「ねえ、これからどこ行くの?ここら辺治安あんまり良くないよ?案内してあげようか?」
最悪だ。
知ってはいたが、来たことはなかった彰人の行きつけの店があるらしいビビットストリート。店の場所を決して言わない彰人に対し、だったら自力で探し当ててみせると息巻いて家を出てからまだ一時間も経っていない。
ナンパなんてされなれているが、ここは道一本挟んだ大通りとはどことなく雰囲気が異なる。その雰囲気に当てられて、私の体は硬直してしまっていた。
「あ、ごめんねー怖がらせちゃったかな?君可愛いからさ、一人でこんなとこ歩いてると心配で」
などと白々しく二人組のチャラい男達は私に話しかけてくる。大丈夫だ、いつも通り視線を逸らして「大丈夫です」と足早に立ち去るだけ…。でも、どこに?お目当ての店はまだ見つかっていない。どころかまだこの通りに足を踏み入れてから数分しか経っていない。ここで振り切っても、今度は別の人に絡まれるかもしれない。
っていうか、高校生だけでこんなとこ来てんじゃないわよバカ彰人…!
「それにしても可愛いねー。モテるでしょ?彼氏いる?」
……彰人の馬鹿。
行きつけのお店くらい、教えてくれたって良いじゃん。
何で彰人の大切な場所に、私は行っちゃいけないの。
「…一人で大丈夫です。それに…あんた達にナンパされる為に、私は可愛くしてる訳じゃない」
「…は?」
ああ、もうやだ。
全部彰人が悪い。
何でこんなことに、
「その子、俺の連れなんだけど?」
ふ、と横から聞きなれない声がした。派手なメッシュに、チェックのシャツ。私より少し年上だろうか。
誰?思わず眉を寄せるも、ナンパ男達は驚愕の表情を浮かべている。
「なっ、遠野新…!?」
「ここの通り、初めてだから迷っちゃったみたい。大丈夫だった?……えなちゃん?」
とおのあらた、と呼ばれたその人は私ににこりと笑みを向ける。急に声をかけてきた点ではナンパ男達と変わらない筈なのに、そのゆったりとしたトーンは私を安心させた。
「え?えっと…」
「と、遠野の連れだったんだな…じゃあ俺達はこの辺で…」
と、そそくさと男達は立ち去ってしまった。
助けてくれた、のだろうか。そうだとしたら有難いけれども、この人は誰なんだろう。そして、何で私の事を。
「君、彰人くんのお姉さんだよね?皆が話してるの聞いた事ある」
センター街辺りで一緒に歩いてるのも見たことあるよ、と。
「そうだったんですね。助けてくれてありがとうございます…とおの、さん?」
「タメ語でいいよ。それと、新って呼んで欲しいな。名字って呼ばれ慣れなくて」
「じゃあ…新くん?」
「うん」
彼は嬉しそうにはにかんだ。