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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    10 アッシュ・オルブライト「……」

     
     沈黙が流れる小会議室。マリオンは本日何度目になるか分からない溜め息を吐く。
     すると、目の前の人物――アッシュ・オルブライトは目に見えて不機嫌な表情を変えることなく言葉を吐き捨てた。

    「あぁ? 何か言いてぇことがあるなら言えよ」
    「言ったところで聞き入れないだろ」
    「1期下が舐めたことを言ったら当然だ」


     常識だと言わんばかりに鼻を鳴らすアッシュに、マリオンは大げさに息を吐く。
     
     
    「オマエは上だろうが下だろうか関係なく、粗暴に振る舞うだろ……というか、以前も同じ会話をしたはずだが」
    「は? テメェ一々会話を覚えてんのかよ」
    「不可抗力だ」


     そう答えたマリオンは顔を顰めると「そもそも」と相手を咎めるように冷たい声色で言い放った。

     
    「オマエが最初からけんか腰で来なければ、会話は成立している」
    「俺が悪いみたいな言い方するんじゃねぇよ」
    「明らかにオマエが悪いだろう。……オマエのセクターにいるグレイとかいうルーキーだって、オマエの一挙一動に怯えているのが丸わかりだ」
    「!!」


     終始けんか腰となっていた言葉の言い合いが、マリオンの言葉によって終止符を打たれる。急に黙り込んだアッシュを不思議に思ったのだろう。マリオンは逸らしていた視線を彼に向けた。

     
    「っテメェには関係ねぇだろ」


     そう答える彼の声は酷く弱々しい。
     軽く舌打ちをして機嫌を損ねた風を装っているものの、その瞳から放たれる光が弱まったのは誰から見ても明らかで。

     
    「……そんな顔をするくらいなら、今からでも態度を改めるべきだと思うが」 
    「はぁ? 誰がそんなことするかよ! というか、何でその名前が今出てくるんだ」
    「明らかにオマエの態度が違うからな」


     冷静に指摘をすると、普段の調子を取り戻したらしいアッシュが声を荒らげる。しかしその威圧はマリオンに届くことはなく、彼は言葉を続けた。

     
    「オマエのセクターにはもう1人ルーキーがいる。確かにあのルーキーにも当たりがキツいが、オマエのグレイに対する態度は別格だと言わざるを得ない」
    「……」
    「そこまでする理由は何だ」


     マリオンの静かな瞳がアッシュを貫く。彼の問いにアッシュは「ははっ!」と意地の悪い笑みを浮かべた。
     
     
    「そんなの簡単だ。――イライラするからだよ」


     彼の答えに、マリオンが眉をひそめる。
     
     
    「あいつは『ヒーロー』の癖して全然『ヒーロー』らしくねぇ」


     アッシュはマリオンの変化を気にする様子もなく、今ここにいない『彼』をあざ笑った。

     
    「変わりてぇって言ってんのに、死に物狂いで努力をしようとしねぇ。一々おどおどして正直うざってぇ。そんな奴に優しい言葉を掛けてやろうだなんて思うわけねぇだろ」
    「……」
    「あいつが二重人格だなんて面倒なことになっているのは俺のせいだとか抜かす奴がいるが、それに対して懺悔も謝罪もするつもりはねぇ。全てはあいつが変わろうとしねぇのが悪いんだからな。適切な指導ってヤツだ」


     吐き捨てるようなアッシュの言葉を黙って聞いていたマリオンが、口を開く。

     
    「……意外と繊細な感情を抱いているようだな」
    「あぁ?」


     マリオンの言葉は予期していないものだったのだろう。愉悦を表していた彼の表情が、一瞬にして不機嫌なそれへと変化する。マリオンはというと、アッシュの瞳をまっすぐに見つめながら、言葉を紡いだ。

     
    「話を聞いている限り、オマエはアイツに変化を求めているように見える。――それも『ヒーロー』らしく成長する、という意味での変化だ」
    「……は?」


     告げられた言葉の意味を理解出来ていないのだろう。アッシュは呆けたように言葉を呟くと、そのまま固まってしまった。
     
     
    「何か間違ったことを言っているか」
    「……全っ部間違いに決まってんだろ!! テメェの頭は花畑か!?」


     ようやく彼が指摘していることを理解したらしいアッシュが、机を力任せに叩きつつ彼の言葉を勢いよく否定する。アッシュの暴言に気分を害したらしいマリオンは、眉をぴくりと動かした。
     
     
    「は? 根拠のない言いがかりをつけるな」
    「俺が違ぇって言ってんだ! それが根拠になんだろ!!」
    「ボクはオマエの話を纏めただけだ。それが違うというのなら、オマエの話し方がワルイ」
    「はぁ!? テメッふざけてんじゃねぇぞ!!」
     

     激高するアッシュに対して、マリオンは冷静なままつんと鼻先を逸らす。そんな余裕綽々な態度も彼の逆鱗に触れたのだろう。アッシュはその感情のまま拳を振るった。だが『ヒーロー』であるマリオンに感情をぶつけただけの拳が通るわけもなく。いとも簡単に躱される。

    「俺は、あいつの成長なんか微塵も思っちゃいねぇ。ただ、あいつの辛気臭ぇツラを見るとイライラするだけだ」


     元より威嚇のつもりで拳を振るったのだろう。躱されたことに対して言及する様子もなく、アッシュはマリオンを睨み付けながら念を押すようにそう告げた。

     
    「……オマエの思考回路は、全くもって理解が出来ないな」


     マリオンが呆れたように息を吐いた後、低い声で悪態をつく。
     そんなマリオンにアッシュは「当然だ」と言わんばかりに口端を吊り上げた。

     
    「そう簡単に理解されて堪るかよ」
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