【欲張りだからもっと知りたい】 目を開けると、窓の外は明るくなり始めていた。
寝ぼけ眼のアラタはベッドで横になったまま何度か瞬きを繰り返し、隣を見上げる。そこには未だ熟睡しているアルローの姿。
自分とは違う褐色の肌も、目尻に刻まれたシワも、左目の上を走る大きな傷も、どれもが愛おしくて。アラタはほんの少し表情を緩ませながら、傷跡にそっと触れてみる。
この傷、いつ出来たんだろう。
傷に限った話じゃないけど、俺はアルローさんの事をまだ全然知らない。
もっともっと知りたいなあ。
それこそ、好きな人の事だったらいくらでも──
「……おまえさん、俺の傷がそんな気になるのか?」
唐突に聞こえたアルローの声により、思考が中断された。びくりと肩が跳ね、傷跡をなぞっていた指も慌てて離す。
一体いつから目覚めていたのか。狼狽えるアラタの前で瞼を開けたアルローは、怪訝そうな眼差しを向けてくる。
「すっ、すみません! つい……!」
「大体よぉ、おまえだってここに傷あるだろうが」
「ぅひっ!?」
鼻上にある、薄紅色をした傷跡。そこを人差し指でぎゅむ、と押された途端、アラタが妙な声を上げた。痛がっているというよりも、そう──以前、不意打ちで耳に息を吹きかけてやった時の反応に似ている。予想外のリアクションにアルローの方も思わず動きを止めると、アラタはどこか恥ずかしそうに、
「お、俺、そこ、弱いんです。人に触られるとくすぐったいというか、むず痒いというか……」
「……へぇ」
ニヤリ、と意地悪く笑うアルローを見て。
アラタは己の失言に気付いたようだったが、後の祭りだった。
「──や、やめて、やめてくださいっ! くすぐったい……!」
更に傷跡を押され、擦られて。笑いと悲鳴混じりの声を上げ、身を捩るアラタ。最初こそアラタのそんな様子を面白がっていたアルローだが、やがて彼の身体を押さえ込むように抱き締め、耳元に口を寄せると、
「……もっと教えてくれよ。おまえさんの、イイところ」
囁かれたアルローの声に肌が粟立ち、アラタの動きが一瞬止まる。するとアルローはアラタに唇を重ねて、昨夜同様、その身体に指を這わせ始めた。
アルローに組み敷かれ、ぎしぎしと軋むベッドの上で。どちらからともなく口付けを繰り返し、節くれ立った指に身体のあちこちをまさぐられながら。アラタはふと思う。
そっか。
知りたいと思ってるのは俺だけじゃなくて、アルローさんも同じなんだ。
……俺の考えてたのとは、ちょっとだけ違うけど。
内心少し苦笑しつつも、アルローの唇が一旦離れると、アラタは彼の顔をじっと見つめ、
「……アルローさん」
「ん?」
「俺にも、アルローさんの事……いっぱい教えてください、ね」
微笑むアラタに、アルローは一瞬だけ言葉を失って──
ああ、と小さく頷くと再びその唇を塞ぎ、覆い被さるのだった。