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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    お題メーカーでSS。
    謎時空のお話。

    SS お題「1月」「看病」「恩返し」 まだマリオンがルーキーでもアカデミー生でも無かった頃。彼はよく体調を崩していた。幼い身体では数々の検査に耐えられなかったのだろう。注射を嫌がってよくノヴァのラボに泣きながら駆け込んで来たことは、未だ記憶にこびり付いている。
     小さいマリオン。可愛い自分の家族。彼が生まれたその日から、ノヴァは絶対に彼の味方であり続けようと心に決めていた。そんな幼い姿のマリオンが徐々にぼやけていった。
     待って、行かないでと反射的に手を伸ばすと、手が温かな『何か』に包まれる感触がする。
     
    「う、うぅ~ん……?」
    「ノヴァ! 目が覚めたのか!?」

     目を開けると、そこには今現在の姿をしたマリオンが心配そうに顔を覗き込んでいて。
     視界がぼやけてあまりよく見えないが、どうやらここはラボのソファの上で寝ているようだった。起き上がろうと力を込めたというのに、身体が異常に重くて動かない。
     
    「あ、あれ……?」
    「過労で倒れたんだ、安静にしていた方が良い。どこか具合が悪かったり、身体が痛かったりはしてない?」
    「うん。それは大丈夫……」

     ノヴァの返答にほっとしたのか、マリオンの小さく息を吐く。が、それも瞬く間に変化し今度が綺麗な眉をきっと吊り上げた。
     
    「だから、無茶した駄目だっていつも言っているだろう?」
    「うっ……」

     それは耳に胼胝ができる程聞いた言葉に息が詰まる。言われ始めてもう何年経過してしまったのだろう。これはマリオンの数少ない『お願い』の中で、唯一叶えられていないものでもあった。

    「ごめんねぇ~。つい頑張り過ぎちゃったみたい」

     自分は大丈夫だと伝えるために笑みを浮かべたのだが、彼の表情は晴れない。手をぎゅっと握られるような感覚がして、そこで初めてマリオンが自分の手を両手で包み込んでおり――その手が震えていることを知った。

    「マリオン?」
    「ノヴァがいつものように倒れてるだけかと思ったら、顔が真っ青で。必死に呼びかけても、起きないし――本当に、肝が冷えたんだ。
     頼むから、新年早々ボクの寿命を縮めるような真似は止めてくれ……」
     
     マリオンの言葉で気がついたが、年が明けて初めてマリオンと顔を合わせたような気がする。大きな溜め息を吐きながらノヴァに懇願するマリオンの顔はひどく苦しげで。

    「(今年初めて見たマリオンの表情が、こんなに悲しい顔だなんて思わなかったなぁ……)」

     そう思うと、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚がする。自分の顔が切なさで歪むのが分かった。
     ――するとマリオンは、何を思ったのかノヴァの髪をさらりと撫で始めた。

    「え……?」

     想像もしていなかったマリオンの突拍子もない行動に間の抜けた声が漏れてしまう。そんなノヴァの様子を気にする気配すら見せず、マリオンはただ優しい手つきで髪を撫で続けた。

    「ボクがベッドにいると、ノヴァはいつもこうしてボクの髪を撫でていた」

     その言葉に、過去の記憶が蘇る。そういえばマリオンが熱を出したり、体調を崩してしまったりした時は、ベッドに横たわるマリオンの髪に触れていた。彼の髪の毛はさらさらとしていて触り心地が良いため、無意識に撫でていたこともあるし、少しでも身体を苛む熱が逃げていって欲しいと願いながら髪に触れていたこともある。

    「こうされると凄く心地良くて、ノヴァが側にいるんだって目を閉じていても感じられて――ボクはこの時間が好きだった。
     だから、ノヴァにもしてあげる」

     そうとだけ告げると、マリオンはゆっくりとノヴァの髪に触れ始める。少しくすぐったさを感じるくらい優しいその手つきは、マリオンの言った通り心地良いもので。安心感が胸の奥からこみ上げてくる感じがする。
     暫くそうしていると、マリオンの手がそっと離れる気配がした。
     
    「とにかく、ノヴァはそこから動かないで。今日倒れていたということは、やるべきことは終わったんだろう。何か食べられそう?」
    「う、うん。食欲はあるから」
    「じゃあ、簡単に何か作るから。絶対に、動くんじゃないぞ」

     どうやらマリオンは自分のために料理を作ってくれるらしい。ノヴァに念押しをする姿はいつも見ているのマリオンのもので。
     その時、はたと言い忘れていたことを思い出したノヴァは、調理場に向かおうと立ち上がったマリオンの腕を引っ張った。

    「マリオン!」
    「な、何だ?」

     急に腕を引っ張られて驚いたのだろう。珍しく目を丸くしてノヴァの方向を見るマリオンの表情も愛らしく思えてしまうのは、親心故なのだろうか。

    「看病してくれてありがとう。
     それと――明けましておめでとう。今年もよろしくねぇ」

     ノヴァの言葉を漸く理解したマリオンが「今それを言うのか」と破顔する。

    「あぁ。今年もよろしく。ノヴァ」

     そう告げたマリオンの瞳は『家族』にしか見せない優しい色をしていた。
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