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    祀-まつり-

    @matsurioekaki

    落書き中の落書き帳

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    祀-まつり-

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    転生夏五物語続き5
    夏(記憶なし)×五(記憶?)が一週間同棲生活をするお話。

    ⚠単行本0巻及び~11巻までのネタバレ、捏造を含みます。
    ⚠シモネタ会話が頻繁に出ます。
    ※ご報告なく加筆・修正行う場合があります。ご了承ください。

    R-18は下記リンクから
    【余命一週間。 五日目。】
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16505460

    #夏五
    GeGo
    ##余命一週間

    余命一週間。 五日目。(全年齢)5日目。6日目。5日目。

    腕の中にあったぬくもりが消えている事に眉を顰める。居ないとわかっていながらも目を開けないまま何もない隣を弄る。部屋のあたたかさとは逆にすっかり冷えたシーツが腕に擦れる。少し気持ちいい。
    ……すっかり?
    いつもならもう少しあたたかみが残っていたはず。
    私はぼんやりと目を開けて時計を見た。

    「………………え?」

    いつもより早く起きてしまったのかと思ったが、毎日悟が起こしに来る時間を1時間も越えていた。閉まっている寝室の扉を見つめる。気配を探るもリビングで物音はしない。

    悟が居ない?…………まさか倒れてる?

    一気に目が覚め焦燥に駆られた私は飛び起きてリビングへと向かう。
    ダイニングテーブルには既に朝食の用意が済んでいた。全てにラップがされており、味噌汁を閉じ込めたラップの内側に雫が数滴付いている。既に冷めているようだ。悟の姿はどこにもない。死角になっていた台所の床に倒れてないかと確認するも居ない。そこでようやく、風呂場から水音が聞こえるのがわかった。
    急いで廊下に出て脱衣所の扉を開けた。脱いだ衣服が置かれているのを見つける。風呂で倒れたのかと思い、そのままの勢い浴室の扉を開けた。

    「うわっ!?」
    「はっ」
    「…………あ?……おはよ?」

    悟は物音で異変を感じていたのか扉を開ける前からこちらを向いていた。が、まさか開けるとは思っていなかったようでその勢いの良さも相まってビクッと体を跳ねらせた。
    悟は湯を抜いた浴槽の中で背を預け両膝を立ててシャワーを浴びながら座っていた。普段はふわふわと上を向いている髪が濡れて落ち着いていて、大きな眼を真ん丸くして私を見つめた。

    「っどうした?しゃがみこんで!具合悪くなったのか!?」
    「あっ、えっ!?違えから!うわ来るな濡れるだろ!」
    「本当に!?」
    「本当本当!ごめんもうそんな時間だったか……悠長にしてたから」
    「……はあ、良かった……君が倒れているのかと……」
    「もー心配性なんだから。めちゃくちゃびっくりしたじゃん。……っていうか、大胆」
    「え」

    何が?と思い改めて悟を見て今の状況を考えた。
    足首をクロスさせ立てている両膝を抱えるように腕を組みその上にあごを乗せニヤニヤと笑っている。それを見たところで何が?しかなかったわけだが、よく考えなくても私達は好きあった仲なのだ。
    昨日色々あった上で今こうして元気な悟が目の前に居る。元気な悟は私との特別な行為を望んで頑張って元気になったのだ。そんな彼が目の前で裸体を晒している状態だ。とはいえ大胆、とまで言われてしまうとやはりそうか?とも思う。男同士の裸なんてやはりそんなもんだったりもする。
    でもそういう事ではなかった。期待するような青い瞳で見つめられ、それを言われてしまえば一気に見え方が変わってしまった。
    流れる湯を浴びて上気した頬、濡れた髪と色付いた白い肌。艶やかな薄く笑う唇も、足で上手く隠され露呈を免れている座り方も、立ち上ぼる湯気が時折隠すように悟を霞ませる情景も。その人を好いているからこそのフィルターがかかる。
    私の心臓はドッと跳ねた。

    「ごめんっっ!ごめんもおかしいけど!!」
    「ぶはっ!!はははっ!効果ばつぐんじゃん!相変わらず戦ってんなぁ」

    ピシャリと扉を締め背を向けた私の背後から反響した元気な笑い声が響く。男相手にごめんはおかしい。私の理性は間違っていないのだ。それを相変わらずなんて言われるとムッとしてしまうが、心配したとは言え確認も怠り突然扉を開けた私に非はあった。でも面白くはない。私は心配だっただけだ。というかなんであんなに妖艶に誘うのが上手いんだ?経験ないんだよな?女性に対してもこうだったのか?

    「……私先に朝ご飯頂くね」
    「うん!すぐあがるね。あー味噌汁あっため直さないと」
    「いいよそれくらい自分でやるから」
    「だめー!待ってよ!」

    私は安堵の息をひとつ吐いてリビングへと向かう。その後ろですぐに浴室の扉を開く音が聞こえた。本当にすぐ上がるのか。
    ……良かった。嬉しい。本当に元気そうだ。目的はどうあれ悟が頑張ってくれたおかげなのだ。やはり体は資本だ。


    あれ?というかなんで風呂に入ってるんだ?昨日悟2回も入ってたよな。
    ……まいいか後で聞こう。






    「おいし?」
    「……美味しいけど、ちゃんと乾かしてから来なよ」
    「見逃しちゃうじゃん」
    「……ずっと思ってたんだけどなんで私が食事するところ見てるの?」
    「ん?なんか好きなの」
    「は?」
    「傑が美味しそうにいっぱいご飯食べてるの見るのすげー好きなんだよね」
    「…………へぇ。聞かなきゃよかった。余計食べづらいな」
    「ははっ。まあ確かに俺もされたら食いづらいとは思う」

    タオルを頭にかけてわしゃわしゃと拭きながらこちらを見つめる悟を目の前に朝食をいただく。一応あたためたけど別に冷めても普通に美味しいなと思う。というか初日に言ったとおり、本当に毎回違う料理が出続けている。どんだけレパートリーあるんだろう。

    「悟は料理が得意なの?」
    「そうでもないよ?作れない事はないってだけ」
    「そうか?にしては随分豊富に種類を知ってるじゃないか。全部美味しいし」
    「あはは、そりゃよかった」
    「片付けも得意そうだし、家政婦さんとかしてるの?」
    「ぶは!してないしてない。世話人は居たけどね。やってた事とか出る料理真似すれば、できるようになるし作れるようになるじゃん。そんな感じ?」
    「…………え?」
    「あ」
    「世話人……?家政婦さんを雇ってる家なの?」
    「あーまあそうだけど、そんな大層なもんでもないよ」
    「いや一般家庭には世話人なんて人はいないよ……」
    「家が広いってだけでしょ。手が回らないほど広げる必要ないと思うけどね」
    「え、どんな家だ……ご両親は一体……というか、目の色や髪は親もそういう感じなの?」
    「いや、これは隔世遺伝らしいよ」
    「隔世遺伝?」
    「そ。遠い先祖にそういうのが居て、たまにそういうのが生まれる家系、みたいな?」
    「…………へぇ…………そう…………ますます悟がわからないな」
    「あはは。秘密が多い方がなんかミステリアスでいい感じでしょ」
    「よくないよ私は知りたいの」
    「んー別に面白い話でもないしなぁ。俺もそこまで詳しくないし」
    「面白い面白くないじゃなくて」
    「ふふふ」

    どうやら言うつもりはないようだ。悟も適当に流すつもりがうっかり口を滑らせたのだろう。どうしよう聞く限りだと悟はめちゃくちゃボンボン。しかも何やら由緒正しいお家柄のご子息って感じじゃないか?なんかちょっとしっくりくるのが嫌だな。なんでこんなところに来たんだよ本当に。ちゃんと言ってきてればいいんだけど。
    ……まあでも、まだ帰って欲しくはないかな。

    悟は頭を拭き終わったタオルを首にかけた。まだすっかり乾いてないのが気になる。
    あ、そういえば。

    「ねえ何で風呂入ってたの?埃でも被った?」
    「ああ隅々まで体を洗ってただけだよ」
    「?昨日洗わなかったんだ。汗かいてたからてっきり洗ったかと」
    「え?ガワは洗ったよ。まあ昨日はしないだろうと思ったし、それより早く一緒にいたかったしね。急いだは急いだかな」
    「???そう……ん?」
    「ん?」
    「昨日はしないって?」
    「エッチ」
    「っ……!!」
    「えっ昨日したかった!?」
    「は!?いやそんな事思ってな……は?ちょっと待ってくれじゃあ洗ったって、」
    「もちろん体の隅々までだよ。やっぱりというか何というか、自分の体なのに触るってのもなんかあれだし、洗浄もわりとえぐいし、なかなか拡がらなくって時間かかっちゃっ」

    私は目を見開いて彼の言葉を最後まで聞く前にガタッと立ち上がった。悟はぽかんと見つめている。
    焦燥のような苛立ちのような、いたたまれないような興奮のような感情が私の頭でぐるぐると渦巻く。何を言うべき?どれが最初に来る?とりあえずわなわなと後から沸き立った欲望にした。

    「何で私にさせてくれなかったの!!」
    「…………へ?」

    多分間違えた。でも言ってしまったもんは仕方ないので突っ切る。

    「あのね悟性行為ってわかる?性交渉とも言うよね!?性、交渉!つまり対話!」
    「ねぇ~……傑食事中だよ?俺はわりとオブラートに包んだつもりだったんだけど」
    「君一人で先に準備させようなんて私はこれっぽっちも思ってなかったんだ!なんで君は私に相談なしに勝手に先走っちゃうかな!?」
    「いや……て言ったって洗うってのは別だろ?それなしにしたって、そゆの一緒にやるなんて時間かかんじゃん。本当に最初からとかだるくない?」
    「は!?!?最初から悟に負担を強いる事こそあり得ないだろ。私も君も初めてなんだぞ!?そもそもだるいってなんだ。前戯も大事な時間だ。君の反応とか見て苦手な事とか理解していきたかったんだ。そういうの私の中で大事だったんだけど」
    「もしかして処女厨?」
    「そんなんじゃない。人聞き悪い事言わないでくれるか?」
    「でも実際やるってなったところでいきなり入るかわかんないよ?どっちにしたって時間はかかるって。傑のすぐるくんが綿棒……いやゴボウ?くらいだったらわかんないけど」
    「綿棒でもゴボウでもない」
    「大根?げぇーだったら無理かも」
    「………………わかんない。種類によるんじゃないの」
    「はははっ!それもそうか」
    「最低な会話だな……」
    「まあとりあえず前戯は楽しんでくれていーから。元々傑が勃たなかったらおしまいって話だったしさ。…………ふふ」
    「……何?」
    「いや?乗り気で嬉しいなって」
    「……、いや、そういう、わけじゃ……というか君、体は大丈夫なのか?」
    「ははは!おかげさまでね。つか大丈夫じゃなかったら朝っぱらから指なんか突っ込まないよ」
    「っ、そうだよ、朝なんだぞ!?」
    「そ。だからいつでもいいよ」
    「」
    「いつ誘われるかわかんないじゃん。準備が早いに越した事、なかったでしょ?」

    その発言の意味が本当にわかっているのかと思うほどの無邪気な笑顔に、私はずるりと腰を下ろし頭を抱えた。眉間の皺を伸ばすよう親指でなぞりながらため息を吐く。

    「…………本当にやろうと思ってるの?」
    「やろうと思ってなかったらこんな事しません~」
    「でも私が断ったらしないだろ」
    「するよ?傑が本当はしたいって思ってるのはわかってるしね」
    「っ……正直君の体が心配でそれどころじゃないんだけど」
    「心配ないように昨日俺は元気になったんだ。今なんか本当に健康体。それは硝子も言っていたしね。ちゃんと証明されてるだろ?今日なんか昨日より断然あったかい」
    「…………」
    「大丈夫だよ傑。いつでも俺を抱いて」
    「…………………………はぁ」

    断然あったかい。そう聞いて棚に唯一残っている時計に視線を移す。
    湿度や温度も表示されるそれを確認すると、今日は昨日よりも温度がかなり低い。そのせいか昨日と同じ温度設定のはずなのに私ですら少し肌寒く感じていた。やはり血の巡りが良くなっているのだ。
    とはいえ、だからと言って、抱けるとしてもだ。こんな風に私ばかり頭を悩ませた上で行為に及ぶのは正直格好悪くて様にならない。まあこの男相手にそんな事を思うの自体無意味か。マウントは常に取られているような感覚はずっとあるものな。でも格好悪いのはいやだ。いじけてしまう。

    「……なんで君はそんなに余裕なの……私ばっかり余裕ないみたいでいやになる」
    「あはは。余裕そうにみえるんだ。それならそれでもいいけど」
    「え?」
    「これでもめちゃくちゃ怖いって思ってるよ」
    「…………」

    私はぱちくりと目を瞬かせた。怖い?君が?

    「俺あんまり人に触られ慣れてなくてさ。自分から触るのはいんだけどこう、寄せ付けないっていうか。あ、潔癖とかじゃないからね。拒むとかじゃなくて」
    「ああ、…………だから敏感なのか」
    「えっそうなの?ははっそうなのかな。……まあそうかもね。別に誰も俺に触ろうとかしなかったっていうか、変な話できなかったっぽいっていうか。だから触られたらびっくりするんだよね」

    ああなんか、しっくりくるな。悟には見えない壁のようなものを感じる。
    その見目のせいだろうかとも思ったけれど、敷居が高いというよりは触れられない壁があるような、それが当然のような不思議な感覚だ。とはいえ結構くっついて寝ていたりもしてるけれども。

    「……でもなんか、傑は大丈夫なんだよね。ははっ」
    「、」
    「体触られたりしたらまあ、びっくりするかもしれないけど」
    「っ」
    「……これって好きだからなのかな?」
    「っ~~~~!」
    「えちょっ、真っ赤じゃん!やめろよこっちまで照れるだろ!」

    いやもう……本当勘弁してくれ…………
    傍から見ればでっかりナリをした男同士が向かい合って恋愛童貞を決め込んでいるとかいい笑いものだろう。何を堪えているのかわからないけれど、お互い朱に染まった顔を背けてぐっと口を真一文字に結んで悶えなのか苦しみなのかわからない感情を堪え忍ぶ。
    突っ伏した私に対し先に耐え終えた悟がはー、と一つ長い息を吐いた。私もゆっくりと顔を持ち上げる。

    「傑」
    「……うん?」
    「ごちそうさま?」
    「…………いや、食べるよちゃんと」
    「はは、……んじゃ俺はデザート?」
    「さ と る」
    「キレるなよ!茶化さないと俺だって恥ずかしいんだよ!察しろよ!」
    「はぁ……もう……くそ……なんでさっきの話は大丈夫でこういう話になるとそんなに赤くなるんだよ……」
    「そんなの傑だって同じじゃん!」
    「だって……可愛いんだもん…………」
    「傑も重症じゃん!もー何コレ!?」

    珍しく悟も居心地が悪そうに椅子をぐらぐらと揺らしながら顔を覆ったり覆わなかったりしている。そんな仕草も可愛く映ってしまって、逆に視界に入れないよう私は視線を落とした。やけ食いのような心地でまだ半分残っていた朝食をありがたくいただく。とにかく心を無にしてたいらげた。
    これは多分きっとお互い同じ気持ちなのだろう。それは嬉しい。心臓がやたらとうるさいのだ。どこかそわそわと落ち着かない。けれど嫌ではない感覚。恋って忙しくて大変なんだなと思った。





    「………………」
    「………………」


    やばい。
    変に意識してしまったせいでさっきからずっとうるさい無言が続いている。

    もう家具しか残ってないほど片付いてしまった部屋では特にする事もなく、悟は磨いた廊下をもう一度磨いていた。何してるの。
    多分悟も「いつでも手を出せ」と言ってしまった手前、いつ来るんだみたいな期待と不安を胸にこの時間を耐えているのだろう。
    とは言え時計を見ればまだ10時。別に行為自体に昼とか夜とかは関係ないのだけれど、なんというか居た堪れない。今日一日こんな感じなのは絶対いやだから抱くならさっさと抱いた方がいいだろう。抱くなら。
    というか本当にやるの?できる?いやもうここまで来たら引き下がれないんだけど。彼はもう後ろの準備はしちゃったわけだし私だって抱きたくないわけじゃない。むしろ抱きたい。
    でもだとしても昨日あんな瀕死見せられて抱ける?元気なら静かに養生して延命に努めてほしいという気持ちが強い。でもあまり体を気遣うのも多分怒るだろうし、それは先ほど言われたとおりなのだろう。今は健康体。それを納得するしかないのだ。
    別に最後までする必要はないのだ。最初からそういう条件だった。悟の体を一番に考えるのは大前提。であれば堪能させてもらうだけもらって、最後までしなければいい。それでいい。そうだな。
    じゃあ…………抱く…………か。えいいの?いやいいんだ。

    抱くか。



    「悟」
    「!ん?何?」
    「ラムネは食べた?」
    「えあ、そういやまだだった。食べる」
    「うん」
    「…………」
    「あまってるペットボトルとかある?あ、水筒でいいか」
    「?……傑?何してるの?」
    「うん?準備」
    「え」
    「タオルはまだあるし、ローションもゴムもあったよな」
    「っ」
    「ラムネ食べ終わったらさ、寝室来て」
    「…………、…………はい」
    「ぶはっ」

    水筒に水を入れ終わった私を見つめたままぽかんと立ち尽くした悟が、その唇を全く動かさずにぽつりと漏らした返事に私は吹き出した。

    「うわっやば。何急に!緊張してきたんだけど!!」
    「私は今の悟の反応のおかげで緊張が解れたよ。ありがとう」
    「ええっやば!」
    「まあそう固くならないでよ。途中で止めてもいいんだろ?戯れ合いみたいに思えばいい」
    「いやそうだけど。……いや、うんそうだった。あっつ!ははっウケる。本当にするんだね。うわーすごいね俺達。よしっ……気合入れる」
    「あんま気合入れるのもやめてね」
    「注文が多いんだよな……」


    悟はじゃらりとラムネの容器を傾け勢い余って3粒出てしまったのを見て、げ、と顔を顰めるも、今は気合が入ってるからかそれを口に放れば丸飲みしてみせた。









    結論から言うと最高だった。

    悟が無邪気な様子でぎこちなく隠す初々しさや気恥ずかしさがいじらしくて堪らなかった。全くムードもなにもあったもんじゃない。普通に笑うし楽しい会話をしながらで、完全に戯れ合いの延長線上の行為だった。それでも結局最後までしてしまったわけだけども。
    途中からは興奮してわけがわからなくなりそうで、けれど絶対に忘れたくなくてどんな些細な表情も目に焼き付けた。
    終わった後の悟はぐったりはしていたもののどうやら体調には影響がないようで元気そうでホッとした。


    ――俺今、人生で一番幸せだ……


    そう言い切った悟の力の抜けきった笑顔を見て、なんだか感極まった。
    人生で一番の幸せを私が与えられた事が心から嬉しかった。これからも君の人生は続いていくのだけれど、それでも今まで生きてきた中では一番なのだろう。誇らしくて幸せだ。
    そして何より、それこそ私のセリフだとも思った。





    うとうとと寝かけていた悟は何かに気づいた様子でまんまるく目を開けガバッと起き上がった。本当に元気だ。一歩も動けないとか言っていたくせに。
    悟が視線を向けた先には時計があった。

    「うわ待って昼過ぎてんじゃん!」
    「元気だな……いいよ寝てなよ。それか風呂入ったら?行ける?」
    「だめだよ!晩飯食えなくなるだろ!」
    「別に空いてないもん……おなか空いたら勝手に食べるから」
    「わかったじゃあ俺飯用意して風呂入ってくるから傑ご飯食べてて!あーくそ1食見逃すのか……」
    「なんでそんなに見たいんだよ……」
    「なんか可愛いんだよ食ってる時の傑。見てて飽きないの」
    「……何ソレ」
    「ま仕方ないか俺が食われちゃったもんな。ははっ」
    「……………………ソダネ」

    どうせ着替えるからいっか、と先ほど脱いだ服を身に纏い悟はふらつく様子もなく部屋から出て行った。タフだな……まあ優しく抱いたつもりではあるけれど。
    それにしても悟は初めてだぞ。こんなもんか?いやどうなのかな。けれど無理してる様子は微塵も感じない。というか元気だとここまでタフという事か。だったら今のうちにちゃんと病院に行って治療に努めて欲しいと改めて思ってしまう。まあそれは、しないんだろうな。

    私はばたばたと寝室を出て行った元気な悟を見送り仰向けに寝転がって天井を見つめた。私の腕の中で悦がる悟を思い浮かべては溜息を吐く。
    重症だ。かなり好きだ。一世一代の恋をしたのだと自覚した。一回発散すれば冷めるかとも少し思っていたけれどそんな事はなかった。募る一方だ。

    「はあぁ………………」

    とりあえずは悟が用意してくれた料理を食べよう。まあでも悟が風呂あがってからでもいいか。見たいってなんだ。よくわからないけど見たいなら見せてあげたい。私が悟の一瞬の表情も見逃したくなかったように、悟もそう思ってくれているのかもしれない。
    そうだよね。人生は短いんだ。私達なら尚更そうなのだから。


    ――全部一緒がいい。……、一緒に楽しい事したい……一緒に気持ちいい事もしたい

    ――……一緒にいきたい


    一緒に逝きたい

    「…………」

    都合のいい解釈だな。


    よいしょ、と起き上がりしっとりと汗ばんだ髪を掻く。一緒にお風呂入ろうと言いに行くため、台所で準備する悟の元へと向かった。








    今日は人生で一番短い1日な気がする。あっという間だった。
    楽しい事って本当に一瞬だったりする。やっぱりひと欠片も見逃したくないものだ。

    結局あの後も風呂でくっついたり離れたりして、その後もずっと悟の側に居た。物が何もなくなった広い空間なのに、ほとんどを密着して過ごした。
    そんな私を気にせずに、悟はわりと忙しそうにしていた。今日はなんだか随分料理をする日だなと思い問えば、「明日動けなくなったらいやだから」とさらりと答えられ胸が痛んでもう一度抱きしめた。

    君があまりにも平然としているから忘れかける現実。
    明日にはこの魔法は解けてしまうのだろうか。いやだな。君の人生はずっとずっと幸せであってほしい。あるべきだ。

    25日になれば治る。本当に呪いのようだ。
    今この呪いを祓えないものだろうか。私ができる事はないのかな。
    君が幸せである事を願う事しかできないのかな。


    「よし終わったよ。傑くーん。……傑くん?寝た?」
    「……この体勢で寝れたらすごい」
    「確かに。ほら甘ったれちゃん。そろそろ寝るよ」
    「……うん」
    「寝室行くけどこのまま電車でゴーしてく?」
    「…………してく」
    「ぶはっ」

    悟は後ろから抱きつき顔を埋めた状態の私を撫でて、そのまま寝室へと連れて行く。手馴れた様子で電気と暖房を消せば、「急げ!寒くなるぞ!布団の中に逃げろ!」と言いながら私をベッドに一本背負いした。強い。私を担いだのか?普通に驚いた。
    ぶははは、と笑いながらぽかんと口を開いたまま見上げる私に悟が降って来る。声にならない呻きをあげながら小さくない体を抱きとめると、苦しそうな私の表情を見て嬉しそうに笑った。そういうところ良くないと思う。
    これが学生ならまだわかるけれど、私達はもういい年でいい大人なのに、それでもこんなくだらない事で笑いあえてしまうのだから似たもの同士なのかもしれない。
    馬が合うから親友だったのかな?ああやっぱり思い出したいな。
    だめだめ。
    悟が明るく努めてくれているのは私の様子がおかしいからなのだろう。
    私だって一緒に居るのは楽しいのだから、今はせめて楽しい時間を過ごそう。じゃないともったいない。

    「明日の朝ごはんは今日作ったもののどれが出てくるの?」
    「ふふふ、それは明日のお楽しみ」
    「そう。楽しみにしてる。……調子悪くない?」
    「めちゃくちゃ元気」
    「よかった」
    「傑」
    「うん?」
    「傑はどうして生まれてきたの?」
    「…………」

    悟に布団を掛け抱き寄せようと腕を回せば不意打ちの質問に動きを止め顔を向ける。何か含みがあるかと思ったが、悟の表情はいつもと変わらずに穏やかに笑っていた。なので素直に答えながらそのあたたかい体を抱き寄せた。

    「悟に会うためだってわかった」
    「……何ソレ。すげえ」
    「ね」
    「ふふふ、よかった。じゃあ俺がここに来た事に意味はあったんだね」
    「そうだね。ありがとう」
    「嬉しい」
    「悟は?」
    「うん?」
    「悟はどうして生まれてきたの?」
    「…………………………」

    あれ。長考?
    いやまあ難しい質問ではあるかもしれない。というか答えなんてほとんどの人が持ち合わせているものじゃないだろう。適当でいいのに真剣に考えている様子で、表情を消して瞳をうろうろと揺らす。それでもその答えは見つけられなかったようだ。

    「なんでなんだろう……」
    「…………」
    「俺が俺じゃなきゃよかったのにって、思う事もたくさんあった」
    「……そうなの?」
    「うん。まあ、人生ってそんなもんだよね」
    「…………」
    「でも傑がそう言ってくれたから、俺が俺である意味はあったのかなって思った」
    「…………」
    「だからありがと」
    「どうした?」
    「なんでもないよ。幸せっていっぱいいっぱいになると苦しいのかもね」
    「…………それはわかるよ」
    「ふふ、一緒」

    ぽつりぽつりと告げた本心であるだろう言葉がちくちくと胸を刺す。眉を下げて笑う顔が痛々しく思えて髪を撫で額に口付けをする。
    何を抱えているかはわからない。それを言うつもりがない。もしくは言えない。だから私はそれを聞くつもりがない。なのでこれでいいのだ。

    「悟が悟に生まれた事は素晴らしい事だと思うよ。少なくとも私にとっては」
    「そう?」
    「うん。ここまで生きてきてよかったと思えた存在なんだ」
    「…………そっか」
    「だからそのままの君がこれからも幸せである事を願ってる」
    「…………」
    「でも、もう少し。もう少しここに居て。私も悟と一緒に楽しい事したい」

    その言葉に悟は顔を上げ目を大きく開く。キラキラとした不思議な青い瞳。
    私はそれを見て目を細めて笑った。


    「いいだろ?一週間くらいくれても」
    「……、……」
    「人生のたった一週間くらい、私にくれたっていいじゃん」
    「ははっ……もう、何。よく覚えてんね」
    「忘れないよ。衝撃的すぎるんだ君は全部」


    そんな言葉くらいしかかけてやる事はできないけれど、君が笑ったからいいかと思った。肩を揺らしてもぐるように私の首筋に頭を擦り付ける悟を包み込む。
    定位置に付いたらしく、安堵の吐息を漏らす悟にもう一度額に口付ける。すると顔を上げて唇にもしてとねだるのが可愛くて笑ってしまった。悟も笑ってしまっている。らしくなくて笑ってしまっているのだろうな。らしいよ。君らしい。


    「おやすみ傑。明日のご飯、楽しみにしていてね」
    「うん。おやすみ悟」













    泣いてる。


    閉じられた長い睫毛が雨の雫を乗せる葉のようにしっとりと濡れてぽたりと水滴を落とす。流れるところを見つけた別の涙はきめ細かい肌を割くように細い跡を作った。
    私は起きないようにそっと拭ってやる。


    「……、…………」


    悟が起きない。と言うよりは私が悟よりも早く起きてしまった。
    この一週間ではじめての出来事だ。
    まだ朝の5時。冬の空はまだ太陽を昇らせないようで辺りは夜のように暗い。

    いつもなら少し冷えたシーツが広がるその場所にはまだ質量と温もりがあって、ちょっと得した気持ちになり悟に目を向けた。
    見間違いかと思い何度か瞬いて目を擦るも、その目からは涙が零れていた。別に息を震わせるでも苦しそうでもない。雨のようにぽつぽつと零れていた。


    悲しいの?悟。なにが?
    もしかしたら嬉しいのかもしれない。でもきっと違うんだろうな。それはわかる。
    じゃあ何が悲しいの。


    「…………」
    「ん……」

    私はそっと悟を包み込んだ。
    小さく呻く声に少し焦ったが、まだ眠っているようでホッとする。


    「…………」


    ふと、ぼんやりとあの時一瞬見えた映像を思い出してみる。
    あれを見るきっかけになったのはなんだったか。ああ、悟の言葉だ。


    ――大丈夫。俺最強だから


    そうだよな。悟の言葉がきっかけなのだ。よく考えたら寝言もそうだ。
    不思議だな。それでいて私に考える事をやめさせようとする行動とは不一致だ。口をついて出てしまったのだろうか。本当はあんな事いうつもりなかったのかな。それにしては自然と出たように思えたのだけれど。


    映像の若い悟は「俺達」と私に告げた。


    私達は最強だった。最強ってなに。
    最強である事が必要だった世界?なんだそれ笑える。
    でももういいやそれで。非現実的なフラッシュバックが現に起こったのだ。
    最強ってなんだ。可愛いな。やっぱり若いんだな。それとも本当に敵でもいるの?
    敵がいるって事は戦ってるのかな。なんで?平和のため?ヒーロー戦隊かなにかだろうか。だとしたら一般市民とかのためかな。ちょっと恥ずかしい。


    「…………」


    いやそんなわけないな。私は猿が嫌いだから。


    ん?


    「……、…………」


    もし。
    もし私と君が本当に弱者のために戦っていて
    私が突然弱者を毛嫌いするようになったら?

    私が私のように猿を蔑みだしたとしたら、敵側に寝返るんじゃないか。

    そうなれば君を置いていく?
    猿をどうする?

    殺す?



    「…………」

    私はまだぽたぽたと涙を零す悟に視線を向けた。



    いや。
    いやいや。

    流石にそこまで狂ってない。よね?
    えどうなんだろう。
    だとすればきっかけは?それこそ絶対理由がある。
    ああもうなんでこういう時にあの映像は出ないんだ。
    いい線いってると思うんだけどな。



    「……………………」

    ようやく少しずつ涙が止まってきた悟の目尻に口付けをする。
    少しだけ表情が和らいで見えた。それを見て安堵を覚える。



    目の前に居る君が流す涙を見ても全然しっくりこない。
    きっと私は君が泣いたところを見たことがなかったのだろう。
    おかしいね。親友だったのかもしれないのに。
    本当はこんなに泣き虫だったかもしれないのにね。
    君が私に弱いところを見せる事はなかったのかな。

    君が最強だったから?
    そうだね。きっとそうだ。





    強いってつらいよね。悟。


















    6日目。



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    祀-まつり-

    DONE転生夏五物語続き5
    夏(記憶なし)×五(記憶?)が一週間同棲生活をするお話。

    ⚠単行本0巻及び~11巻までのネタバレ、捏造を含みます。
    ⚠シモネタ会話が頻繁に出ます。
    ※ご報告なく加筆・修正行う場合があります。ご了承ください。

    R-18は下記リンクから
    【余命一週間。 五日目。】
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16505460
    余命一週間。 五日目。(全年齢)5日目。

    腕の中にあったぬくもりが消えている事に眉を顰める。居ないとわかっていながらも目を開けないまま何もない隣を弄る。部屋のあたたかさとは逆にすっかり冷えたシーツが腕に擦れる。少し気持ちいい。
    ……すっかり?
    いつもならもう少しあたたかみが残っていたはず。
    私はぼんやりと目を開けて時計を見た。

    「………………え?」

    いつもより早く起きてしまったのかと思ったが、毎日悟が起こしに来る時間を1時間も越えていた。閉まっている寝室の扉を見つめる。気配を探るもリビングで物音はしない。

    悟が居ない?…………まさか倒れてる?

    一気に目が覚め焦燥に駆られた私は飛び起きてリビングへと向かう。
    ダイニングテーブルには既に朝食の用意が済んでいた。全てにラップがされており、味噌汁を閉じ込めたラップの内側に雫が数滴付いている。既に冷めているようだ。悟の姿はどこにもない。死角になっていた台所の床に倒れてないかと確認するも居ない。そこでようやく、風呂場から水音が聞こえるのがわかった。
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