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    ねむおか

    LⅢの次五お話。月一でゆるい次五のお話置き中です。
    そのほか短めのお話。
    R18としてあるものは18歳未満の方は開いてはいけません。

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    ねむおか

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    1月の次五です。
    箸休め回です。ご飯作ったりお参りしたり、いつもと同様、ただ緩くてラブい次五です。12月のお話とつながっている部分もあるのでこれだけ読むと少し「?」かもです。すみません。ぱろくで出てきた単語から浮かんだものが出てきますが、こちらの連作は特段ぱろくを想定して書いているものではないので、お読みいただく際はご自身のお好きな次五ちゃんで想像いただけますと幸いです。

    #次五
    sub-five

    一月は凪 年が明けてまだ間もない時刻、アジトにはいつもの四人が顔を揃えていました。
     五右ェ門の打った蕎麦で年越しをすると聞きつけ、珍しく年越しの時間を共に過ごした不二子でしたが、美味い蕎麦で満たされ次元の揚げた天ぷらに舌鼓を打ちルパンとっておきの酒で程よく良い気分になり、後は寝るだけです。
    「泊まっていけばいいじゃねぇの」
     呂律の怪しいルパンが留めるのも聞かずに、不二子はあっという間に帰り支度を整えてしまいました。
    「またね」
    「またねって···つれねぇんだからなぁ。もう。だったらタクシー拾うところまで送らせてくれよな」
    「ならば、拙者も行く」
     五右ェ門からの珍しい申し出に、不二子はブーツに足を通しながら尋ねました。
    「あら、どういう風の吹き回し?」
    「見送りがてら、初詣に行けば丁度良いのでな」
    「···だったら、オレも行くか」
    「じゃあ私も初詣、一緒に行こうかしら。一度行ってみたかったのよね」
     そうして寒風の中、ルパン達は揃って白い息を吐きながら近くの神社へ向かうこととなりました。
     ところが、いつも静かな神社は向かう途中の坂から見上げた時点で既に様子が違いました。煌々と明かりが点く神社には外まで長い行列が出来ています。
    「どうなってんだ」
     先日のクリスマスイブの折は、静まり返って恐ろしい程だったことを知る次元は殊更驚きました。都心とはいえ、普段は静かな住宅街です。秋のはじめに五右ェ門と共に訪れた際も、自分たちのほかには二組ほどしかいなかったはずです。そうしている間にも、どこからか続々と参拝客はやってきて、更に列が伸びていくのが遠目にも分かりました。
    「残念だけど、並んでまでお参りする気はないわ。寒いし、今日は帰るわね」
     行列を目にした不二子は躊躇うことなく踵を返し、大通りのほうへ向かいます。元よりタクシーまで送ると言っていたルパンは不二子と共に行ってしまいました。残された二人はしばらくそのまま列を眺め、やがて次元は煙草を吸い始めました。フィルター半分ほどまで吸うと、もう片方の手をムートンのジャケットのポケットに突っ込んだまま五右ェ門のほうへ顔を向けます。
    「どうする?」
     出掛けに次元が無理矢理巻いてやったマフラーに首元を埋めた五右ェ門は「あらためよう」と事も無げに言って、坂道を下り始めました。
    「良いのか?」
    「年が明けてすぐは、やはり混むものだな。早ければ良いというものでもなし、日を改めたほうが参られる側も都合が好いだろう」
     時折不思議なこだわりを見せる五右ェ門ですが、こと初詣に限ってはそのようなこともなさそうで次元は密かに安堵しました。ムートンのジャケットがどれだけ暖かくても、痛いほどに冷たい夜気で頬は冷え切って、指がかじかむ所為で、煙草を持つ手も震える有様です。帽子やら髭のおかげで人よりは覆われている部分の多い自分でさえそうなのだから、冴える程に白い頬を晒している五右ェ門は更に冷えているのではないかと、見ているだけで心配になります。とはいえ、五右ェ門が並ぶというならば共に並ぶ覚悟は決めていました。
    「日を改めりゃ、落ち着くか?」
    「お主も共に来るのか」
     少し驚いたような顔には『以前は嫌々付いてきた風であったのに』という言葉が含まれているようで、訊ねられた次元は口の端を上げて笑い返しました。
    「世話になったからな」
     伝える気のないごく小さなその声は、ゆったりと吐き出された煙草の煙と共に、五右ェ門の耳に届くことなく冷たい夜空にさらわれていきました。聞き取れなかった言葉を問おうと小さく首を傾げる五右ェ門の手を取ると、自分の手と共にジャケットのポケットの奥深くへ押し込みます。ポケットの中で温もっている次元の手の平が、五右ェ門の凍えた手を溶かすように暖めていきます。

     三が日を過ぎ、七日ともなると正月用にたっぷり蓄えてあった食料も底を尽き、次元と五右ェ門の二人は年明け始めての買い物へ出ました。カートを押す次元と共に五右ェ門が青果のコーナーへ向かうと、そこにはずらりと七草粥のセットが並んでいます。
    「そうか、今日は七草の日だな」
    「七草ってあれだろ、大して美味くもない粥のことだろ」
    「美味いとかそういうことではない。これは一年の健康を願い···」
     五右ェ門が滔々と成り立ちやら効用を説明するのを聞きながら、次元は七草が詰めてあるパックを手に取りました。見るからに味のなさそうな色合いです。五右ェ門のこの思い入れからして、食いたいのだろうと判断しカートに入れたは良いものの、粥を夕食にするなど考えたくもない次元はどうしたら美味く調理出来るかと頭を捻りました。
    「···これでいなり寿司でも作ってみるか」
    「それは良い案だ」
     次元の言葉に、五右ェ門の目が輝きます。
    「で、それを持って初詣に行くついでにお供えするか。それから斬鉄剣がなくなったって時に疑ったことを、あいつら未だに根に持ってるからな。いつまでも言われちゃ敵わねぇ。夕飯にルパンと不二子にも食わしてやって、詫びってことにするか」
     カートを押し進めながら難しい顔をする次元とは逆に、五右ェ門は声を弾ませ言いました。
    「いなり寿司には吸い物も必要だな」
    「···そういうモンか。吸い物ってのは何を入れるんだ?」
    「菜の花と、蛤はどうだろうか」
     気が付けば目の前は魚介のコーナーで、菜の花は既にカートに積まれていました。いつの間にここへ連れて来られたんだと呆れると同時に、五右ェ門の、好きな食べ物への強い意志に、次元の頬は自然と緩みます。どれだけ人間離れした強さを身に着けようとも、目を離すのが不安になるほどに異界のものと交流が出来ても、このような姿には堪らなく人間味が溢れていて、地に足がついていることをあらためて確信出来て、恋人としては安心するのでした。
    「お前さんは、食い物のことなると絶対曲げねぇな。大したもんだ」
    「お主の作る物が美味いから譲らぬだけだ。仕方ないであろう」
     揶揄われたと思ったのか少しむくれて言い返す五右ェ門に「そうだな、そりゃ仕方ねぇ」と笑って返し、滑らかなカーブを描く後ろ髪をくしゃくしゃと撫でてやります。本当はそれだけではとても足りないのですが、場所を考えれば今はこの程度が関の山です。

     買い物を終えアジトに戻るなり、二人は早速手分けをして作り始めました。外出中のルパンと不二子に連絡をすると、都合をつけて夕飯までには帰るということで、その前に初詣も済ませたい二人は急いで事を進めます。
     たすき掛けをした五右ェ門が米を炊き、七草を刻む間、後ろ髪を簡単に結った次元は油揚げの煮汁を作ります。七草の苦みが気にならないように甘めに、かといってべったりとした甘さにはならないように加減をして、納得のいく味になったことを確認すると、ひと匙取り両手が塞がっている五右ェ門の口へ運びました。出汁の甘い良い匂いに目を細め、味付けに頷く五右ェ門を確認すると、準備していた油揚げを鍋に放り入れてすぐに隣のコンロで吸い物の調理に取り掛かりました。次元が菜の花に火を通す間に、五右ェ門は冷たい水でよく蛤を洗います。二人は阿吽の呼吸で、互いのすることが手に取るように分かって、キッチンには心地よい調理の音だけが響いていました。
     そうしている内にご飯が炊けて、五右ェ門は酢と、切り刻んで軽く火を通した七草を飯台の中で混ぜ合わせました。更に胡麻も入れてしゃもじに付いた分を取って少し口に含み、鍋の前にいる次元にも差し出しました。
    「味が、足らぬ気がせんか」
    「酢飯は案外難しいからな」
     次元は少し考えると、少しの酢に砂糖と塩を加えたものを小皿に作り、飯台の中へ注ぎました。再び五右ェ門は大きくかき混ぜて団扇で扇ぎ、艶の出た米粒を一かけ取って味を見ます。
    「うむ、見違えるように美味くなったぞ。お主はさすがだな」
     誇らしげに、食ってみるか?としゃもじを差し出す五右ェ門の手首に手を重ねて飯台へゆっくりと降ろさせるとその手を真っすぐに五右ェ門の口元へ遣りました。口端に付いていた米粒を摘まんで取って、目をじっと見つめたまま次元はそれを口に含みます。
    「確かに良い具合だ」
     ニヤリと笑う顔を前にして、五右ェ門は自分の顔が少しずつ紅潮していくことを自覚せずにはいられません。子供のように米を口元に付けていたことも、言葉よりも多くを語る視線にも居たたまれず、それでも反らすのは癪だと目を離せないまま対峙していましたが、次元の足が一歩踏み出て距離が詰められた、と思った直後にはもう間近に顔があって唇を押し当てられていました。そう長い時間も経ずに唇は離れましたが、自分を見つめたままの視線に絡め捕られたように、身動きできません。次に重ねられた唇も、軽いものでしたが今度は何度も角度を変えて、小さく音を立てながら口付けられ、五右ェ門のほうが焦らされていきます。手にしたままだったしゃもじを手放し、次元の背へ腕を回そうとしたところでようやく調理中だったことを思い出し、慌てて顔を上げ「火はどうした」と訊ねました。
    「抜かりねぇよ」
     圧し掛かるようにしてくる次元の肩越しに五右ェ門が目を遣ると、確かにいつの間にか火は消されてくつくつという音も止んでいます。
    「冷めるときに味が染みるんだ」
     だから心配するなよ、と五右ェ門の頭へ手を回し、ぐいと近付けると今度は食むようにしっかりと口付けました。揚げの甘い匂いの漂う空間で、湿度と温度の高い唇は深い口付けに抗うことなく開いて、ゆっくり動く舌の感触に気が遠のきそうになります。髪に差し込まれた骨ばった手の感触に目を閉じると同時に、五右ェ門の手も無意識に次元の頭へ回り、しがみつくように動かすと、後ろ髪を緩く留めていただけだったヘアゴムが解けて、床へ落ちました。
    「···す」
     済まない、と伝えるつもりの唇もまた塞がれて、息をするのも覚束ないほどです。
    「じ、次元。少し、待ってくれ」
     少しの隙間に漏れた五右ェ門の声を聞きつけて、次元はようやく唇を離しました。
    「何だよ。良いところじゃねぇか」
    「思い出した。神社は閉まる時間がある。ルパン達はともかく、神社には早く行かねばなるまい」
    「いや、あそこは夜だって開いてるぜ。順調に飯作りも進んでるだろ。少し位こうしてたって構わねぇさ」
    「神社は開いているが、社務所は早く閉まる筈だ。今はこのようなことをしている時間はない」
     真正面からしばらくの間見つめ合っていた二人でしたが、五右ェ門のあまりに真剣な表情を見ているうちに、次元は肩を震わせ笑い出してしまいました。
    「そうだな。今日のミッションはお参りだ。さっきからお前が仕方ねぇことばかり云うからつい手が出ちまった。危ねぇ」
     そう言うと五右ェ門の乱れた髪を撫で整えて、コンロに火を点けながら再び自分の髪も軽く結って、鍋を揺すり出しました。蛤の口もまだ開いていませんし、吸い物の味を調えねばなりません。するとしばらくして、背中合わせの五右ェ門から調理の音に埋もれそうな程に小さな、それでもはっきりとした声が聞こえてきました。
    「···続きは夜だ」
     気付かれないようにほんの一瞬振り返って見れば、酢飯をかき混ぜる五右ェ門の首元は赤く染まっています。それに手を伸ばせばまた元の木阿弥になることは分かっているので、次元は何事もなかったかのように鍋の方へ向き直りました。一つ二つと蛤の口が開いていきます。それを眺めながらビロードのような優しい声で返します。
    「期待してるぜ」

     急いでお稲荷様に供える分を揚げに詰めた二人は、足早に神社へ向かいました。境内へ続く坂道沿いには、左右に提灯が並び、橙の光がお参りに訪れる人々を歓迎していましたが、七日ともなると参拝客はちらほらとしか居らず、年越しの光景がまるで幻のようです。
     昨秋訪れたときと同じように五右ェ門は手水場まで来ると、「ここで手を洗う」などと細かく声を掛けてきます。それを聞きながら、斬鉄剣を探しに来た晩、本人はいないのにまるでそこにいるように全ての言葉が順々に再生されていったことが思い出されました。以前訪れた際も、説明など真剣に聞いていた訳ではありません。けれど知らず染みついていたのか、あの晩は、浮かぶ言葉たちが、まるで五右ェ門がそこにいるかのように導いてくれたのです。
    「どうかしたか」
     手を濡らしたまま動きの止まった次元に手拭を渡しながら、五右ェ門は促すように参道を歩き出しました。
    「いや、お前がオレの守護天使ってヤツかと思ってな」
    「何の話だかさっぱり分からぬ」
     拭いて返された手拭を懐に仕舞いながら、怪訝な顔を向けると、次元は片眉を上げて答えます。
    「だろうな」
     元より神など信じていない次元は、以前どこかで耳にした守護天使などという存在も到底信じていませんが、おそらくはこのような現象のことを指すのではないかと考えました。少し前を歩く五右ェ門の背にはもちろん羽はありませんが、あの夜の自分に聞こえてくる五右ェ門の言葉は、心強い存在でした。神や天使などという存在が不確かなものより、日頃から自分が信じているもののほうが、余程信じられる気がします。
    「お前さんは頼りになるって話さ」
    「そんなことは今更だろう。互いにそうではないか」
    「お前が有事の際には、オレの声が聞こえりゃ良いんだがな」
     またしても、不思議なことを言い出したとばかりに五右ェ門は眉を顰めながら亀の棲む池の横を通っていきます。亀の存在を確認するかのように眺め渡す五右ェ門の姿を次元が見ていると、ぼそりと五右ェ門が呟きました。
    「そうだな」
    「何だ?」
    「その時聞こえるのは、お主の声であろう」
     独り言のように五右ェ門は発すると、今度は葉を落とした銀杏の大木を見上げました。日が落ちた薄闇を背景に、枝の端々が黒い影となって浮かびあがる様を仰いでいます。凪いだ水面のように穏やかな横顔は、それら自然のものたちと一体化してまるで違和感はありません。次元は自分が場違いの存在であるような気すら覚えました。それでも髪をふわりと靡かせながら振り向いて「今日は空いていて良かったな」と和らいだ顔で五右ェ門が言うと、絵のような世界は現実になりました。
     本殿のお参りを済ませた二人は、隣の社へ向かいます。次元としてはここへの参拝が本来の目的のようなものです。本殿はまだ少し賑わいもありましたが、傍らのこちらは小さく、生い茂る木に埋もれている為ひっそりと静まり返っていました。向かい合うお稲荷様の石像の中央にあるお神酒の横にはお供えを置くのに誂え向きの皿があり、そこに先程作ったいなり寿司を並べてから二人は目を閉じて手を合わせました。いつもならば適当に済ませてしまう次元も、今回ばかりは真剣です。そして神様、というよりも目の前の狐の像に胸の中で先月の礼を伝えます。いくつかの偶然が重なり、化け物と対峙したのは結局自分でしたが本来危ない目に合うはずだったのは隣で手を合わせている五右ェ門です。腕の強さは充分理解している、それでもそれだけではどうにもならないことがあることを良く知る次元は、こんなことが役に立つのか分からないながらも祈ってみる他ありません。途中、片目を開けて確認すると五右ェ門はまだ真面目な顔つきで目を閉じています。伏せられた睫毛の落とす影が見られる距離にいつでも居られる訳もなく、またそんなことは望んでいません。
     ならば、何を望むのか。目を閉じ、あれこれと浮かぶ言葉を選り分けるうちに、それは自然と明白になりました。ごくシンプルなことです。明白になってみると、昨年から抱えていた重たい物がゆっくりと解けていくようでした。
     ···さて、五右ェ門はというと随分と長い時間顔を上げない次元の珍しい姿に驚きながら、そういえばここにいなり寿司を持ってくることを提案したのも次元だったなと思い当たり、それもまた珍しいことだと気が付きました。ひとつひとつは良いことですが、今更ながら、何故突然訪れる気になったのだろうと気に掛かり、それはそのまま表情に現れました。
    「···そろそろ行くか?」
     五右ェ門の声で次元が顔を上げ、時計を見ると社務所が閉まる時間まであと少しです。目を閉じていた間に夜は一層濃さを増したようでした。
    「急がないとな。何か要るんだろ?どうした、そんな顔して」
     浮かない顔で歩き出す五右ェ門とは対照的に、次元はすっきりとした顔をしています。

     社務所で五右ェ門が、いくつかの中から見定めて手に取ったのは淡い藤色をした小袋に入ったお守りでした。それを買い求めると、外で一服をしていた次元に手渡します。
    「オレにか?」
    「うむ。先日はお主が拙者に用意してくれたからな。渡そうと考えていた。···それに、何か気掛かりなことがあるのであろう。こういった物でも少しは力になるやもしれん」
     お守り袋はだいぶ小ぶりなもので桜の模様が織り込まれていました。自分には些か可愛らしすぎる代物に思えましたが始終真面目な五右ェ門の事ですから、熟考の末選んだに違いなく、選ぶ横顔を浮かべれば愛しさが増し、次元はぎゅっと手の中のお守り袋を握りしめました。手のうちに完全に収まるそれは、何ということもないただの布ぶくろで、何より心配の種である相手から心配されるという捩れに可笑しさを感じながらも、真剣な表情で見つめてくる恋人を前に心が動かされない訳がありません。
    「ありがとな」
     礼を告げる声は自分が思うよりも余程優しく響き、こんなにも長い付き合いにも関わらず未だに調子を狂わされてしまうことに密かに驚きました。次元が内心そのようなことを考えているとも知らず、五右ェ門は張り詰めていた表情を和らげ、小さく頷きました。
     そうして二人はすっかり暗くなってしまった参道を歩き出しました。
    「お主の腕には何も心配しておらぬが、それだけでは儘ならぬ時もあるからな」
     したり顔で言う五右ェ門に、それはこっちの台詞だと次元が呆れていると、内ポケットに入れていた携帯電話がけたたましく鳴り出しました。見ればルパンからの着信です。
    『お前ら、どこほっつき歩いてんのよ。飯楽しみに急いで帰ってきたってのに、油揚げに米詰めてない作りかけしかねぇじゃねぇか。泥棒でも入ったのかと思ったぜ。不二子と二人で腹空かして待ってんだからな。早く帰って来いよ!』
     隣にいる五右ェ門にまで響くルパンの声に、二人は顔を見合わせました。こちらから詫びとして声を掛けた以上、ルパンの怒りはもっともです。けれど、いつもわがままの多い二人が腹を空かせて待っている姿を想像すると、それはそれで少し楽しいような気がして、悪い悪いと言いながら次元は一方的に通話を切ってしまいました。
    「急いで帰らねばな」
    「この距離を急いだってたかが知れてるさ。それに空腹は最良の調味料って言うだろ。少しくらい待たせときゃ良い」
     暗がりに乗じて、堂々と腰を抱こうとする次元の手首を掴むと五右ェ門は緩やかに走りだし、坂を下りました。本気ではありませんが、元々足の速い五右ェ門のこと。何の心の準備もなく、突然走らされた次元は着いていくのに精いっぱいで、すぐに息が上がります。
    「おい、そんなに急ぐこたねぇよ」
    「食い物の恨みは恐ろしいと云うからな。ルパンはともかく不二子が面倒だ」
     追われてもいないのに走るなんていつぶりだと呆れながら手を引かれ駆けている内に、ふと笑いが込み上げてきて、気が付けば走りながら笑い出していました。日頃の不摂生の所為でただでさえ息が切れるのに、笑うと一層苦しく、それでも止めることが出来ません。横を見れば軽やかに進む五右ェ門も、どこか嬉しそうです。
    「それに走れば寒がりのお主でも温まるだろう!」
    「もっとスマートな温まり方ってモンを教えてくれよ」
     楽し気な五右ェ門の声が白い息となって流れてゆくのを目で追いながら、次元は飛ばされそうになる帽子を空いている方の手で慌てて押さえました。穏やかな時間を映したように凪いだ紺の空には、小さな星々がちらちらと瞬いています。
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    ねむおか

    DONE二月の次五です。大変遅くなった上に何を書いてもネタバレになってしまいそうなのでキャプションらしいキャプション書けず、すみません。ハッピー次五です!

    ※出来れば読まれた後にこちらご覧ください※
    お気付きになられたかと思いますが、オマージュしております。力不足ですがオマージュ元の作品は全て大好きです。気を悪くされた方いらしたらすみません。
    雪見抄(二月のカノン) 冷たい冷たい二月の夜空には、零れ落ちんばかりの星がチカチカと瞬いていました。
     その中を真っ白い息を吐きながら、次元は急いで帰ります。二月に入ってからというもの、この辺りは雪続きで、昨晩も遅くまで降り続いていました。慎重に進まないと道端に残るたくさんの雪に足を取られるので、急ぎ足ながらも慎重に歩を進めます。どれだけ頑丈な靴を履いていても足裏にはひんやりと冷気が伝わり、寒さが苦手な次元は一歩進むごとに震えるような心地でした。けれど、もうあと僅かで家に着くのです。それを思えば深い濃紺に星を散りばめた夜空を映したように、気分は落ち着き、澄んでいきます。家に帰れば暖かな五右ェ門が待っているのです。
    「帰る家が暖かいってのは良いモンだな」
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    ねむおか

    DONE1月の次五です。
    箸休め回です。ご飯作ったりお参りしたり、いつもと同様、ただ緩くてラブい次五です。12月のお話とつながっている部分もあるのでこれだけ読むと少し「?」かもです。すみません。ぱろくで出てきた単語から浮かんだものが出てきますが、こちらの連作は特段ぱろくを想定して書いているものではないので、お読みいただく際はご自身のお好きな次五ちゃんで想像いただけますと幸いです。
    一月は凪 年が明けてまだ間もない時刻、アジトにはいつもの四人が顔を揃えていました。
     五右ェ門の打った蕎麦で年越しをすると聞きつけ、珍しく年越しの時間を共に過ごした不二子でしたが、美味い蕎麦で満たされ次元の揚げた天ぷらに舌鼓を打ちルパンとっておきの酒で程よく良い気分になり、後は寝るだけです。
    「泊まっていけばいいじゃねぇの」
     呂律の怪しいルパンが留めるのも聞かずに、不二子はあっという間に帰り支度を整えてしまいました。
    「またね」
    「またねって···つれねぇんだからなぁ。もう。だったらタクシー拾うところまで送らせてくれよな」
    「ならば、拙者も行く」
     五右ェ門からの珍しい申し出に、不二子はブーツに足を通しながら尋ねました。
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