こっちを向いてハニー 校舎裏の日当たりがいい場所にツツジが植えられている。濃いピンク色、淡いピンク色、白色、目を楽しませる鮮やかな花を咲かせていた。今日もアイツは蜜を吸いに来るのだろうか。休み時間、空き教室から眺める。
(あ、来た)
同級生の松本がキョロキョロと周りを気にしながらツツジの植木に近づく。きっと上から見ているとは思ってないんだろう。今日も優しい手つきでツツジに触り、プチりと摘んでいる。そのまま口に含み、数秒目を伏せて蜜を吸っていた。
たまたま見た、ツツジが咲き誇る場所に坊主頭があって、ポツンと浮いている風景が何だか面白く、時折、空き教室から眺め始めたのがきっかけだった。クラスは違うが同じバスケ部で、真面目そうな雰囲気のヤツ…という印象だったのに、蜜を吸う所を見てからは何だか可愛くも見えてきているのだ。
* * *
いつもなら空き教室で眺めている時間だが、今日は何だか話しかけたくなり、ツツジが咲き誇る校舎裏に来ていた。少し花を眺めていると、足音が聞こえてきた。
「一之倉……?」
何故、ここに?と聞きたそうにしていたため、素直に答える。
「ごめん、空き教室から見てたんだ。前からちょくちょくツツジの蜜吸ってるよな」
「小さい頃を思い出して、つい懐かしくなって……他の奴らには秘密な」
頬を掻きながら、ばつの悪そうな顔をする松本に「じゃあ、俺も一緒に蜜を吸う。そうすれば共犯だろ?」と言うと、恥ずかしそうに笑った松本に、胸が高鳴った。その笑顔できっと俺は恋をした。
* * *
今年も綺麗にツツジが咲き誇っている。さて、アイツは蜜を吸っているのかな。
あ、いた。
「松本!」
呼ぶと口にツツジを咥えたままの松本が恥ずかしそうに振り向いた。
あの時とは違う関係性になったふたりは今年も仲良くツツジの蜜を吸う。