Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    sakesalmon_sake

    @sakesalmon_sake

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    sakesalmon_sake

    ☆quiet follow

    星埜さんの天才絵を元に書かせていただいた学パロ童猗窩
    狛治と猗窩座が双子だったりする

    クラス会は欠席で◾︎クラス会は欠席で



    「猗窩座殿はさ、俺が卒業したら寂しい?」

    あの時、俺はなんと返事をしたのだったか。「そんなこと無いに決まっている」「お前が寂しいんだろう」「寂しいと言って欲しいのか?」大方そんなところだろう。自分の発言はまるで記憶がないというのに、「そうだね」と笑う夕陽に照らされたあいつの顔は、声は一年経った今も俺の脳に焼き付いて離れないのは何故なのだろう。



    まだ少し肌寒い季節に童磨はこの学校から出ていった。卒業という表現は何処かあいつには合わない気がして、他の雑多な連中と肩を並べまるで"普通"の人間のように大人しくしている姿を見たくなくて、俺は当日式には参加しなかった。童磨が煙草を吸うのに付き合ってよく足を運んだ屋上で寝転がっていると、体育館の方からそれらしい音楽や声が聞こえてきて、それすらも何だか嫌でイヤホンを両耳に突っ込み再生ボタンを押せばシャッフル機能が選んだのは童磨がオススメ!とかなんとか言って勝手にダウンロードした曲だった。何をしても、どこに行っても、童磨、童磨、童磨だ。それだけこの学校で過ごした二年間あいつと一緒にいたのだなと柄にもなくおセンチな気分になってみるが、人生十七年のうちのたった二年の出来事にこうも脳内をかき乱されるのも馬鹿らしくなりそのまま昼寝を決め込むと、次に目を覚ました時にはあたりはオレンジ色に包まれて校内に残っている生徒は俺だけ、という状況になっていた。
    当たり前だが、俺が式に参加しなくとも、あいつに最後の別れの挨拶などを告げなくとも物事というのは滞りなく進んでいく。童磨は男女問わず人気があるし、写真やら告白やらボタンやら、きっと大忙しだったことだろう。俺がいなかった事に気付いたとしても探す程の暇は無かったはずだ。あの日、童磨を照らしていた美しいオレンジ色が、今は"あいつは何よりも俺を優先してくれる"だなんてそんな淡い期待を燃やし尽くす炎のようにすら思えた。

    外音を遮断していた音楽を止めようとスマホを見ると、見た事の無いほどの通知が表示されていて思わずメッセージツールを開いてしまった。その大半ら童磨からの「どこにいるの?」「家?」「片割れくんから登校はしてるって聞いたけど」「おーい」などという大量のメッセージであったが、一時間程前にきていた「会いたくない?」「会いたくなったら連絡して」というもので連絡は止まっていた。
    会いたくなったら、ってなんだ。いつだって俺は別にお前なんかとは会いたくなくて、勝手に隣にいて、勝手についてきていたのはお前の方じゃないか。何だか無性に腹が立ってトークルームを削除する。ブロックはしなかった。出来なかった。何か緊急の用があった際に困るからと自分に言い訳をして、表示名を「馬鹿」に変えて、とりあえずそれでいいにした。



    ◾︎

    あれから季節がひとつ変わり、ふたつ変わり、みっつ変わっても、「馬鹿」のトークルームが表示されることは無かった。当たり前だが、童磨の家の近くを通ってもあいつがベランダで煙草を吸っている姿は無く、女物の服が干され出して次の入居者が入ったのだと頭が理解してからはその道を通る事すらやめた。少しずつ、少しずつ俺の周りから童磨が消えていく。教室にいても、目の前にいつもいた姿は朧気な記憶となっている。あの時の「俺が卒業したら寂しい?」という問いが、ふと頭に浮かぶが、これがそういう事なのかと考えそうになり振り払うように頭を振る。「知るか、そんなもの。」そう呟いたのは、なんのためだったのか。
    スマホだって機種変したからケースを変えなくちゃいけなくて、「お揃いでつけよう!」と無理矢理につけられたストラップもケースごと机の引き出しの中だ。付け替えようと試みてうまく外せなくて嫌になった、ということは無い。決して。それに新しい型が出たら安くなる一つ前の機種を買う俺と違い、最新機種を好むあいつのことだ。古いケースと共に捨ててしまっているだろう、どうせ。
    学校でも俺が杏寿郎にべったりでも引き剥がそうとする者はいないし、杏寿郎も童磨がいなくなってからはなぜだか少し優しくなった。杏寿郎、と呼んでも「煉獄先生だろう」と咎めつつも俺の顔を見て「誰かに頼る事も覚えろ」とか言う。その優しさがなんだか居心地が悪くて、木の葉が赤く染まりそして落ちる頃には杏寿郎の傍には行かなくなっていた。また、童磨がひとつ、ふたつ、みっつ、消えた。

    マフラーが必要になる頃、俺の進路が決まった。スポーツトレーナーになりたくて、専門のAO入試を受けてみたらあっさりと合格してしまったので、まわりが受験勉強に苦しむ中一人心穏やかな日々を過ごすことになった。
    クラスメイトの単語暗記やら練習問題選びやら色々と協力してやってはいるが、そこまで頭の出来が良い方ではないものだから正直内容は全く頭に入ってこない。そういえば親にも狛治にもなんなら恋雪にも「あの猗窩座(さん)が一番に進路を決めるなんて」と驚かれたりもした。身内とはいえ失礼すぎないだろうか。恋雪に「童磨さんに連絡した?」と言われたが、何を、何故、連絡するのかがわからず「しない」とだけ答えた。そういえば恋雪の口から、というか他の奴ら含め「童磨」という名前を聞いたのは、あいつがいなくなった日ぶりだな、と思った。それだけ周囲に気を使われていた事に今更ながらに気付くが、気付いたからといって何か変わるわけでもない。だってもう童磨は俺の中にはほとんど残っていないし、あいつの中にだって俺は欠片も残っていないだろうから。

    クリスマス、大晦日、お正月、狛治と恋雪のセンター試験、バレンタインと、十二月から二月までの月日の流れはあっという間で、気付けば三年生は自由登校になっていた。自分がその対象になってからわかった事だが、童磨は自由登校だったというのにわざわざ毎日学校に来ていたらしい。余程家にいたくなかったのか、暇だったのか。引越しの準備を手伝えと言っていたわりに随分と時間を持て余していたように思える。
    思えば、この一年は童磨と過ごした日々を童磨以外との日々で上書きしていく一年だった。あいつがいてもいなくても変わらないなんてことは無かったが、ほんの少しだけ心に穴が空いたような気持ちも残っていたが、それでも無事、これからの人生においてあいつがいなくても過ごしていけるようにする為に必要な期間だったのだろう。一年という歳の差が、学年の差があって本当によかった。


    そして、今日俺はこの学校を卒業する。

    入学してから一度もきちんとしめられたことのないシャツのボタンとネクタイを「最後ぐらい」と狛治とともにお互いに締め合い、息苦しさに顔を見合せて笑う。

    「いよいよ、制服も最後だな」
    「ようやく、の間違いだろう」

    練習通り式は進み、式辞やらなにやら硬っ苦しいものもどうにか寝ずに終え、無事に俺は、俺達は卒業をしたらしい。卒業生、在校生の入り乱れた体育館や校庭はかなりカオスな状況になっていた。杏寿郎に挨拶をしたら何故だか物凄く泣かれてしまったし、後輩である炭治郎にも手紙のようなものを貰い、なんだかむず痒くなる。ただ三年間通っていた場所を卒業するというだけで、こんなに祝われるというのも不思議な気持ちだ。クラス会は追って幹事から連絡が入るとのことだったのでまだ挨拶回りに忙しそうな狛治と恋雪を置いて先に帰ろうと、校門を出たところで思い切り腕を掴まれる。有段者である俺にそんなことを出来る人間など、限られている。腕を掴まれたまま後ろ回し蹴りをすれば、それを避けるために手は離れ、そしてお互いに向き合うことになる。

    「第二ボタンの予約忘れてたんだけど、まだ間に合うかな?」
    「お得意様には自動予約のサービスを行っているから安心しろ」
    「俺、お得意様だったの。嬉しいなぁ」

    どんなに周りからなくなっていっても忘れなかったその声が、心地よく鼓膜を震わせる。じわりと眼球に膜が張るのは決してこいつのせいではなく、こいつの手にあるスマホに見覚えのあるストラップがついているからでもなく、ただまわりの感傷的な空気に酔っているだけだ。そうに違いない。こいつはそんな俺を眺めて呆れたように笑いながらゆっくりと口を開く。

    「……俺が卒業してから、寂しかった?」
    「全然」

    ブチと音を立て引きちぎった第二ボタンを、思い切り投げつけた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏💘🙏💴💴💴💴💴👍💘😭🙏🙏👏💖💒💯💒💯💒💯💒💯😭😭😭😭🙏🙏🙏💍💒💞💯💒😭😭😭🙏💘💘💘💘💘💘💐🌸🌷🎓🌸🌸🌸💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works