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    keram00s_05

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    keram00s_05

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    バイクショップ店員×看護師の朱玄です。まだ懲りずに書いてます。時系列としては3/5の手前くらいだと思っていてください。ご査収ください。

    #朱玄
    zhuXuan
    ##採血

    一年よりも長い夜の話安いアパートの古い階段を音を鳴らして上がり、鍵を開けて誰もいない暗い家の玄関に明かりをつける。

    「ただいまー」

    そう言うとオレの背負っているキャリーバッグからにゃこがにゃおと返した。キャリーバッグを床に置きチャックを開けると、にゃこ、もといにゃん喜威がぴょんと飛び出る。

    「お前もお疲れさん」

    にゃこは俺の言葉にお前もな、と言うようにまた短く鳴いて、とてとてと暗い部屋の奥へ1人先に行ってしまった。留守中に異変がなかったかを調べるのはにゃこの仕事だ。オレは部屋の明かりをつけて部屋着を引っ掴んでユニットバスに行った。いつも通りざっと汗を流し髪と体を洗い、泡を落とそうとしてシャワーを手に取りオレははたと気付いた。
    明日、玄武さんと飲みに行く約束をしていたんだった。
    あの日、採血が終わったあとオレは玄武さんに飲みに行こうと誘って、驚くべきことに誘われた。玄武さんは恥ずかしそうに笑って手元にあった付箋に連絡先を書いてこっそりとくれたのだ。(嬉しくてその付箋は捨てずに手帳に貼り付けたままにしている)それから2人で予定を確認して、明日にしたのだ。
    日程を確認するときもチャットだけで済ませられるところをオレは、玄武さんの声が聞きたいという欲に負けてわざと電話してしまった。
    『今から電話しても良いですか?』
    そうメッセージを打って、玄武さんから返事を待って電話をかけたというのに数秒のコール間オレは緊張していた。そしてコールの音が切れて、もしもし、とあの落ち着いた声がしたときにはひっくり返るくらい動揺した。電話だから肉声でないことくらい分かっている。それでも、うっすらと聞こえる彼の息遣いはオレを有頂天にするには十分だつた。
    もう一度、もしもし?といつまでも返事をしないオレを不思議がる声がしてようやく我に返った。

    「す、すいません!こうやって玄武さんと話してるって思ったら…」
    「確かに今まで年に一度の数秒しか話せなかったのに不思議ですね」

    そう少し笑う声が耳をくすぐってオレはまた天にも昇るような気持ちだ。浮かれてばかりのオレだったが、電話の向こうで玄武さんが少しため息をついたことに気付き、今度は急速に肝が冷えた。
    オレが浮かれて中々本題にうつらないから呆れてしまったのか?それともオレは無頓着なことを言ってしまったのだろうか?そう一瞬のうちに様々な予想が頭の中を飛び交う。

    「玄武さん、い、忙しかったですか?」

    人によってはこういうとき、気付かないフリをする方が良いと思って聞かない人もいるが、オレはオレの発言や態度で玄武さんに嫌な思いをさせていたのならばちゃんと謝りたいと思ったので恐る恐るではあるが尋ねた。オレの声が強張ったのに気付いたのか、玄武さんはすぐに質問の意図を感じ取ったらしく慌てた様子で返事をくれた。

    「ああ、いや、違うんです。実は今日少し仕事で色々あって…」

    看護師だから「仕事の色々」はオレが想像するよりずっと大変なんだろう。オレが大丈夫ですか?と声をかけるより先に玄武さんはぽつりと続きを話す。

    「それで、朱雀さんの声聞いたらなんか、安心して…つい」

    その言葉にオレは思わず黙り込んでしまった。
    玄武さんがオレの声で安心してくれた?
    安心したってことは嫌がっているどころか、オレのこと良く思っているってことだよな?
    内心軽くパニックになっているオレのことに当然ながら気付いていない玄武さんは続ける。

    「すいません、話逸らして。飲みに行く日の確認ですよね?」
    「あ、あ、はい」

    オレは慌ててカレンダーに目を移す。
    玄武さんがオレの声で癒されたって言ってくれたからオレは電話が終わっても興奮してなかなか寝付けなかった。

    そんなことがあって決めた大切なことを忘れそうになるだなんて!
    オレは気合いを入れ直そうと顔をガシガシと洗い、また気付いたことが出てきた。
    明日オレの隣にはあの綺麗な人がいるというのにこんなに適当に洗って良いのだろうか。すぐにもう一度今度は念入りに髪も体も洗い直した。
    そして買ってきた飯を食べて一息つく暇もなくベッドに持っている服を並べる。

    「玄武さんの隣に立っても大丈夫な服…」

    動きやすい服ばかり買っていたせいで、いわゆる「他所行き」服なんて持ち合わせていなかった。過去の自分に文句を言いたくもなったが、まさか玄武さんと出かけることができるだなんてこの間まで考えてもみなかったことが起きているということだ。
    とりあえず手持ちの服でなんとかしようと、片っ端から姿見の前で合わせてみることにする。

    「うー…これは、ちょっとラフすぎるよな…これは…うっ、シワだらけじゃねえか…」

    候補から外れた服をベッド横に捨てるように置いて行くと、服が上に被さって来たらしいにゃこが文句を言いたげにぴょいとベッドに上がって来た。

    「にゃこ〜何着ていけば良いんだ〜。やっぱりスーツかぁ?」

    あのモデルと見間違えるほど格好良い玄武さんのことだ。私服もさぞやお洒落なんだろう。というか、あの顔であのスタイルは何を着ても様になるに違いない。泣きが入り始めたオレを叱るようににゃこは頭に飛び乗ってバシバシと叩いた。

    「なんだよ、にゃこ」
    「にゃ!にゃ!」

    にゃこはどうやら「飲みに行くだけなのに怖気付いてんじゃねえ!」とオレに檄を飛ばしているようだ。

    「でもよぉ、好きな人となんだぜ?ほら、前に話したあの看護師の…」

    情けないオレに呆れたにゃこは頭を飛び降りると、床に落ちていた雑誌を引っ張って来た。表紙には「良い男の休日服」と大きく書かれている。どうやらこれを参考にして決めろと言っているようだ。今のオレにとっての答案集のような一冊に叫ばずにはいられなかった。

    「うおお!ありがとな!これなら何か掴めるかもしれねえ!」

    喜ぶオレににゃこは今度はゴミの袋の上に乗っかりとんとんとそれを叩いて見せる。

    「なんだよ。最近捨てるのサボってるのは悪いと思ってるよ」
    「ゃっ!」

    ゴミが捨てられていないことはもちろんだが部屋が散らかり放題であることにも怒っているようだ。でもなんで今日に限って指摘してくるのだろうかと思っていると、それすらも見通しているのかにゃこは俺のスマホの上に乗っかった。

    「さっきも言ったけど明日は俺は大切な人と会うんだよ。スマホに何かあったらどうするんだよ」
    「にゃーっ!」
    「え?ソイツが部屋に遊びに行きたいって言ったらここにあげるのかって?」

    改めて自分の部屋を一望する。
    玄武さんがオレの部屋に…?思わずここのユニットバスでシャワーを浴びる玄武さんを妄想しかけたが、それを打ち消すほど部屋は散らかっていた。
    脱いだ靴下や水着姿のグラビアアイドルが表紙の雑誌が落ちている部屋なんて誰が来ても幻滅するだろう。

    「さすがにマズイよな。今から掃除するからよぉ、手伝ってくれねえか?」

    まさか飲んですぐに連れ込むだなんて軽薄な真似はしたくないが、もし、本当に万が一、玄武さんがオレの家に行きたいって言ってくれたなら話は別だ。にゃこは仕方ないなと言う代わりに肩に飛び乗って来た。
    掃除をしながらにゃこは玄武さんについて聞いてきた。

    「玄武さんのこと、そりゃあ好きだぜ?でも付き合えるだなんて思ってねえよ。男同士だし、彼女がいるかもしれないんだぞ。…じゃあ、どうして向こうも誘ってきたんだ?それは分からねえよ」

    オレはあの日、オレが勇気を出して誘って、また彼からも誘われた日、連絡先が書かれた付箋と共に彼が「歳も近いしお話ししてみたかったんです」と言ってくれたことを思い出す。

    「でもよぉ、オレの何処か気に入ってくれたってことだよな。友達になりたいって思ってくれてるくらいの自惚れは許されるよな?ってなんだよ、その目は…」

    にゃこはオレをジトっとした目で見上げている。何処か呆れているようなそんな感じだ。訳を聞いてもにゃこはプイとそっぽを向くどころか自分の寝床に丸くなってしまった。

    「にゃこのやつ寝ちまった…」

    オレはその後も一人で部屋を掃除を終えたのだが、頭の中で玄武さんのことを考えてたからかどうも興奮して落ち着かない。
    明日もし飲みに行って、良い雰囲気になって、それで、もし、仮に、玄武さんに限ってそんなことはないと思うが、玄武さんが耳元でそっと2人きりになりたいと言ったらオレは耐えられるだろうか。もし、キスを求められたらオレは付き合ってもないのに応じてしまうかもしれない。そんなことばかり考えてしまう。
    もし、もしも、俺の部屋に来て、綺麗にしたオレの部屋に上がって、そこのベッドで玄武さんが体を横たえたら…?酒を飲んで体が熱くなってしまったのか、他の何かのせいで体が火照ってしまったのかは分からないが、するすると服を脱ぎ、オレの前に肌を曝して「朱雀さん…」って少し切なそうな声で俺を呼んでそっと手を引いてきたら…?

    …いやいや、そんな、あのキチンとしてそうな玄武さんに限ってそんな事はない!オレは頭をふってやましい妄想を打ち消そうと必死になる。でもオレの体は恥ずかしいことにそれを期待して反応している。
    確かにこれまで玄武さんでそういう妄想をしたことはないとは言い切れないけれど、玄武さんの体目当てではないってことは断言できる。冷静になるためにもう一度シャワーでも浴びようかと考えていると、スマホが鳴りオレは驚いたにゃこのように飛び退いてしまった。
    もしかして玄武さんかもしれねえ、そう思って急いで手に取り表示を確認するも、そんなワケがなく単なるダイレクトメールだった。
    シャワーを浴びるより急速に気持ちが落ち着くどころか萎えてしまい、オレは大人しくベッドに入った。


    俺は画面の上で指を彷徨わせ続けるのをやめて、テーブルにスマホを置き、ベランダに出た。吹いてくる風は少しばかりひんやりとしていて秋になったことを教えてくれる。
    空には月もなく静かに小さな星が瞬いているだけで物思いに耽るには丁度だった。スマホを握って、電話をする口実とふんぎりがつかない言い訳を交互に考えて四苦八苦し、結局電話をしなかった。
    明日飲みに行くだけの相手から電話、しかもこんな夜更けにされたら気味悪く思われるだろう。それが俺が出した結論だ。

    「はぁ…」

    「彼」に未練があるわけでも、責任転嫁するわけでもないが、俺は「彼」と別れて以来どうも恋愛に対して後ろ向きになっている。朱雀さんがいくら俺の好みで、向こうも少なからず親しみを覚えてくれているからと言って成就するとは思えない。それでも明日のために新しくジャケットを買って、靴も綺麗にした。
    「もしかしたら」と「でもやっぱり」という二律背反の思いがせめぎ合って落ち着かない夜を過ごしている俺だが、朱雀さんはどんな思いで今日の夜を過ごしているだろうか。
    上着も羽織らずに出たため体が冷えてきたので考えるのを一度止めて部屋に戻ると、メッセージが届いていた。どうせダイレクトメールだと思い手に取らなかったが、職場からかもしれないと思い直して確認する。画面に表示されたメッセージと名前に目を見開く。
    朱雀さんからの連絡で「明日、会えるの楽しみにしてます」という一文だった。社交辞令と言われたらそれまでだが、そうだとしても俺を喜ばすには十分だった。なんて返そうかと俺は先程までとは真逆の気持ちでスマホの画面の上で指を彷徨わせた。


    送ってしまった。
    オレはもう一度画面を見るが、画面の上部に表示されているのは間違いなくオレが先程打ったばかりの文章だ。
    ベッドに入ってうとうとしかけた時、にゃこに顔の上に乗られて眠りにつくのを阻止されたのがきっかけだ。

    「なんだよ、にゃこ」

    にゃこはスマホを丸い手で叩く。どうやら、寝る前に相手にメッセージの一つでも送ってアピールしておけ、ということらしい。そんな事して引かれたりしないだろうかと思いかけたが、何もやりとりしないで当日を迎えるより少しだけとっかかりがあった方が良いとオレは玄武さんと連絡する理由を見つけ簡単にだがメッセージを送ったのだ。
    すぐに返事が来るわけないだろうと思っていたがわりかし直ぐに読んでくれたらしく、メッセージ横に「既読」と付く。そのまま返信が来ないか待っていると、ポンという軽快な音と共に玄武さんからのメッセージが届いた。
    そのメッセージを読んだ俺は、わーとかあーとか叫びながらベッドの上で転げ回る。まだお互いの気持ちを確かめてもないが、今すぐに玄武さんを抱きしめたくなってしまった。抱きしめられないから、オレは自分の頭をぐしゃぐしゃに掻きまわす。

    「これは反則だろ…」

    明日、オレは玄武さんを前にして理性が保つのだろうか。今来た「俺も早く会いたいです」というメッセージのように、あの優しい灰色の瞳で求められたら言われたらきっと何だって頷いてしまいそうだ。

    「にゃこ…オレ、明日大丈夫かなぁ…」

    いつの間にかオレの枕を陣取って寝ていたにゃこはそんな事は知らないと尻尾で返事して、オレを放って眠ってしまった。
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