくちゃにしてやりたくなる。

    「……可哀想、ねぇ。」
    「何か文句でもあるのか。」
    「別に?」

    ゆっくりと立ち上がってマスターと正面から向かい合う。
    短く切りそろえられた金髪に、紫色の宝石の様な瞳、狙撃手らしい鋭い視線。顔つきは整っている、まぁ、僕には敵わないだろうけど。
    マスターには悪いが、ただ一方的にやめろと言われて、大人しく聞いてやるほど良い子では無いつもりだ。

    「まぁ、お前でもいいか。」
    「何……っ!」

    柔らかい唇が合わさる。
    目の前の男の身体が驚きからかびくり、と跳ねた。それに気を良くして、もっと追い詰めるみたいに身体を寄せる。

    「グラ……ん、んっ、」

    とん、とマスターの身体が壁にぶつかった。短いキスを繰り返して、呼吸するために開けられた唇に塞ぐ様に口付けをする。僕の身体を押し返そうとする手を絡めとって、壁に押さえ付ける。

    こっちの方がほんの少しだけ背が高いから、ぐいっと顔を上に向かせた。生娘のように頬を赤くしてこちらを見上げるその表情に、支配欲みたいなものが湧き上がってくる。

    「へぇ、良い顔するじゃねぇか。マスター。」
    「っ、なっ……なんなんだいきなり……!」
    「あぁ、そんなに怖い顔しないで、……ねぇ、こういうのは初めて?どうだった?唇の感触と、そこから伝わる熱は。」

    耳元で蠱惑的に囁くと、いつもと同じように睨みつけられるが、顔を赤くしてるせいか迫力はまったくない。それは完全に僕が主導権を握っている証拠だった。
    普段からクソ真面目なマスターの事だ、キスもこんな風に言い寄られるのも初めてなんだろう。

    「柔らかくて、熱かっただろ?いい事教えてやる、男も女もな、唇の柔らかさなんて対して変わらないのさ。」
    「っ、耳元で喋るな……!」
    「ふふっ、くすぐったい?感じやすいんだね、マスター。」

    頬に添えていた手をゆっくりと下に移動させて、シャツのボタンに手をかける。それを流石にまずいと判断したのか、マスターの手が僕の手首を掴んだ。

    「いい加減にしろ、俺をからかって愉しいのか!?」
    「ははっ、こんなの愉しいに決まってるだろ!どんな奴相手にしてもここまで楽しいのはひさしぶり……。」

    そこまで言いかけて言葉を止める。
    揶揄うだけにしておいてやろうと思ったが案外愉しい、もっとコイツで遊んで、めちゃくちゃにしてやりたい。
    いい事を思いついた、とても、良い事を――。

    「分かったよ、もう生徒に手を出すのは止める。」
    「は?」
    「その代わり、だ。マスター、お前が僕の相手をしろ。」
    「っ、はぁ!?」

    案の定、ギョッとした顔で大声を出す。

    「なんでそうなるんだ!?だ、大体俺は、お前みたいに慣れてるわけじゃないぞ。」
    「それが良いんじゃねぇか。なんの経験も無いまっさらなお前に、色事っていうのを教えてやる。この僕が、直々に、だ。有難く思えよマスター?」
    「微塵も有難くない!」
    「んな事言っていいのかよ、美しい僕は引く手数多だから今晩にでも相手を作って、お前の言う風紀が乱れる事をするかもしれないぞ。」
    「そ、それは、」
    「良いか、これは取引だ。お前が僕の良い遊び相手になってくれるなら、別に他のやつに手を出したりしない。」

    マスターは少し俯いて長考しているようだった。
    僕は心の中でほくそ笑む、このままあとひと押ししてやれば面白い玩具が手に入る。そう思って口を開こうとしたその時、マスターが顔を上げて真っ直ぐ僕を見つめてきた。

    ムカつくぐらい、曇りの無い瞳で。

    「分かった、その取引乗るよ。」
    「...ふーん。覚悟が決まったわけ?」
    「但し、人目のある所では相手しない。俺にそんな趣味は無いし、今みたいなお互いの部屋でなら構わない。それから、お前がもし他の生徒に手を出した事が分かった時には、きっちり罰を受けてもらう。」
    「はぁ?なんだそれ、誰が決めるんだよ。」
    「ラッセル教官か恭遠審議官に決めてもらう。あくまでも俺は注意しに来ただけで指導するのはあの人たちだからな。」

    さっきまで顔を真っ赤にしていた男はどこへやら、任務の時に見せる真剣な顔に戻っていた。学校ではへらへらいい子ぶってる癖に、しかもちゃっかり自分はあくまでも乗っただけって態度を取ってきやがった。

    まぁ、それでもいい。こいつを好き勝手出来ることに変わりは無いのだから――。

    「いいぜ、取引成立だ。」

    さっきと同じように顎に手を添えて、顔を近づける。
    キスされるのが分かったのか、マスターは眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をしたものの、大人しくそのまま目を閉じた。

    触れるだけじゃつまらない、そう思って形の綺麗な唇に歯を立てた。ぷち、と唇が切れる音がしたけれど、お構い無しにそのまま唇を舐める、ほんのり鉄の味がするけれど、まぁ、最初だからな。後々甘いキスでも出来るように躾していけばいい話だ。

    「っは……痛い、なんで噛んだんだ。」
    「別に良いだろ、んな嫌そうな顔しないで、とことん楽しもうぜ?マスター。」


    こうして、危ない火遊びのような取引が始まった。



    (つづくよ)
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