車内にて ――結果から言えば、車内で眠ることはできなかった。
その原因は、宮城以外の三人全員にある。
「三井」
「んー?」
「今の角右だったピョン」
「は!? 今!? なんで過ぎてから言うんだよ!」
「深津さん深津さんっ! チョコ食べますか!? コレめちゃくちゃウマいんで食べてくださいよ〜っ!」
「今やっと地図のどこにいるかわかったんだピョン」
「遅え〜っ!!」
「深津さ〜ん、チョコじゃなくてアメなら食べます? コレもウマいっすよ!」
「まあこの先どっか曲がれるとこあんだろ」
「さっきのところから高速乗らないとタイムロスだピョン」
「……お前さあ」
慣れない道にテンパっている三井、助手席に座っていても道案内には役に立たない深津、深津に構ってほしくて話しかけまくる沢北。地声の大きい三井とそれに負けないように声量をだす沢北のせいで車内の音量はかなり大きめだ。こんな状況で眠れるかよ、と宮城は半目になりながら斜め前に座る三井の横顔を見つめた。
三井が進学した大学に、夏のインターハイで対戦した山王工業高校の奴らもいると聞いた時には驚いたものだが、存外に上手くやっているようだ。がさつな面も大いにあるが、基本的に人懐こいのであまり人には嫌われない。
対して深津のパーソナリティについては詳しくないが、宮城の隣に座っている男によると完全無欠でお茶目な一面もあるスーパークールビューティらしい――わけがわからない。試合の時はとにかく恐ろしかった、が、三井から聞く普段の深津は「おもしれ〜奴だよ」だ。真面目そうな顔してわりと冗談も言うらしい。お茶目な一面とはそれなのか。
ともあれ、宮城は深津を「三井の大学でできた新しい友人」にカテゴライズしている。同じカテゴリーに含まれるのが深津と同じ高校に通っていた松本だ。彼についての情報は、沢北からも三井からもよく聞いている。しっかり者、真面目、几帳面、常識人――おおむねそんな感じだ。高校時代からクセの強い同級生や後輩の面倒をよくみていたらしい。そしてそれは大学に進学しても似たり寄ったりの状況になっていると思われる。
三井も深津も、松本という存在ありきでのびのびと過ごしていることだろう。深津は知らないが、三井は世話を焼かれることに慣れている。一人アウェイの状況になればそれなりに立ち回るのだが、高校時代は堀田を始めとする取り巻きたちが当たり前に先手を打って動いていた。松本はよく気のつくタイプの常識人のようだから、三井の自由な振る舞いにやきもきさせられているに違いない。
なんか菓子折りでも持ってったほうがいいかな、うん、そうしよ。窓の外の長閑な風景を眺めながら宮城は一人ため息をついた。
コンビニに立ち寄り小休憩をとった後、運転手かつ車の持ち主である三井の権限により席替えが為された。助手席が宮城、その後ろに沢北、運転席の後ろが深津だ。
「事故の時、運転席の後ろが一番生存率が高いんだピョン」
負け惜しみのつもりなのかわからないが、車のドアが閉まったタイミングで深津がそう言った。
「さすが深津さん! 物知り博士っすね!!」
真後ろの男のように褒め称える気には到底なれなかった。
「ちなみに」
深津は沢北に構わず、まっすぐにこちらを見つめている。
「一番死亡率が高いのは、助手席だピョン」
イヤなこと言うなこの人と宮城は肩を落とした。数年前の夏の試合を思い出す。本当にこの男とは相性が悪い。
「安心しろぃ宮城」
俺、無事故無違反だからと三井が運転席で笑った。
「もお前のことは俺がちゃんと守ってやるからな」
運転席の男は前方だけを見ているので目が合うことはないが、本当にこの人こういうトコだよな、とむずむずする口もとを手で覆う。
「よろしくね、三井サン」
斜め後ろからの視線には気づかないふりをして、宮城は手もとの地図に目を落とした。