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    ねむおか

    LⅢの次五お話。月一でゆるい次五のお話置き中です。
    そのほか短めのお話。
    R18としてあるものは18歳未満の方は開いてはいけません。

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    ねむおか

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    十月のお話。お布団買いに行く、の次五です。
    今更ですが、この連作は少し不思議要素ありなもので、
    ふまえていただけますと幸いです。

    #次五
    sub-five

    十月、寝物語 それは次元が朝、目を覚ました瞬間に分かりました。毛布を使うべき日が来たのだと。そんな十月のある日のことでした。

     相変わらず朝の早い五右ェ門は既に床から出ていて、次元はひとり布団の中で思案していました。かろうじて、布団から出られないという程の寒さではありません。けれど、今朝の寒さではすぐにそんな日が来ることは目に見えていました。このアジトへ来たのは夏のことです。間に合わせの身の回りの物しか用意していなかった為、ここには夏掛けの布団しかありません。いくら五右ェ門と床を共にしていようと、朝の一等寒い時間に居ないのであれば、やはり暖かい寝具は必要だという結論に至りました。
     「五右ェ門、飯これからだろ。食ったら出掛けるぞ」
     そうと決まれば、冬用寝具を買いに行くまでです。どこへ出掛けたのかルパンの姿は既にありませんが、ルパンの分も共に買ってくれば文句はあるまい、と次元は朝食の支度を始めました。

     そうしていざ車を出してはみたものの、どのような店に求めているような代物があるのか全く分からない二人は、あてどなく街中を彷徨いました。この街には古くからの寺も、ルパンですら行ったことのない国の大使館も、豪奢なビルも広い公園もあるというのに、暖かな布団を買うことすらままなりません。
     「次元、あの店はどうだ。いんてりあ、家具と書いてある」
     ようやく目の良い五右ェ門が、通りを挟んで奥まった場所にひっそりと建つ一軒の店を見付けました。こぢんまりとしたその店は落ち着いていて、悪くない雰囲気です。白い漆喰の壁に、青い縁どりのされた扉を開けるとそこには様々な国の気に入りだけを集めたような、小さな世界が広がっていました。足を踏み入れた瞬間、二人は異国へ迷い込んだような不思議な感覚を覚えましたが、それは店の中に微かに漂う沈香の所為だと思われました。店主と見られる人物はいますが、話し掛けてくるでもなく、かといって不愛想な様子でもなく、その距離感に安心して二人はゆったりと店内を巡ります。強い主張はないのにセンスの良い品々には、特別家具に興味のない二人も引き込まれました。
     「この辺りに目当てのものがありそうだ」
     店の奥に行き着いた五右ェ門は、次元を呼び寄せました。そこにはたくさんの布物が積み重ねられています。毛布はどれもがふかふかとしていて触れれば心地良く、包まれれば暖かい事は容易に想像出来ました。柄も色も様々でしたので、二人はこの中から気に入ったものを選ぶことにしました。
     「オレは暖かけりゃ何でも良いんだ。ルパンのも買っていかねぇと、あいつ拗ねるだろうからな。お前が適当に選んでくれよ」
     次元は、深い紺地で柔らかな感触の毛布を選びました。五右ェ門はルパン用として、微かに光沢のある毛足の長い、濃い臙脂の毛布を、自分の物として薄掛けの布団を手に取りました。白一面の布団の隅には、朱色の糸で中国風の凝った刺繍が入っています。
     「···それじゃあ寒いんじゃねぇか」
     「布団の上に重ねるならば、これで充分であろう」
     「大体お前がそんな物を選ぶだなんて珍しいな」
     刺繍といっても愛らしい類の物ではなく、精緻な紋様のようでしたが、常ならば出来る限り簡素な物を選ぶ五右ェ門を知る次元は、少し意外に思いました。
     「手触りが気に入ったのだ」
     手に取った物にケチを付けられれば、誰だって良い気分でないことは次元も理解しています。悪趣味だという程のこともなし、暖かさの問題についてはどうせ同衾することが多いのだから、自分が毛布を持って行けば済む問題だと片付け、買い物を済ませると、二人は店を後にしました。

     その晩のことです。
     買ってきた毛布を抱いて喜ぶルパンの姿に満足した五右ェ門は、早速手に入れた布団を、今使っている布団の上へ重ねて眠りに就きました。さらさらとした手触りは、思った以上に心地良く、大層良い気分です。次元は酒を飲み重ねている様子なので、朝方眠ることでしょう。
     夢を見ました。
     目の前には、炊き上がったばかりの白飯と味噌汁が並んでいます。薄く切られた沢庵が藍色の小皿に盛られ、その隣には短冊の形に揃えられた海苔が添えられていました。それから目の前に差し出されたのは、湯気を立てる鰤大根でした。薄っすらと透けて出汁の色につやめく大根と、ほろりと炊きあがった鰤からは甘く良い匂いが立ち上ります。並べられたもの、全てが好物でした。そして、この食卓は記憶にある、と五右ェ門は思いました。ただし、記憶にある光景では、目線は卓上の茶碗ともっと近かったような気がします。それに、茶碗の模様も記憶にあるものとは異なります。それでも味噌汁の椀を手に取り口を付けると、優しい味が広がり、懐かしさで胸が詰まるような心地になりました。湯気の向こうにいる人物に気が付き、声を掛けようと顔を上げた瞬間、五右ェ門は目を覚ましました。

     また次の晩のことです。
     前夜の深酒で昼過ぎに起き出した次元が眠れねぇ、などと言うのを尻目に、五右ェ門は一人で床に就きました。
     再び夢を見ました。
     空は赤く、日が暮れかかっていました。目の前には勝手口のような、木で出来た小さな戸があります。開けて数段の階段を降りてみると、そこには見覚えのある小さな庭が広がっていました。知っている光景であるというのに、目の前の梅の成る木は知っている物よりずいぶん低いように感じて不思議に思い、葉だけの枝に手を伸ばしてみると背後から声が聞こえました。
     「どうしたのこの子は。この間一緒に捥いで、瓶に漬けたでしょう。もうじきに美味しい梅の蜜が出来ますよ」
     優しく響く声の懐かしさに振り返った五右ェ門は、その人物が着ている着物の柄を見て、最近目にした何かと似ていることに気が付きました。階段の上にいる声の主はもう会うことの叶わない人物です。そこで自分が夢の中にいることに気が付きました。顔を上げれば目が覚めるだろうことを何故だか予感しながら、それでも声の主を仰ぎ見ようとしたところで強い西日に目が眩み、五右ェ門は目を覚ましました。

     またまた次の晩のことです。
     暗闇の中、目を覚ました五右ェ門は、今しがた見ていた物が夢だと気が付くと、早まる鼓動の音毎に、顔が火照ってゆくのを感じました。薄っすらと汗までかいています。恋人であってもこのような夢を勝手に見るのは後ろめたいような、己を律したいような堪らない気持ちになり、再び寝ようとしても、どうにも寝付けなくなり、暗い天井を見ているといよいよ落ち着かない気持ちになり、頭から布団を被るといつもの四文字の言葉を呟いて、その中で強く目を瞑るのでした。

     そして四日目の晩のことでした。
     「今夜はお前のところで寝るからな」
     「好きにしろ」
     やってきた次元は当たり前のように布団の主より先に潜り込むと、五右ェ門の手首を取って中へと引きずり込みました。
     「どうだ、新しい布団の寝心地は」
     「暖かい」
     抱き着かれたまま早速うとうとしはじめた五右ェ門に、寝ちまうのかと尋ねると、ひとつ頷いてむにゃむにゃと続けました。
     「このところおかしな夢続きで、全く寝た気がせんのだ」
     それを聞いた次元は「だったらさっさと寝ちまえ」とあやす様に髪をかき混ぜました。まるで魔法にかけられたような心地で、五右ェ門はすぐさま眠りに落ちました。

     気が付けばルパンや不二子、そして次元と共に四人で炬燵を囲んでいました。炬燵の上には鍋を真ん中に、蜜柑や日本酒、そのほか各自の好物がひしめき合うように並んでいます。しゅんしゅんと湯気を立てる鍋を見ていると、暖かい部屋も相まって、五右ェ門は頭がぼんやりとしてくるようでした。目の前では不二子が、日本酒の気分じゃないわと文句を言い、ルパンはとっておきのワインを持ってくるからちょっと待っとけよ、と跳ねるように台所へ向かいました。次元はというと、もう随分酒が進んでいる様子で楽し気に、これも食えよあれも食えよと五右ェ門の皿へ肉やら牡蠣やらを落としていきます。
    「美味そうだ」
    「だろ。良い肉買ってきたからな。たくさん食えよ」
     ニヤリと笑う次元の言葉に頷こうとするも、腹がくちく、瞼は重く、どうにもなりません。そして瞼を落とす手前で目に飛び込んできた炬燵の柄を見て、五右ェ門は我に返りました。
    「お主なのか」
     問いかけると、炬燵の模様から浮き出るように朱色の小さな生き物が姿を現しました。同時に先程までの光景は消え失せて、五右ェ門は暗い自室の布団の上にいました。次元は横で気持ち良さそうに眠ったままです。
    「何者だ」
     生き物は布団の足元の、刺繍のある辺りで、ぼうっと赤い炎のようなものを纏いながら佇んでいました。ヤマネに似た姿形でしたが、それにしては随分大きい上に輪郭は燃えるように揺らめいて、暗闇の中で光っています。黒く艶々とした目は愛らしいのに、どことなく威厳のようなものも感じられます。害のある気配はありませんが、よく分からない生き物が布団の上にいて、このまま眠れる訳もありません。布団の上で居住まいを正した五右ェ門はもう一度問いました。
    「あの夢はお主の仕業か?」
     ヤマネに似た生き物は小さく頷いて、続けて言いました。
    「あの店から」
    「うむ」
    「出られないまま、長い時間が過ぎていった。お前が久しぶりに外へ出してくれた。礼だ」
     愛らしい姿からとはかけ離れた、低く落ち着いた声音が仄暗い空間に響きました。
    「そのようなつもりはなかったのだが···お主は出たかったのか」
    「ヤマネとして長く生き、気付けば人の夢を自由に出来るようになっていた。火鼠や、旧鼠など様々な名で呼ばれるようになった頃、罠に掛けられ捕えられ、使役にされかけた。人に使われる気はない私が思うようにならないことが分かった途端、この布団へ織り込まれた。そしてあの店の中から出られぬまま、再び長い時間を過ごしていた。あの店の店主は何代も代替わりをしているから、その間に私を綴じこめていることも忘れ去られたのだろう。私は、出ることが叶う日を待ち続けていた」
     自分の目をじっと見据えて言う、かつてはヤマネだった生き物の言葉に嘘は見当たりません。五右ェ門はこの生き物の言うことを信じることにしました。
    「では、拙者にあのような夢を見せたのは何故だ」
    「礼の代わりに、お前の望む夢を見せた。それが私に出来る唯一のことだからだ」
    「拙者はあのような夢を望んでは···!」
     おらぬ、と言いたいところでしたが、あの生々しい夢の数々を思い返すと、胸の中にまるっきり無いとも言えぬのではないかという疑念が過ぎり、続けられなくなりました。
     しかし、気になることもあります。より強く望むことは、もっと他に色々あるように思うのです。例えば、剣の道を極めるだとか悟りを開くだとか。
    「ほかにもまだ見せたい夢はあった。ただ、お前ひとりの尽力で成すことは夢に出来ない。夢に出来ることはもう叶わぬこと、もしくは他者が関わることに限られる」
     心を読んだかのような言葉に、五右ェ門はぐうの音も出ませんでした。望むことを夢にする力を持つ生き物ならば、人の心を読むこと位、容易かろうと思われました。
    「左様か。だが、もう礼は良い。お主の気持ちは頂戴した。好きなところへ行け。自由になりたかったのであろう」
    「お前を気に入ったから、ここに居て好きなだけ良い夢を見させてやることも出来るが、良いのか? 」
    「この四夜で充分だ。夢見が悪い日があったとしても、起きれば現実がある。拙者にはこの現実がある故、もう良いのだ」
     それを聞いたヤマネは、ふむ。と頷いて五右ェ門の目の中を覗き込むようにじっと見ながら、しばらく何かを考えていました。その影は、自身の放つ光を受けて大きく壁の中で揺らめいています。
    「成程。では私は行くが、お前のことは覚えておく。必要があれば呼んでくれ」
     炎のように揺らめいていた輪郭は、次第に周囲に溶け込んでやがて消えました。辺りには、微かに沈香の香りが漂っています。完全な暗闇に戻った布団の上で、二、三度瞬きをした五右ェ門は布団の上に被さるようにして刺繍のあった足元の辺りを撫でてみましたが、もうそこには何もありません。
    「···終わったか? 」
     五右ェ門が布団の中へ戻ろうとしたところへ 、声がかかりました。
    「起きていたのか」
     五右ェ門が驚いていると、次元はあっという間に五右ェ門の冷えた体を抱え込んで布団の中へ押し込めました。
    「お前の声が聞こえると思ったら、妙な生き物と何か話してるじゃねぇか。あちらさんが何を言っているかは聞こえなかったが、出来ればお目にかかりたくねぇ類の物だ。お前が巻き込まれるようならどうにかしなきゃならねぇと思ったが、お引き取り頂いたんだろ?」
    「次元。今の者は、悪いものではないぞ。拙者に良い夢を授けていたのだ」
     それから五右ェ門はかいつまんで、かつてヤマネだった生き物の話をしてやりました。色々と気になる部分はありましたが、次元は一通り黙って聞いていました。不思議なことに出会いやすい恋人には慣れても、不思議なことには一向に慣れません。全てを五右ェ門が見た夢として片付けても良いようにも思いましたが、共に見た紋様が消えているというならば、夢を操る生き物の存在を信じるほかありませんでした。煌々と光る生き物が、そこに居たのは確かです。
    「···で、その良い夢とやらにはオレも出てきたのか?」
    「うむ」
    「夢の中で何してたんだ、オレは」
     時刻は三時を回っていました。片肘を立てた次元は、目を閉じかけながらも話す五右ェ門をじっと見つめました。
    「お主は···鍋から肉を次々に拙者の皿へよそっていた」
    「はは、そりゃ良い夢だな」
     次元は笑いながら、五右ェ門の頭を撫でました。撫でられながらよく考えてみると、ずいぶんと食い意地の張った夢だと気付き、五右ェ門は更に続けました。
    「昨晩の夢は違うぞ。お主が」
    「ん? 」
    「··· いや、夢の話などするものではない」
     五右ェ門が、すんでのところで口には出来ないことに気付き、慌てて閉ざしたところで、間近にある目が揺れたのを見逃す次元ではありません。腕の中の体が俄かに熱くなっていくならば、尚更のこと。
    「言えよ」
     耳元で囁かれ、布団の中でぎゅうぎゅうと抱き込まれている内に、五右ェ門は笑ってしまいました。ひどい悪夢を見て、嫌な汗と共に起きる明け方はいくらでもあります。それでもこの現実がある今、先程あの生き物へ伝えた言葉に嘘はありませんでした。
    「明日の朝までお主が覚えていたならば」
     抱き着いてくる次元を宥めるように抱き返し、頬に手を当てると、五右ェ門はそのまますうっと寝付いてしまいました。その背をトントンと優しく叩きながら次元は思います。夢など見ずによく寝てくれよ、と。
     二人分の熱を含んだ布団の中は、ほかほかと熱過ぎる程に温もっていました。二人の寝床に二枚重ねの布団はまだ早かったなと、重ねた布団を次元が剥ぐと、十月の夜は静かに更けてゆくのでした。
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    ねむおか

    DONE二月の次五です。大変遅くなった上に何を書いてもネタバレになってしまいそうなのでキャプションらしいキャプション書けず、すみません。ハッピー次五です!

    ※出来れば読まれた後にこちらご覧ください※
    お気付きになられたかと思いますが、オマージュしております。力不足ですがオマージュ元の作品は全て大好きです。気を悪くされた方いらしたらすみません。
    雪見抄(二月のカノン) 冷たい冷たい二月の夜空には、零れ落ちんばかりの星がチカチカと瞬いていました。
     その中を真っ白い息を吐きながら、次元は急いで帰ります。二月に入ってからというもの、この辺りは雪続きで、昨晩も遅くまで降り続いていました。慎重に進まないと道端に残るたくさんの雪に足を取られるので、急ぎ足ながらも慎重に歩を進めます。どれだけ頑丈な靴を履いていても足裏にはひんやりと冷気が伝わり、寒さが苦手な次元は一歩進むごとに震えるような心地でした。けれど、もうあと僅かで家に着くのです。それを思えば深い濃紺に星を散りばめた夜空を映したように、気分は落ち着き、澄んでいきます。家に帰れば暖かな五右ェ門が待っているのです。
    「帰る家が暖かいってのは良いモンだな」
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    ねむおか

    DONE1月の次五です。
    箸休め回です。ご飯作ったりお参りしたり、いつもと同様、ただ緩くてラブい次五です。12月のお話とつながっている部分もあるのでこれだけ読むと少し「?」かもです。すみません。ぱろくで出てきた単語から浮かんだものが出てきますが、こちらの連作は特段ぱろくを想定して書いているものではないので、お読みいただく際はご自身のお好きな次五ちゃんで想像いただけますと幸いです。
    一月は凪 年が明けてまだ間もない時刻、アジトにはいつもの四人が顔を揃えていました。
     五右ェ門の打った蕎麦で年越しをすると聞きつけ、珍しく年越しの時間を共に過ごした不二子でしたが、美味い蕎麦で満たされ次元の揚げた天ぷらに舌鼓を打ちルパンとっておきの酒で程よく良い気分になり、後は寝るだけです。
    「泊まっていけばいいじゃねぇの」
     呂律の怪しいルパンが留めるのも聞かずに、不二子はあっという間に帰り支度を整えてしまいました。
    「またね」
    「またねって···つれねぇんだからなぁ。もう。だったらタクシー拾うところまで送らせてくれよな」
    「ならば、拙者も行く」
     五右ェ門からの珍しい申し出に、不二子はブーツに足を通しながら尋ねました。
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