Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    mofuri_no

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 54

    mofuri_no

    ☆quiet follow

    ヒュポ書きかけの冒頭です。やる気出し&逃げ道を塞ぐため進捗報告…目標ろもそくで頑張ります…
    4.17更新。ろもそく終わっちゃった😅5月のオンリー目標ですが間に合うか……

    #ヒュンポプ
    hyunpop
    ##hp

    タイトル未定屈強な男の拳がみぞおちにまともに入り、ヒュンケルは石の壁に叩きつけられた。そのままずるずると崩れ落ちる。
    「思い知ったか」
    「お前のせいで……!」
     憎悪のこもった声。しかしヒュンケルの耳には途切れ途切れにしか届いていない。数発頬を張られた時に、鼓膜が破れていたようだ。だが対峙する彼らの口が紡ぐ言葉がすべからく呪詛の響きを纏っていることは、先刻承知の上。ヒュンケルの唇から漏れるのは、地の底から響くような改悛の念だ。
    「すまない……すまない」
     地面に投げ出されたヒュンケルの足首を、みぞおちに食らわせたのとは別の男の足が踏みにじる。
    「ぐっ……」
     呻くヒュンケルに向かって少年が石を投げ、別の者は血と泥で汚れた顔に唾を吐きかけ。最初の男がさらに数発殴り、顎を蹴り上げたところで光を失った目は閉じられ、動かなくなった。
    「死んだんじゃねえよな」
    「こいつがこのぐらいで死ぬタマかよ」
    「殺すとまずいぞ。一応王室お抱えの騎士様だ」
    「生きてるさ。殺したって死にゃしねえ」
     ヒュンケルをじっと見つめていたひょろりとした男が、腰のあたりから血が染み出しているのに気がついた。紫の布が赤く染まっている。
    「おい誰だ、刃物持ち出したヤツぁ」
    「出血多量で落ちたんじゃねぇのか」
    「……このまま死ぬなら奴の運命だ。おい、行くぞ」
     バタバタと遠のく足音は、大戦の英雄の一人である騎士の耳には届いていない。
     

     長い睫毛に縁取られた瞼がぴくりと動いた。ヒュンケルの体は緑色の光に包まれていた。同じ色の法衣の男が、マントの裾を汚しながら地面に片膝を付いている。
    「ポップ……?」
    「アバラいってるな。腕も、足も折れてる。それに腰の傷、かなり深い」
     パプニカ宮廷付大魔道士は、苦虫を噛み潰した表情だ。
    「死にはしない」
    「腕いかれたら剣が持てなくなんだろうが! それに、もうちょっと遅けりゃやばかったぜ。不死身とか言ったって、お前は人間なんだ」
     さらにヒュンケルの全身を点検しながら、回復呪文を施していく。
    「約束の時間に来ねえと思ったら……」
    「すまん……、お前に治してもらった体だというのに」
    「んなことじゃねえんだよ。おめえに免じて見て見ぬフリしてきたが……もう、我慢できねえ」
     ポップは立ち上がり、きっと空を見据えた。
    「姫さんに、報告する」
    「待て」
     ヒュンケルはポップの腕を掴む。
    「悲しみをぶつけなければ、何かを憎まなければ生きていけない時がある。彼らは今、こうするしか術がないのだ。オレもかつてそうだったから……分かる」
    「だから?」
     ポップの表情は緩まない。
    「だからって、こんなの間違ってる。ただのリンチじゃねえか! ……とにかく戻るぜ。今後のことはおれに任せてもらうからな」
     ポップは回復を施してもいまだ起き上がれないヒュンケルを抱え、王城へと飛んだ。



    「──話はわかったわ。私の目が行き届かなくて、面目次第もないわ……」
     女王と大魔道士は人払いをした上で、城内のプライベートガーデンで対面していた。ここで話す時は、パプニカ女王と宮廷魔道士ではなく、アバンの使徒のレオナとポップだ。
    「それは違うぜ、姫さん」
     ポップの声は冷静だが、その瞳は静かな怒りを宿していた。
    「ヒュンケルが無理に隠してたんだし、おれも協力した。気持ちは分からないでもなかったからな……。だけど、今回はあまりに行き過ぎだ。こんなことがもう何回もあったんだ。ヒュンケルが丸腰で抵抗しないって、あいつら分かってやってるんだ……!」
    「そうね……情けないけれど。この国の傷がまだ癒えていないのも事実よ。人の心はどうにもならないけれど……世の中には時間が解決するものもある。それは身を持って知っているわ。彼らを罰するのは簡単だけど、それじゃ根本的解決にならないのは明白だし……。私はどうすれば良い? ポップくん、あなたの意見を聞かせて」
     ポップは石壁に蔓延る蔦に視線を這わせながら、ゆっくりと口を開いた。
    「……ヒュンケルを連れて旅に出ようと思う。帰りがいつになるかは、分からねえけど。この国の人たちが、全員とは言わねえ。おれたち以外に、ほんの少しだけでもいいんだ。今のあいつを受け入れられるようになるまで。そして、あいつが自分自身を本当に受け入れるまで」
    「──ヒュンケルは承知なの?」
    「説得する。急ぐんだ、姫さん。このままじゃ命に関わる……そんなことになったら、おれも穏便に済ませられる自信がねぇ。……後の処理、任せていいか?」
    「──わかったわ。魔法研究のフィールドワーク
    ということで、長期出張の申請があったことにしておくわ。ヒュンケルもその護衛兼助手として同行の許可を出します。だけど定期的に連絡はちょうだいね。居場所ははっきりさせて。ダイくんにも顔を見せていって」
    「分かった……恩に切る、レオナ」
    「ポップ君。ヒュンケルのこと、頼むわね」
    「ああ、任せとけよ」
    「それから、あなた自身のことも」
    「どういうことだ?」
     ポップは片眉を上げながらレオナの目を見つめて言った。レオナも負けじと見つめ返す。探り合うような視線が交錯し、暫しの沈黙が落ちる。
    「ポップくん……私が知らないと思ってるの?」
    「……ははっ。さすがに聡明なるパプニカ女王陛下の目はごまかせないかあ」
     ポップは目元を弛緩させ、おどけるような声音を出した。
    「茶化さないで。ことと次第によっては許可を取り消すわよ」
    「大丈夫だよ。最近は発作もほとんどないし。極力魔法もセーブしてるし。こないだアバン先生に見てもらった時も、しばらくは様子見でいいって言ってた」
    「一応、信用しておくけれど。何かあったらすぐに呼び戻すわよ。いいわね」
    「アイアイサー」
     通常なら不敬とも取られるような敬礼をして、大魔道士は人懐っこい笑みを浮かべた。そんな表情をすれば、ふと彼だけが十五歳のあの日に戻ってしまったかのように、レオナは感じる。
     あの大戦の終結から二年が経つ。勇者が帰還し、レオナはパプニカ女王に即位した。皆、それぞれが歩み始めた新たな道を踏み固めるので精一杯の日々だ。それなのに。この勇気の使徒たる二番目の兄弟子ときたら、何一つ変わっていない。レオナにはそれが嬉しくも、そら恐ろしくもあった。
     ポップを見送って、レオナは居室に戻ると手を組んで目を閉じた。
    「パプニカの大地よ、大気にあまねき精霊よ、天におわす神々よ。私の大切な兄達を、どうかお守り下さい」
     祈りを捧げ終わると、文机の引き出しを開ける。そこから拳ほどの大きさの石を取り出して、掌で包んだ。



    「姫さんに話は通した。お前の体調が戻り次第、発つ」
     ポップは有無を言わさぬ言い方をした。
     ヒュンケルが受けた傷は、ポップのベホマによってほとんど治癒している。ただ、腰の傷からの出血がひどかったため数日間の安静を言い渡されており、いまだベッドの上だ。いくら回復呪文でも、失った血液を即座に補給することはできない。安静が解かれれば、ヒュンケルの回復力なら以前と遜色なく動けるようになるだろう。そうなればすぐ、二人でパプニカを離れるというのだ。
     ポップの言い草に、ヒュンケルは当然反論した。
    「ポップ、しかしオレは」
    「うるせえ。嫌とは言わせねえ。おれが治さなきゃマトモに動けなかったくせに」
     ポップは痛いところを突いてくる。確かに、大戦中の無理がたたって満足に剣を振るうこともできなかった体をここまで回復させることができたのは、ポップの魔法に寄るところが大きい。そしてその後も、度々リンチを受けては大怪我をして帰ってくるヒュンケルを、こっそりと治癒してくれていたのも他ならぬポップであった。
     レオナから騎士職を拝命し、ヒュンケルはパプニカ復興に尽力しつつ、夜は自主的に市中の警備の任に当たっていた。レオナはそれなら城の警備を、と申し出たが、ヒュンケルが頑として譲らなかったのだ。
     パプニカの騎士に叙任された時、ヒュンケルの経歴は勇者一行の一員でありアバンの使徒であるというのみで、魔王軍時代の過去については公になってはいなかった。しかし、秘密というのはどこかしらから漏れるものだ。しかもヒュンケルは隠すことはしたくないと、問われれば馬鹿正直に肯定していた。たとえヒュンケルがアバンの使徒として勇者と共に命懸けで戦ったことが事実であっても、誰もがレオナのような境地に至れるわけではない。
     大戦から二年、戦時の爪痕はまだ生々しい。そんな状態で市中の警備に当たるなど、燻っていた火種に油を注ぐことになる懸念は当然あった。
     だがヒュンケルは、「城の警備は騎士団が十分責を果たしている。それよりも市井の人々の暮らしを守る手伝いをしたい」と言ってきかなかった。確かに、復興途上のパプニカでは、軍の設備、人員共にお世辞にも余裕があるとは言いがたい。その中で最優先事項は、国家の中枢部を守ることである。
     必定、騎士団による警備は王城に集中し、市街まで手が回らない状態であった。一騎当千のヒュンケルが城下を警戒し、市民の安全を図ってくれれば、パプニカ騎士団としても大いに助かるところだったのだ。レオナは議会の意見にも押され、渋々とヒュンケルに市中警備の命を下した。
     ところがヒュンケルは、普段市中の見廻りに出る時、騎士の鎧はおろか、帯刀すらしていなかった。相手が並のモンスターや人間の悪党なら素手で十分であるし、実際、酒場で暴れる男や盗賊を相手にすることはしばしばだった。必要以上に怪我を負わせたり、殺してしまっては大変だ。そう思って、いつも着ている布の服に短剣のみ帯びた状態で出歩いていたヒュンケルに、ある時切りがかった少年がいた。不死騎団のパプニカ侵攻時に家をなくし、何かの折にヒュンケルを見知って、仇と定めた子供であった。
     無謀と言える行動だが、「ヒュンケルは女子供に手出しはしないという噂だ、本当なら擦り傷くらい負わせられるやもしれぬ。そうしたら溜飲が下がった分の駄賃をやるから、やってみろ」と、心無い大人にけしかけられた結果でもあった。
     ヒュンケルは防具を付けぬ腕で剣を受け止め、血を滴らせながら少年に言った。「自分には為すべきことがあり、まだ死ぬ訳にはいかない。だが、役目を終えた暁には、きっとお前の志を果たさせよう。それまでは、気の済むまでこの身に思いの丈をぶつけるがよかろう、抵抗はしない」と。
     そして行き着いた先が、一部過激派住民による私刑である。それはだんだんエスカレートし、ついにはポップが回復を施しても数日動けぬ程の怪我を負う事態となったのだ。ポップには到底見過ごすことはできなかった。
    「ずっとって訳じゃねえんだ。安全が確認できたら、ちゃんと戻る。死んだら何もできねえんだ。自分が傷ついて不幸になりゃ償えると思ってんなら、大間違いだぜ」
    「……」
     ポップの言う通り、死んで赦されるのならとうの昔にそうしている。しかし兵士でもないパプニカ住民を相手に、最低限身を守るだけでも怪我を負わせてしまう危険性は、否定できない。だが無抵抗に攻撃を受け続ければ、こうしてポップに迷惑をかけてしまう。
    「頼む……もう、やめてくれ。お前がこれ以上傷つくのは……おれが見たくないんだ」
     ポップの絞り出すような懇願に、ヒュンケルはとうとう目を閉じて頷いた。
    「……分かった。お前の言う通りにしよう」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭💘👏😭😭😭😭❤😭😭😭😭😭🙏😭😭🙏🙏🙏🙏🙏👏👏👏👏👏💞😭😭😭😭😭😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works